公開講演会「装飾する魂—『ホモ・オルナートゥス(飾る人)』の発見」開催レポート
立教大学
2026/10/23
トピックス
OVERVIEW
立教大学は、青森県立美術館開館20周年記念「装飾する魂 ユーロ=アジア世界をつなぐ文様の宇宙——縄文、ケルトから、ねぶたまで」展に対し、全面的な学術協力を行っています。その一環として2026年7月19日、記念展に連動した公開講演会「装飾する魂—『ホモ・オルナートゥス(飾る人)』の発見」を、池袋キャンパスで開催しました。本講演会では、記念展の監修者や担当学芸員、研究者が登壇し、人間の営みにおける「装飾」の可能性について考察を深めました。
加藤磨珠枝教授よる趣旨説明
講演会の開催にあたり、司会を務める文学部長の加藤磨珠枝教授(文学部キリスト教学科)より、本企画の立ち上げに至る経緯と趣旨が説明されました。
趣旨説明を行う加藤磨珠枝教授
本講演会の企画のきっかけは、青森県立美術館からの1本の電話でした。同館が企画する展覧会「装飾する魂 ユーロ=アジア世界をつなぐ文様の宇宙——縄文、ケルトから、ねぶたまで」に、立教大学図書館が所蔵する「三大ケルト装飾写本※『ダロウの書』『ケルズの書』『リンディスファーンの福音書』」の複製本(ファクシミリ版)を展示したいという依頼が寄せられたのです。加藤教授は単に資料を貸し出すだけでなく、「モノの移動とともに、展覧会に携わる人々が移動し、多くの出会いの場を生み出したい」と考え、この公開講演会を着想したと語ります。この連携はさらなる広がりを見せ、立教学院展示館での関連展示「立教×縄文×青森」展の開催や、土器片を模したクッキー「ドッキー」を作るワークショップ、本学教員によるパントマイムで土偶を表現する「土偶マイム」の上演など、多彩な連動企画へと発展しました。
※三大ケルト装飾写本:初期中世に修道士たちが手書きで制作した、精巧で美しい装飾文様や色彩豊かな挿絵が特徴的な福音書の写本。
加藤教授は、東京一極集中の構造に対し、「文化の中心を東京に置くのではなく、青森を中心に据え、池袋をそのサテライト拠点として機能させる逆転の発想」を提示しました。そして、本展の核となる「装飾(オーナメント)」について、「見た目の美化(デコレーション)とは異なり、階層性や意味、文化的記憶を担う意匠(デザイン)である」と述べ、装飾というテーマを通して時代や地域を超えた人間の根源的な営みを体感してほしいと呼びかけました。
※三大ケルト装飾写本:初期中世に修道士たちが手書きで制作した、精巧で美しい装飾文様や色彩豊かな挿絵が特徴的な福音書の写本。
加藤教授は、東京一極集中の構造に対し、「文化の中心を東京に置くのではなく、青森を中心に据え、池袋をそのサテライト拠点として機能させる逆転の発想」を提示しました。そして、本展の核となる「装飾(オーナメント)」について、「見た目の美化(デコレーション)とは異なり、階層性や意味、文化的記憶を担う意匠(デザイン)である」と述べ、装飾というテーマを通して時代や地域を超えた人間の根源的な営みを体感してほしいと呼びかけました。
青森県立美術館学芸員(統括学芸主幹)高橋しげみ氏の講演
高橋しげみ氏の講演
「北に想う『装飾する魂』」
最初の講演者として、青森県立美術館開館20周年記念「装飾する魂 ユーロ=アジア世界をつなぐ文様の宇宙——縄文、ケルトから、ねぶたまで」展を企画した高橋しげみ氏が登壇。「北に想う『装飾する魂』」と題して展覧会の構想と思想背景を語りました。
2006年に開館した青森県立美術館は、隣接する三内丸山遺跡から多大な刺激を受けながら活動を展開してきました。また、同館を設計した建築家の青木淳氏は「装飾(被覆)」を主要なテーマとして捉えており、本展では青木氏の建築思想と展示空間が響き合う趣向が凝らされています。
最初の講演者として、青森県立美術館開館20周年記念「装飾する魂 ユーロ=アジア世界をつなぐ文様の宇宙——縄文、ケルトから、ねぶたまで」展を企画した高橋しげみ氏が登壇。「北に想う『装飾する魂』」と題して展覧会の構想と思想背景を語りました。
