「働く」を変え、世界を変える——志を胸に走り出した現役立教生の若き起業家

株式会社タイミー 代表取締役/経営学部経営学科4年次 小川 嶺さん

2020/11/11

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

経営学部経営学科で学ぶ傍ら、自ら起業し、人々の働き方を変えるスキマバイトアプリ「Timee(タイミー)」を開発した小川嶺さん。短期間で事業を飛躍的に拡大させ、現在約150人(※1)の社員を束ねる小川さんに、起業に至った経緯や今後の展望などを伺いました。

「あ、バイトしよ」。急に時間が空いた女性が、スマートフォンでアルバイトを探し始める——。女優の橋本環奈さんを起用したCMで話題のスキマバイトアプリ「Timee」は、「この時間だけ働きたい人」と「この時間だけ働いてほしい事業者」をマッチングするサービスだ。2018年のリリース後、わずか2年で登録ユーザー数は150万人を超えている。
事業を運営するタイミーがオフィスを構えるのは、池袋の街を一望できるHareza Towerの高層階。

「2020年7月に渋谷から移転しました。立教大学池袋キャンパスも見えるんですよ」

フロアの一角でこう話すのは、小川嶺さん。タイミーの創業者であり、経営学部経営学科4年次に在籍する現役立教生だ。

現在23歳の小川さんは、2017年に会社を設立。名だたるベンチャーキャピタルや投資家から総額36億円超を資金調達し、驚異のスピードで事業を拡大させた。2019年には、世界的経済誌『Forbes Asia』で次世代を担う30歳未満の30人に選出され、大きな注目を集めている。

躍進の理由は、働き手と雇い手、双方のニーズをくみ取ったサービスにある。アプリに掲載する仕事は原則単発。登録すれば、面接なしで好きな時間に働けて、すぐに給与が受け取れる。

「例えば、突然授業が休講になって時間ができた学生が、昼時だけ混雑する飲食店で働くとか。学生は空いた時間で収入が得られ、店舗は必要な人員をピンポイントで確保できます」

人と職場のミスマッチを防ぐため、働く側と雇う側が互いに評価し合うシステムも導入。過去のレビューを参考にした採用の可否の判断も可能である。

人手不足が深刻化する日本だが、「人が足りないのではなく、限りある労働力をうまく生かせていない」。そう小川さんは考えている。

「スキマ時間を活用してワークシェアリングすることで、社会における人手不足を解消し、働き方改革の促進につなげたい。人々の『働き方』と『時間の使い方』を大きく変えるサービスだと自負しています」

起業家への道、その出発点は立教新座中高時代に

高校時代、サッカー部の試合での1コマ

祖父と立教出身の父の勧めで、立教新座中学校の門をくぐった小川さん。もともとスポーツが好きで、当時の夢は「サッカー選手」。中高6年間サッカー部で汗を流し、高校では生徒会長も務めた。

経営学部への進学を決めたきっかけは、高校時代に受講した立教大学のグローバル・リーダーシップ・プログラム(立教GLP)。立教ならではのリーダーシップ教育プログラムで、池袋・新座両高校3年生は、特別聴講生制度を利用して入門科目「GL101」を受講できる。

「企業から出された課題の解決策をチームで提案する授業なのですが、これが楽しくて。ビジネス、経営を専門的に学んでみたいと思いました」

とはいえ起業を明確に意識していたわけではなかったが、高校3年の冬、実業家だった祖父が志半ばで他界したことで、闘志に火がついた。

「曽祖父が創業した乳業メーカーを、祖父の代で畳むことになった。再起をかけていた祖父の代わりに、『いつか自分が世界に小川家の名を残す経営者になる』と心に決めたのです」

発案のきっかけは「自分がほしいサービス」

立教大学の入学式。池袋図書館前にて

そこからの行動は素早かった。立教大学進学後、学内で起業家を育成する学生団体を設立。学部の制度等を活用し、複数の企業でインターンシップを行い武者修行を積んだ。さらに学外のビジネスコンテストで優勝を果たすと、2年次のときにアパレル関連事業を手掛ける会社を設立する。

しかし、待っていたのは挫折。

「周囲からアドバイスを受けて事業内容をアレンジするうちに、本当にやりたいことなのか分からなくなって。迷いのあるビジネスはできないと、撤退を決断しました。起業に向いていないのかもしれない……と落ち込みましたね」

失意の中、小川さんは勉学の傍らコンビニや運送会社など複数の業種で単発アルバイトに励む生活を送る。そんな日々の中で、ふと思った。

「お金を稼ぎたいだけなのに、履歴書を書いて面接を受けて、メールや電話でやりとりして、なんでこんなに面倒なんだ? と。アプリで完結できて、暇な時間をすぐ数千円に変えられる仕組みがあれば、便利だなと思ったんです」

前の事業では、コンピュータプログラムの専門知識がないために、開発を任せたエンジニアとの意思疎通が難しかった。その反省からプログラミング教室に通っていた小川さんは、アイデアを自ら形にし始める。エンジニアを巻き込みながら試作を重ね、2018年8月、「Timee」をリリースする。

発案のきっかけは「自分がほしいサービス」だったが、「人々の働き方、ひいては社会を変える新たなインフラになるという確信はあった」。そのビジョンは投資家の心もとらえ、巨額の資金を調達し、早い段階でCMを打つ「賭け」に踏み切ったことで利用者は増大する。

