「移動で人を幸せに。」モビリティ業界の未来を背負う挑戦

株式会社Mobility Technologies代表取締役社長 中島 宏 さん

2023/03/08

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

道端で手を挙げてタクシーを止めようとする竹野内豊さん演じる部長に対し、アプリでさっとタクシーを呼ぶ部下——。「どうする?GOする!」のCMでおなじみの、タクシーアプリ「GO」。予約から配車、支払いまでスマートフォンで完結できる手軽さが好まれ、リリース後わずか2年で1000万ダウンロードを突破。アプリ経由の配車数を大きく伸ばし、苦境のタクシー業界に希望を与える存在となっている。

DX※1の成功事例としても話題のサービスを手掛けるMobility Technologiesで采配を振るのは、中島宏さん。DeNAの執行役員時代にモビリティ事業を新設し、配車アプリを開発。2020年に旧JapanTaxiと事業統合して、新会社の社長に就任した。

※1 DX:デジタルトランスフォーメーションの略語。デジタル技術を駆使して、産業や暮らしをより良いものへと変革すること。

立教大学時代。「逍遙会」での活動の様子

注目される気鋭の経営者。学生時代から明確なビジョンがあったのかというと、「将来のことはほとんど考えていなくて、いわゆる『意識低い系』でした」と苦笑い。その分のめり込んだのは、山と旅のサークル「逍遙会しょうよう」の活動。3年次までは山登りに明け暮れた。

「中高は強豪の剣道部にいたので、大学では気軽にキャンプでもやろうと思い入部したんですが、登山がメインだと後で知って(笑)。やり始めると楽しくなり、30~40キロの荷物をかついで山に登り、10日間ほど過ごす過酷な合宿を繰り返しました」

もう一つ、「やり始めると楽しくなった」のが研究だった。4年次には檜枝ひえだ光太郎理学部教授(当時)のもと、「放射線生物学」の研究に熱中する。

「仮説を立てて実験して、結果を検証し、推論してまた仮説を立てて……というサイクルが純粋に面白かったんです。これは後にビジネスで大いに役立ったので、あのとき叩き込まれて良かったですね」

しかしサークルと研究に没頭するあまり、就職活動ではやりたいことが見つからず、心の底から行きたいと思える会社もない。「ならば自分でつくるしかない」と半ばなりゆきのように起業を考え始めた中島さんは、期間を2年と決め、修行のつもりでコンサルティング会社に入社する。

山登りと同じで、経験を積めば視座が上がり、見える景色が変わってくる

「開き直り」で突破し戦力外通告からMVPへ

期限の2年が経ち、資金や人は集まったが、まだ納得のいく事業プランが描けない。そこで次の修行の場に選んだのが、創業社長の南場智子氏(現会長)率いるDeNAだった。

「当時、社員は90人ほど。周りからは『やめとけ、つぶれるよ』と言われましたが、トレンドになりつつあったインターネット業界は経験しておきたかったし、数年で辞めるつもりで、いいやと思って飛び込んだんです」

ところが、入社早々待っていたのは「暗黒期」。専門用語が飛び交うミーティングの7割が理解できず、的外れな資料ばかり作成。ついには南場社長から「話したくない」とさじを投げられ、プロジェクトから外されかけたという。

「普通は心が折れますよね(笑)。でも、そこで選んだのは『開き直り』。クライアントの前だろうが、なりふり構わず分からないことを全部聞いたんです。するとこれがクライアントに『我々も理解が深まる』と喜ばれて」

開き直りが功を奏し、なんと最終的にプロジェクトのMVPを獲得。その後も退社を申し出るたび慰留され、5年で執行役員に。「丈夫なフィジカルとメンタルを授けてくれた剣道と山登り、そして親に感謝しています」と中島さんは笑みを浮かべる。

さらに、モバゲーのヒットで一躍メガベンチャーとなったDeNAで陣頭指揮を執るうちに、「自分は何に燃えるか」が分かってきた。

※2 モバゲー(Mobage):06年にDeNAが開始した、SNSやゲームを中心としたモバイル端末向けサービス。

「それは利益でも、起業という『手段』でもなく、『世の中の課題を解決する』ことでした。これは山登りと同じで、スキルや役職が上がると、視座も上がってくる。起業起業と言っていた頃には描けなかったビジョンが、ようやく見えてきたんです」

そして15年、新領域の開拓を命じられた中島さんが狙いを定めたのが、交通・自動車の領域。産業全体の課題が大きく、ITの力で解決できる余地がある——。ロジカルな分析の結果だったが、ここでも「やり始めると熱くなる」性格が顔を出す。

「例えば、地方都市で自動運転の実証実験を行うための説明会を開くと、見るからに反対しそうな、こわもてのおじいさんが『いいから明日からやってくれ』と。そこまで困ってるんだ、と使命感に駆り立てられました」

複数のプロジェクトを進行する中で、特に好調だったのがタクシーの配車アプリ事業。同じく配車アプリを手掛けるJapanTaxiと2強の状態が続いたが、業界の未来のために共闘の道を選び、20年、友好的に統合。16年勤めたDeNAを離れ、新会社Mobility Technologiesの社長に就任した。

立教生の「バランス感覚」は大きな武器になる

タクシー産業GXプロジェクト記者会見(22年12月)

こうして生まれたのが、タクシーアプリ「GO」だ。ユーザーと近くを走るタクシーをマッチングするため待ち時間が少なく、アプリ決済で支払い時間も短縮。乗る側の利便性だけでなく、乗務員側の効率化も後押しすることで、人員不足や需給バランスの不均衡に悩む業界を根底から変えつつある。

他にも多彩なモビリティ事業を手掛けるMobility Technologies。今後の展望と、中島さんが見据える社会とは?

「当社のミッションは『移動で人を幸せに。』です。人口増加・経済発展を前提とした旧来のインフラに、あちこちでひずみが生まれています。それを大胆にアップデートして交通不全な状態を解消し、ヒトやモノが安心・安全に移動できる社会をつくりたいですね」

当然、その道のりは平坦ではない。だが、「新しいことを始めるときは、うまくいかない理由を並べる方が簡単。でも結局、誰もやらないから課題が残されたままなんです。だったら、誰かがやらないと」と意欲に燃える。

最後に後輩たちへエールをお願いすると、「立教の礎である聖公会は、カトリックとプロテスタントの間を行く中庸の流派だと教わったことがあって」と前置きし、こう語ってくれた。

「その土台があるからか、立教生はバランスがとれた人が多いんですが、実はこれが大きな武器。私自身、DeNAで東京大学出身、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身といった面々に囲まれながら頭角を現すことができたのは、バランス感覚のおかげ。逆に強みだと認識しないと埋もれてしまうので、ぜひ自覚してほしいですね。立教発の『バランス型人材』が世の中を変えていくことを期待しています」

定期的に開催する日帰りワーケーションの様子

プロフィール

PROFILE

中島 宏

株式会社Mobility Technologies 代表取締役社長
2002年 理学部化学科卒業

埼玉県出身。大学卒業後、経営コンサルティング会社を経て、2004年にディー・エヌ・エー(DeNA)入社。2009年に執行役員に就任し、人事部門・新規事業部門などを統括。2015年よりオートモーティブ領域を新たに立ち上げ、同時に複数の子会社社長を兼任。2019年、常務執行役員に就任。2020年4月、Mobility Technologiesの代表取締役社長に就任。

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