変革に踏み切り、地域に選ばれるスーパーへ。「諦めない心」の原点は立教に

株式会社マミーマート 代表取締役社長 岩崎 裕文さん

2025/09/25

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

熾烈(しれつ)な競争を繰り広げるスーパーマーケット業界。その中で、近年成長を遂げているのが、埼玉・千葉を中心に関東で80以上の店舗を展開するマミーマート(※1)だ。舵取りを担うのは、3代目社長の岩崎裕文さん。「普通のスーパー」から、他店と一線を画した「選ばれるスーパー」へー。大胆な業態転換に踏み切り、快進撃をもたらしたその手腕は、業界内外から大きな注目を集めている。

生鮮市場TOP セキチュー上尾店

マミーマートの前身は、1959年に岩崎さんの祖父が開業した食料品店「八百清1号店」で、後にスーパーとしてチェーン展開を開始。2代目社長として奔走する父の背中を見て育った岩崎さんは、「子どもながらに『いつか自分も継ぐことになるんだろうな』と思っていました」と振り返る。

青春時代はスポーツ一筋。立教高等学校ではサッカー部に所属し、仲間と共に練習に明け暮れた。本格的に家業を継ぐことを見据え、立教大学経済学部経済学科に進学した後も、勉強の傍ら体育会サッカー部の活動に没頭。毎日のように富士見総合グラウンド※2に通い、汗を流した。

「当時は、元日本代表選手で、後に日本サッカー協会会長を務める田嶋幸三※3さんがコーチをされていた時代。まだ30代と若く、学生と一緒にプレーしながら指導してくれる兄のような存在でした。4年次には東京都リーグ※41部(当時)で優勝したのですが、関東リーグ2部への昇格をかけた入れ替え戦で敗れ、あと一歩届かなかったのが心残りです」

一方で、立教ならではのリベラルアーツ教育は、学部の枠にとどまらない多様な学びへ導いてくれた。

「特に印象的だったのは、動物生態学が専門の上田恵介先生(名誉教授)の授業です。埼玉の自然豊かな環境で育ったこともあり、先生の講義は毎回面白くて。今も日本野鳥の会会長を務めるなど、精力的に活躍されている姿を拝見しています」


※1 マミーマート:「マミーマート」「生鮮市場TOP」「マミープラス」などを運営。店舗数は2025年6月時点。
※2 富士見総合グラウンド:埼玉県富士見市にある体育会の専用体育施設。
※3 田嶋幸三:当時、一般教育部保健体育科専任講師。
※4 東京都リーグ(東京都大学サッカーリーグ):2023年に神奈川県大学サッカーリーグと統合し、関東大学サッカーリーグ東京・神奈川が発足。

他店との差別化にこだわった「尖った店」が活路を開く

家業を継ぐ、その前に広い世界を見ておきたいー。そう思った岩崎さんは、大学卒業後に渡米し、サンフランシスコ大学のビジネススクールに進学。2年間の海外生活を、「グローバルなものの見方や、迅速かつ大胆な意思決定の大切さを学ぶ貴重な機会でした」と振り返る。

帰国後は大手小売業勤務を経て、マミーマートに入社。営業副本部長や常務、副社長を歴任するが、当時の業績は決して好調とは言えなかった。

「このままでは先が見えている。根本的に何かを変えなければ、生き残る道はない」

危機感を募らせた岩崎さんは、状況を打開しようと模索。副社長時代には、激安路線や高付加価値路線の新たな店舗展開に挑むも、結果は振るわなかったという。

「今思えば、新しい業態を軌道に乗せるだけの組織づくりが追いついていなかった。まだ若く、気持ちばかりが先行していたのかもしれません」

躍進を支えたのは、「大胆」な決断と「緻密」な戦略

36歳で社長に就任した後も、「抜本的な改革をする必要がある」という覚悟は揺らがなかった。突破口を開いたのは、2019年に新業態として打ち出した「生鮮市場TOP」。「食べることや料理が好きな人」をターゲットに据え、生鮮食品を中心に「食の専門店」を目指した店づくりが顧客の心をつかんだ。さらに、22年からは、「圧倒的地域NO.1価格」を目指し、狭い立地でも出店可能な「マミープラス」を展開。徹底して差別化にこだわった2つの新業態が功を奏し、業績は右肩上がりに。粘り強く試行錯誤を重ねた道の先に、やっと光が差した瞬間だった。