2006年に開館した青森県立美術館は、隣接する三内丸山遺跡から多大な刺激を受けながら活動を展開してきました。また、同館を設計した建築家の青木淳氏は「装飾(被覆)」を主要なテーマとして捉えており、本展では青木氏の建築思想と展示空間が響き合う趣向が凝らされています。
高橋氏は、展覧会を企画するにあたって、社会学者・山内明美氏の『痛みの〈東北〉論』や、展覧会の監修者であり本講演会の登壇者である鶴岡真弓氏の装飾美術研究、そしてドイツの美術史家ヴィルヘルム・ヴォリンガーの『抽象と感情移入』に感銘を受けたエピソードを紹介しました。
最後に、展覧会での展示内容について紹介しました。西の極みで生まれたケルトの装飾写本から始まり、棟方志功とケルト文様の巡り合い、北方民族の衣装や道具、さらには日本の縄文とアイルランドの巨石遺跡に共通する渦巻文様(うずまきもんよう)まで、ユーラシアを横断する1万キロの旅がダイナミックに構成されていると説明。そして、展覧会の大トリを飾るのが「ねぶた」です。青森の人々にとっては身近な存在であるねぶたですが、「装飾」という文脈の中で見た時に、新たな魅力が浮かび上がってくるのではないかという思いが芽生え、展示を決めたエピソードを語りました。
最後に、展覧会での展示内容について紹介しました。西の極みで生まれたケルトの装飾写本から始まり、棟方志功とケルト文様の巡り合い、北方民族の衣装や道具、さらには日本の縄文とアイルランドの巨石遺跡に共通する渦巻文様(うずまきもんよう)まで、ユーラシアを横断する1万キロの旅がダイナミックに構成されていると説明。そして、展覧会の大トリを飾るのが「ねぶた」です。青森の人々にとっては身近な存在であるねぶたですが、「装飾」という文脈の中で見た時に、新たな魅力が浮かび上がってくるのではないかという思いが芽生え、展示を決めたエピソードを語りました。
北海道立北方民族博物館学芸員(学芸主幹)笹倉いる美氏の講演
笹倉いる美氏の講演
「北方諸民族のうずまき文様をめぐって」
北海道立北方民族博物館学芸員の笹倉いる美氏は、「北方諸民族のうずまき文様をめぐって—北海道・サハリン島・アムール流域を中心に」というテーマで講演。同館から「装飾する魂 ユーロ=アジア世界をつなぐ文様の宇宙——縄文、ケルトから、ねぶたまで」展に出品された資料を写真で示しながら解説しました。
笹倉氏はまず、ラテン語の「ホモ・オルナートゥス」という言葉に、「人間とは飾らずにはいられない存在である」といった意味があるという解釈を示しました。極寒の地で暮らす人々が、白いトナカイと茶色いトナカイの毛皮を細かく縫い合わせたり、わずか2ミリ幅の革を用いて精巧なクロスステッチ風の模様を作ったりする事例を挙げ、「暖かさや実用性を超えた『装飾への本能』」の現れではないかと語りました。
講演では、アイヌ、ウイルタ、ニヴフ、ナーナイ、ウリチといった北方諸民族が用いる渦巻文様が取り上げられました。一見すると似通った渦巻文様であっても、民族や地域によってその技法や空間表現は大きく異なります。白樺の樹皮をくり抜くもの、魚のゼラチン質で貼り付けるもの、糸で刺繍を施すものなど、多彩な技法が紹介されました。また、余白を残さず埋め尽くすナーナイの文様の中に龍の鱗や鳥、カエル、トカゲなどの意匠が潜んでいる点など、具体的な視覚資料を用いて解説がなされました。
笹倉氏は、時代の変化とともに素材や表現が変容していく様子を紹介。文様が似ていても各民族にルールがあり、同じ民族内でも文様は作り手個人のものであるとされている旨を説明しました。
北海道立北方民族博物館学芸員の笹倉いる美氏は、「北方諸民族のうずまき文様をめぐって—北海道・サハリン島・アムール流域を中心に」というテーマで講演。同館から「装飾する魂 ユーロ=アジア世界をつなぐ文様の宇宙——縄文、ケルトから、ねぶたまで」展に出品された資料を写真で示しながら解説しました。
笹倉氏はまず、ラテン語の「ホモ・オルナートゥス」という言葉に、「人間とは飾らずにはいられない存在である」といった意味があるという解釈を示しました。極寒の地で暮らす人々が、白いトナカイと茶色いトナカイの毛皮を細かく縫い合わせたり、わずか2ミリ幅の革を用いて精巧なクロスステッチ風の模様を作ったりする事例を挙げ、「暖かさや実用性を超えた『装飾への本能』」の現れではないかと語りました。
