脱炭素社会に向けた現状と課題
社会学部 大倉 季久教授
2026/07/21
研究活動と教授陣
OVERVIEW
地球温暖化による気候変動の深刻化を受け、「脱炭素社会」の実現は世界的な共通目標となっています。各国が温室効果ガスの削減に向けて尽力する中、新たな課題や問題も顕在化しています。これからの環境問題を考える上で大切な視点とは何か、社会学部現代文化学科の大倉季久教授に伺いました。
サステイナビリティの落とし穴
現代の環境政策のベースには、環境保護と市場経済を両立させながら目標を達成しようとする「サステイナビリティ」という考え方があります。ただ、その理想的な状況を永続させることは容易ではありません。日本でいち早くこのサステイナビリティを意識していたのは、1960年代の森林政策でした。戦後の木材需要に対応するために造林を奨励しましたが、当初は山林緑化の意味合いも強かったのです。しかし、経済との両立を図ろうとすると市場競争が生まれ、成長が早くて利用価値が高いスギが各地で植えられました。現在では木材価格が低迷する中、林業の担い手が不足して山林は荒廃していくことになったのです。
サステイナビリティの発想は、自然の保護を目標としつつも、その担い手たちは常に市場競争への適応が求められ、結果、大規模かつ組織的に効率を追求する形で自然の改変を引き起こしがちです。近年のメガソーラーの問題などでも同様の傾向は散見され、環境を保護するための合理的な発想が、かえって自然破壊を引き起こす可能性もあるのです。
サステイナビリティの発想は、自然の保護を目標としつつも、その担い手たちは常に市場競争への適応が求められ、結果、大規模かつ組織的に効率を追求する形で自然の改変を引き起こしがちです。近年のメガソーラーの問題などでも同様の傾向は散見され、環境を保護するための合理的な発想が、かえって自然破壊を引き起こす可能性もあるのです。
脱炭素を巡る世界の情勢
脱炭素社会への取り組みは「2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする」というパリ協定(2015年採択)のもと、日本企業もその目標に向けた変革が求められています。とりわけ協定の採択後は取引先に対してCO2排出量等のデータ開示を求めるグローバル企業も増え、各国の相互監視の中で、サプライチェーンから締め出されることがないように、各社は脱炭素の世界的潮流を強く意識した努力を続けている最中です。
そうしたかいもあって日本国内の温室効果ガス排出量は緩やかな減少傾向にありますが、世界全体ではなかなか排出を削減できていないのが現状です。これには、近年の戦争が引き起こしている相次ぐ石油関連施設の炎上や、エネルギー価格の上昇がもたらす影響も見逃すことができません。
そうしたかいもあって日本国内の温室効果ガス排出量は緩やかな減少傾向にありますが、世界全体ではなかなか排出を削減できていないのが現状です。これには、近年の戦争が引き起こしている相次ぐ石油関連施設の炎上や、エネルギー価格の上昇がもたらす影響も見逃すことができません。
「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量」(環境省)を元に作成
環境問題を読み解く現場の知
気温や降水量の推移をグラフで追うと、事態は徐々に悪化しているように見えるのですが、実際には危機はある日突然やってきます。近年、ゼミの学生たちと行っているフィールドワークの中で「去年まで収穫できていた果樹が、今年は急に枯れてしまった」という光景をたびたび目にするようになりました。収穫が突然ゼロになり、収益の機会が絶たれてしまうのです。
昨今の環境問題はいわゆるフェイクにあたる情報が溢れる一方で、一切合切の自然の変化を地球温暖化に結び付けて捉える風潮も根強く、その実態がますます見えにくくなっています。問題を理解するためには、何より現場を見て、実際に問題を経験する当事者に出会い、人びとの具体的な行動に学ぶ姿勢が大切です。本学には、立教サービスラーニング(RSL)をはじめ、豊富な体験学修の機会がありますので、学生にはぜひ参加してほしいと思います。
昨今の環境問題はいわゆるフェイクにあたる情報が溢れる一方で、一切合切の自然の変化を地球温暖化に結び付けて捉える風潮も根強く、その実態がますます見えにくくなっています。問題を理解するためには、何より現場を見て、実際に問題を経験する当事者に出会い、人びとの具体的な行動に学ぶ姿勢が大切です。本学には、立教サービスラーニング(RSL)をはじめ、豊富な体験学修の機会がありますので、学生にはぜひ参加してほしいと思います。
大倉ゼミのフィールドワークの様子
大倉教授の3つの視点
- サステイナビリティを永続させることは容易ではない
- 企業が努力する一方で世界全体の温室効果ガス排出量は減っていない
- 環境問題を理解するには現場での体験を通した学びが重要
※本記事は季刊「立教」276号(2026年4月発行)をもとに再構成したものです。バックナンバーの購入や定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点(2026年2月取材)のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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プロフィール
PROFILE
大倉 季久
博士(政策科学)。桃山学院大学社会学部准教授を経て2021年より現職。「環境政策論」等の科目を担当し、「サステイナビリティ・スタディーズ」をテーマとしたフィールドワークを行う。研究キーワードは、森林、環境社会学、経済社会学など。著書に『森のサステイナブル・エコノミー—現代日本の森林問題と経済社会学—』(晃洋書房)など。
大倉 季久教授の研究者情報