「規制のあり方」を軸に健全な市場の姿を探る

法学部国際ビジネス法学科 早川 雄一郎准教授(大学案内2027)

2026/05/07

研究活動と教授陣

OVERVIEW

法学部国際ビジネス法学科の早川 雄一郎准教授に、ご自身の研究テーマについて伺いました。

公正な競争を守る経済法

公正で自由な競争は、健全な市場と豊かな消費生活を支える土台です。競争が適切に機能すれば、企業は商品やサービスの質を高め、価格も適正に保たれます。しかし現実には、独占やカルテル、不当表示といった行為が繰り返され、消費者の利益を損なっています。近年はデジタル化の進展に伴い取引形態が多様化し、国境を越えるオンライン取引や、SNSを通じた宣伝など、新たな課題も浮上しています。規制の網をすり抜ける事例も増え、制度の柔軟な見直しが求められています。

こうした社会課題に向き合うために有力な法律の一つが「経済法」で、法学部国際ビジネス法学科の早川雄一郎教授の研究テーマです。
「経済法は、企業や市場の動きを法律というフィルターをとおして見る学問です。事例の背景には必ず人や組織の意思決定があり、それを理解することが面白さの一つです」と話す早川先生は現在、オーストラリア・メルボルン大学ロースクールに滞在し、国内外の制度や執行のあり方を比較研究しています。「海外に滞在すると、日本の制度の長所や弱点が立体的に見えてきます。制度の違いは文化や歴史の違いとも密接に関わっており、それを理解することは今後の改革を考えるうえで不可欠です」とも語ります。

偶然の出会いから専門へ

高校時代、幅広い分野に関心を持っていた早川先生は、将来の選択肢を広く残すために法学部へ進学しました。当初は国際政治にも興味を持ち、政治学系サークルで活動していましたが、転機は3年の秋に訪れます。空き時間に偶然受講した経済法の講義が、進路を決定づけたのです。授業はユーモアを交えながらも緻密で、経済学の視点を活かした法の分析、企業戦略や業界構造に迫る事例紹介が次々と繰り出されました。「経済法は企業活動や産業の仕組みに直結しています。それまで法律は遠い世界だと思っていましたが、授業で紹介される事例を調べるうちに、『この分野なら、自分の好奇心を刺激し続けられる』と感じました」

大学院ロースクールを修了し司法試験に合格後、弁護士として1年半勤務。同時に博士課程で研究も進め、実務と学問を並行しました。
「弁護士の仕事はやりがいがありました。依頼者の問題を直接解決し、成果につなげる達成感があります。一方で、私は一つのテーマを時間をかけて掘り下げ、制度の背景や国際比較を通じて新しい視点を見つけ、研究することに強い魅力を感じました」

その後、研究に専念する道を選び、2018年には企業による市場排除行為の規制をテーマとした著書『競争者排除型行為規制の目的と構造』(商事法務)を出版。2017年からは立教大学で教鞭をとり、景品表示法や消費者保護にも研究の幅を広げています。

生活と密接に結びつく研究

景品表示法の研究では、食品ラベルや広告表現など日常生活に密接に関わるテーマを扱います。ラベルに記載されたひとことや写真一枚で、消費者の選択が変わることも少なくありません。近年はオンライン上の消費者保護も重要なテーマで、2024年には日本経済新聞で「デジタル時代の消費者保護」をテーマに連載しました。
「論文ではテーマを絞って深く掘り下げますが、新聞は毎回完結させなければなりません。多くの人に『自分の生活に関係がある』と感じてもらえるよう、事例や表現を工夫しました」

例えばステルスマーケティングの規制について、日本ではメーカーや販売業者は対象ですが、広告代理店は処分の対象外。課徴金の範囲も狭く、抑止力は限定的です。アメリカでは広告代理店を直接処分する場合もあり、その分規制効果が高いといわれます。
「国によって制度の柔軟性や執行の強さが異なります。日本でも悪質な行為に対しては、より実効性のある制度が必要だと感じています」

法律から社会を読み解く

「法学研究の魅力は、法律をとおして社会の多様な領域に触れられること」と早川先生は言います。
「独占禁止法の事例を追えば、自動車、IT、食品などさまざまな業界を知るきっかけになりますし、新しい技術やビジネスモデルの動向を学ぶことにもつながります」

一方で、日本の規制は海外に比べ執行力が弱く、違反によって得られた利益を十分に剥奪できない場合があります。
「悪質な不当表示には厳しい制裁を、一方で軽微な違反には過度な負担をかけない—このバランスをどう設計するかが重要です。私はこの“強弱のつけ方”を長期的な研究テーマとしています」

授業では独占禁止法を中心に、学生が具体的なビジネスの場面を想像しやすい事例を多く取り上げています。さらに、国際ビジネス法学科には、英語のみで学位取得が可能な「グローバルコース」もあり、国際的な制度や文化の比較が学びの広がりにつながることを伝えています。
「法律を学ぶことは、社会の仕組みを知ることです。経済法は消費者・企業・市場の関係を立体的に理解する視点を与えてくれます。技術革新や社会の変化に応じて新しい課題が現れるため、常に“今”と向き合う学問だといえます」

メルボルンでの日々も、日本の制度を国際的な視野から見直す好機となっています。偶然の出会いから始まった経済法への関心は、今も深まり続け、次世代の学びへとつながっています。

早川 雄一郎

法学部国際ビジネス法学科准教授

2006年京都大学法学部卒業。同大大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。2017年より現職。2024年よりメルボルン大学ロースクールアジア法センター客員研究員も務める。

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