マミーマートが展開するスーパーマーケット「生鮮市場TOP」(左)と「マミープラス」(右)

「広域商圏型の『生鮮市場TOP』と、主に中商圏型の『マミープラス』は、同エリアで共存できるのも強みです。これまでは既存店の改装を中心に進めてきましたが、各店の売り上げは、平均すると改装前の2倍に跳ね上がりました」

一方、以前から注力していた取り組みも実を結び始めた。それが、「スーパーで最も差別化できる部分」と考える惣菜だ。独自の商品開発を続けた結果、全国スーパーマーケット協会主催「お弁当・お惣菜大賞」を12年連続で受賞。25年には、全11部門で入賞という快挙を達成した。

岩崎さんが社員と料理して、食材や食べ方を紹介する社内の食事会

座右の銘は「大胆細心」。大胆に決断しながら、細部にまで神経を行き届かせる。この言葉は、まさに岩崎さんの経営スタイルそのものだ。

「業態転換には『大胆さ』が不可欠ですが、その裏では徹底したリサーチを重ねます。また、『良いものを安く売る』ためには無駄をなくす必要があり、ここでも細やかなマネジメントが欠かせません。この相反する二つを両立させてこそ、お客さまに選ばれる店づくりが実現できると考えています」

「食」を届ける仕事ーその誇りと責任感を胸に

大胆な決断と緻密な戦略で、マミーマートを成長軌道に乗せてきた岩崎さん。これまでの歩みの中で、特に心に残っている出来事を聞くと、「東日本大震災ですね」という答えが返ってきた。

「営業再開後、本部の人間も全員現場に出て店舗を手伝ったのですが、何人ものお客さまから『店を開けてくれてありがとう』と声をかけていただいて。改めて、命をつなぐ『食』を提供する仕事の重みを実感しました」

人は食べたものでできている。だからこそ、我々は品質が良いものを低価格で提供する責務があるー。そう従業員に伝えることも多いという岩崎さんの目標の一つが、「スーパーマーケット業界そのものの価値を上げること」。

「スーパーはいわば『食のインフラ』です。業界全体の価値をさらに高めるために貢献できたらと考えています」

自社については、東京を含む関東一円への出店を増やし、各エリアで「地域一番店」を目指していく。常に挑戦し、達成するまで諦めない姿勢は、「間違いなくサッカーで培われたものだと思います。体力と気力には自信があるので」とほほ笑む岩崎さん。さらに立教時代を振り返り、こう続ける。

「穏やかで人当たりがいい人が多いのが、立教の良さですよね。私は仕事で関わる人とも気さくに接するタイプなのですが、それは高・大の7年間を立教で過ごしたからかもしれません。今でも付き合いのある友人は多く、立教で得た人間関係は大きな宝です」

最後に、経営者らしい視点から、母校と後輩たちへの期待を語ってくれた。

「何よりも、次の時代を担う人に育ってほしいです。周りに流されず、主体的に考えて人生を切り拓く人に期待します。また、起業を選ぶ人がもっと増えてくれるといいですね。教室だけでなく、日常の中にも成長の機会はたくさんあるので、学生の皆さんはぜひ貪欲に学んでほしいと思います」

プロフィール

PROFILE

岩崎 裕文

株式会社マミーマート代表取締役社長
1990年 立教高等学校卒業
1994年 経済学部経済学科卒業

埼玉県出身。大学卒業後にアメリカ・サンフランシスコ大学ビジネススクールへ進学。1996年に修了、MBAを取得。大手小売業勤務を経て、1998年、株式会社マミーマートに入社。取締役営業副本部長、常務取締役経営企画室長などを歴任し、2006年より代表取締役副社長兼業務統括本部長。2008年、代表取締役社長に就任。

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