講演では、アイヌ、ウイルタ、ニヴフ、ナーナイ、ウリチといった北方諸民族が用いる渦巻文様が取り上げられました。一見すると似通った渦巻文様であっても、民族や地域によってその技法や空間表現は大きく異なります。白樺の樹皮をくり抜くもの、魚のゼラチン質で貼り付けるもの、糸で刺繍を施すものなど、多彩な技法が紹介されました。また、余白を残さず埋め尽くすナーナイの文様の中に龍の鱗や鳥、カエル、トカゲなどの意匠が潜んでいる点など、具体的な視覚資料を用いて解説がなされました。
笹倉氏は、時代の変化とともに素材や表現が変容していく様子を紹介。文様が似ていても各民族にルールがあり、同じ民族内でも文様は作り手個人のものであるとされている旨を説明しました。
多摩美術大学名誉教授・芸術人類学者 鶴岡真弓氏の講演
鶴岡真弓氏の講演
「越境する装飾—ユーロ=アジア世界と福音書写本『ケルズの書』」
最後に登壇したのは、多摩美術大学名誉教授・芸術人類学者の鶴岡真弓氏です。「越境する装飾—ユーロ=アジア世界と福音書写本『ケルズの書』」と題し、情熱的かつ壮大なスケールで装飾の本質を論じました。
鶴岡氏は、装飾とは単なる見た目の付加物ではなく、「宇宙、自然、森羅万象の調べを地上に移す美の術であり、生命循環を祈るアート&デザインである」と定義。また、「装飾する主体は、その装飾によって他者や共同体を照らし、自らも光の照り返しを受けて浄化される」「装飾は、聖なる空間(ハレ)と俗なる空間(ケ)の両方で行われる」と持論を展開しました。
最後に登壇したのは、多摩美術大学名誉教授・芸術人類学者の鶴岡真弓氏です。「越境する装飾—ユーロ=アジア世界と福音書写本『ケルズの書』」と題し、情熱的かつ壮大なスケールで装飾の本質を論じました。
鶴岡氏は、装飾とは単なる見た目の付加物ではなく、「宇宙、自然、森羅万象の調べを地上に移す美の術であり、生命循環を祈るアート&デザインである」と定義。また、「装飾する主体は、その装飾によって他者や共同体を照らし、自らも光の照り返しを受けて浄化される」「装飾は、聖なる空間(ハレ)と俗なる空間(ケ)の両方で行われる」と持論を展開しました。
さらに、三大ケルト装飾写本を描いた中世の修道士たちが、いかにホモ・サピエンス(知恵の人)、ホモ・ファベル(作る人)、ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)であり、そしてホモ・オルナートゥス(装飾する人)であったかに言及。そして、ケルズの書に描かれたギリシャ語のモノグラム「XPI」(キリストの頭文字)の周囲には、無数の渦巻や組紐、動物文様がうごめいていることに触れ、こうした「異教的(ペイガン)」とも言えるアニミズム的・シャーマニズム的文様が、なぜキリスト教の聖なる書物に深く刻まれ続けたのかという謎を提起しました。
その背景には、ウラル山脈などを超えてユーラシア大陸を縦横無尽に交差した「北方の文化潮流」が存在します。アイルランドの巨石遺構に見られる三つ巴文様(トリスケル)や、京都の祇園祭、青森のねぶたの太鼓などに見られる三つ巴の意匠を引き合いに出し、時空を超えて越境する装飾のつながりを示し、講演を終えました。
その背景には、ウラル山脈などを超えてユーラシア大陸を縦横無尽に交差した「北方の文化潮流」が存在します。アイルランドの巨石遺構に見られる三つ巴文様(トリスケル)や、京都の祇園祭、青森のねぶたの太鼓などに見られる三つ巴の意匠を引き合いに出し、時空を超えて越境する装飾のつながりを示し、講演を終えました。
質疑応答
左から笹倉いる美氏、鶴岡真弓氏、高橋しげみ氏、加藤磨珠枝教授
※記事の内容は取材時点(2026年7月取材)のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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