家族の多様な形をサポートする心理教育プログラムとはどういうものですか?

現代心理学部心理学科 家族心理学 山田 哲子 准教授

2018/10/09

研究活動と教授陣

OVERVIEW

山田哲子准教授は、心理学の中でも比較的新しい分野である「家族心理学」を専門とする。理学部との協力によるブランディング事業では、離婚を経験する家族への心理教育プログラム“FAIT”の効果研究に取り組んでいる。

「家族心理学は、家族をお父さん、お母さん、きょうだいなどで構成されるひとつのシステムとして捉える心理学です。例えばお母さんがママ友と楽しくランチをしたあとにニコニコと夕飯を作っていると、家族も何となく良い気分になるというふうに、家族は互いに影響し合うところがあります。また、家族に起きた大きな出来事が個々に影響を与える場合も。そうしたライフイベントの中で『離婚』に特化しているのが、FAITという家族心理教育プログラムです」

恩師である故・中釜洋子先生から受け継いだ書籍は、研究へのいい意味でのプレッシャーに(左)。FAITの共同研究者たちとまとめたリーフレットは、プログラムの要点をわかりやすく伝えるもの(右)。

FAITは、アメリカで開発された“FIT(Family in Transition)”プログラムをもとに、日本に合う形に修正を重ねて完成されたものだ。山田先生は大学院時代から、その共同研究の一員として深く関わっている。

「ブランディング事業が『健やかさと多様性』をテーマにしていることから、家族には多様な形があっていいんだと当事者を支えるFAITの効果研究を、このブランディング事業における家族心理学の研究テーマとして行うことにしました。心理学のインタビューやアンケートによる調査に加え、生体指標を用いる理学部のアプローチで心理療法や心理教育プログラムの効果を検証できるのは、ありがたいことだと思っています」

離婚はあくまで夫婦間の問題で、 親子の問題と一緒にしないという気づきを促したい。

「必要とされている方にFAITプログラムを届けたい」と山田哲子先生。研究室で。

日本版のFAITプログラムは通常、2日間で実施される。その参加前・参加後に参加者の唾液を採取し、ストレス度合いを測定。終了後に行うインタビュー調査などと併せ、参加者にとってプログラムがどんな体験かを検証する。

「これまでの研究では、離婚した人たちが集まって話すグループワークで、離婚直後で先行きがわからず悩む人が、離婚して長い期間を経た人と話すことで先々の不安を解消した例もありました。個人的に感じてきたプログラムの有効性が、生体指標とインタビューで明らかになると面白いですね」

日本では現在、3組に1組が離婚していると言われる。その9割が当事者間だけで別れる協議離婚であり、全体の6割は未成年の子どもがいる家庭。そのため、離婚後に子どもの面会交流や養育費で揉めるケースが少なくない。

「FAITは離婚前後の親子関係に焦点を当てるのですが、離婚は本来夫婦間の問題であり、親子の問題と一緒にしないということを大切にしています。そこで、お子さんや親御さんをいかに支援していくか。離婚は子どもとの関係に悪影響を及ぼすなどと決めつけず、多様な家族の形のひとつだという気づきにつながればと思っています」

カウンセリングで最も大事にしていることは、 クライアントさんを好きになることです。

臨床心理士としてカウンセリングの実践も多い。「どんな家族に生まれ、どんなライフイベントが起きたか」と、その人の背景をも考え、掘り下げていく。

「『あなたに私の気持ちはわからない』とクライアントさんから言われることもありますが、同じ経験をしていなくても寄り添っていく。学生時代の恩師から教えられたのは、カウンセリングではクライアントさんを好きになることが重要だということでした」

研究者として、何らかの普遍性や共通性を見出すこともある。しかしカウンセラーとして大切なのは、目の前の人の個別のニーズを重視することだ。

「100人が100人全員に高く評価してもらえることはないと思いますが、一人でも多くの方にプログラムの良さを知ってもらい、必要なところに届けたい。狙っていた効果が得られたとわかったとき、大きなやりがいを感じます」

お守り替わりのブレスレット。立教大学着任時に校章と同じマークのパーツを探し、加えた(左)。子どもの頃から好きだった『美少女戦士セーラームーン』グッズの印鑑入れが机周りに(右)。

「人の心の動き」や「家族」への興味が 研究へのモチベーションになっています。

カウンセリングでは、「あの出来事が嫌だった」と話していたクライアントが「あれにはこんな意味があったのかもしれない」と、“語り”を変えることがある。山田先生は高校生のとき、「私にも誰かの役に立てるなら」と臨床心理士を目指すようになり、大学で心理学を専攻した。

「心理学の勉強がとにかく楽しかったです。そこで先生から『生まれた家族は選べない。選べないその家族の中で苦しむことがある。そして“自分はこんな家族は作らない”と決めて新しい家族を作ろうとするけれど、気づけば新しい自分の家族でも同じような問題が起きていたりする』と聞き、“家族”への興味が深まりました」

大学院での恩師(故中釜洋子教授)や、アメリカのFITプログラムを日本へ導入し、FAITプログラムを開発した研究者(白梅学園大学、福丸由佳教授)、そしてその共同研究のメンバーとの出会いがあり、すべてが今の研究につながっている。

「デリケートな問題を扱いますから、カウンセリング技術の向上など、日々勉強です。このプログラムのエッセンスを、離婚を扱う弁護士やカウンセラーなど、専門家に伝えていくことも今後の目標のひとつと考えています」

プロフィール

Profile

山田 哲子

現代心理学部 心理学科 家族心理学 准教授

国際基督教大学教養学部にて臨床心理学を学び、東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻臨床心理学コース修士課程に進学。修了後、臨床心理士資格を取得。同研究科の博士課程に進学し、心療内科クリニックや知的障害者福祉施設の心理士、私立中高一貫校や埼玉県・さいたま市の公立中学校のスクールカウンセラーなどの勤務にあたる。2015年、知的障がい者家族に対するインタビュー研究および心理教育プログラム開発の研究をまとめ、博士(教育学)の学位を取得。2016年4月、立教大学現代心理学部に着任。

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