「出資者の一人、サイバーエージェントの藤田晋社長には『1億円ください!』と直談判しました(笑)。投資は結局『人』に対してするものだと思うので、『世の中のためになるビジネスなんです』と本気で伝えた、素の自分を信用してもらえたんじゃないかと思います」

王手のために、論理的に一手を導き出す

自身も「予想以上」と振り返る破竹の勢いで事業を拡大してきたが、2020年、コロナ禍により主な取引先の飲食業界が打撃を受け、初めて売上が落ち込んだ。経営戦略を見つめ直して小売企業・物流企業からの導入を得た。以前より幅広い業種・職種に対応したことで、売上も堅調に回復している。

経営者としての自分を「大胆な方」だと分析する小川さんだが、なぜ攻めの姿勢を貫けるのだろうか。

「リスクとリターンをロジカルに考えた上での決断なので、迷いはないですね。その判断力は、3歳から続けている将棋で鍛えられたのかもしれません。王手をかけるために複数の選択肢から論理的に一手を導き出すのは、将棋も経営も似ているので」

将棋は認定2段の腕前。多忙な合間を縫って月1回は田中寅彦九段から指導対局を受けており、「義務教育に入れてもいいと思うくらい、学べることは多いですよ」とほほ笑む。

また、経営判断は決してデータだけに頼らない。ポリシーは「自分自身がユーザーであり続けること」。「Timee」開発時はもちろん、その後も自ら定期的に自社サービスを利用し、アルバイトとして現場で働いている。

タイミー創業時のメンバーと共に

「課題や新たなアイデアを見つけるには体験するのが一番早いので、経営者として当然のことをやっているだけ。常にユーザー目線に立ちながら、事業や会社全体を俯瞰して、次の戦略を練っています」

卓越した手腕を発揮し、新時代のビジネスを切り拓く小川さん。しかし、意外にも「組織づくりに関しては昭和的経営者」だと話す。

「一緒にご飯を食べたり合宿したり、ときには遊んだり、家族的なつながりを大事にしています。同じ志を持つ仲間なので、淡泊な関係で終わらせたくない。若手経営者にしては泥臭いかもしれませんが、一致団結してこそ大きなビジョンを達成できるというのが僕の考え」

いまはリモートワークを導入しているが、「全社員とのオンライン1on1を実施するなど、社員とのコミュニケーションを大事にしている」と、ウィズコロナ時においても自身の考えを大切にしていると語る。

立教生は、一緒に働きたいと思える人が多い

もちろん、会社のかじ取りに悩むこともある。でも、「数々の起業家が通った道だと思うと、立ち止まってはいられない」。

「先輩経営者はどう乗り越えたのだろう、と想像するだけで、自分の中で決着がつくことがほとんど。強いて言えば、経営学部の先生方と距離が近いので、助言を頂くことはあります。企業から引く手あまたの教授陣に気軽に相談できるのは、学生の特権かもしれません(笑)」

学部での学びも、ダイレクトに生かされている。特に、ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)。立教GLPの基になっている、経営学部独自のリーダーシップ教育プログラムだ。

「実際の企業に企画を提案するプロセスを通して、ビジネスは自己満足じゃダメだ、世の中のニーズをどう捉えるかが大事なんだと学びました。BLPをもっと活性化したくて、舘野泰一准教授のもとでメンター制度の設計にも携わったんですよ」

経営学部1年次生必修のBLP科目「リーダーシップ入門(BL0)」内で先輩が後輩をサポートするメンター制度は、いまも継続して運用されている。小川さんは立ち上げに関わり、約90人のメンターのマネジメントも担当した。
現在は「会社で実践していることを授業で確かめるのが面白い」といい、「インターンなどで仕事の現場を経験すると、学問の面白さや意義が変わると思う」と同じ立教生にアドバイスを送る。

「社員にも卒業生がいますが、立教には一緒に働きたいと思える、『いいやつ』が多い。周りへの気遣いができ、向上心もあって、経営者としては採りたい人材です。アットホームな大学の規模感や校風が、自然とそういう人を育んでいるのかもしれません」

そして、こう言葉をつなぐ。

「いつか立教大学で授業をしてみたいし、子どもができたら立教に入れたいですね」

スキマバイトアプリの成功は「通過点」

アクセルを緩めず進む小川さんにとって、現状はまだ通過点にすぎない。

「スキマバイトアプリは一つの柱ですが、派生する事業の構想はたくさんあります。例えば、人の『信用』を可視化する相互評価システムのスコアは、アルバイトに限らず企業が採用する際の判断材料になり、さまざまな展開が考えられる。ペイメントの部分でも実績があるので、金融系のビジネスも手掛けてみたい」

さらに、「そもそもタイミーのビジョンは『一人一人の時間を豊かに』。人々の時間をより充実させるために、いろんな方法を提案していきたい」と続ける。

目下の目標は最年少上場だが、その目はすでに世界を捉えている。

「今後は他国でも日本のように少子高齢化が進み、人材不足が課題になる。タイミーが貢献できる大きなチャンスです。まずはアジアで、そして世界で戦える会社になりたいですね」

小川さんいわく、「まだスタートラインに立ったばかり」。だが、この先も揺らがないのは、「ビジネスで社会に貢献する」という信念だ。

「利益追求だけの会社にはしたくないんです。やり遂げたいのは、SDGs※2をはじめ世界が抱える課題への貢献。人々の『困った』を解決できるサービスを生み出し、社会に対して何ができるかを常に考える、志の高い経営者であり続けたいと思います」



※1 現在約150人の社員:アルバイト・業務委託含む。

※2 SDGs:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)。2015年に国連で採択された、2030年までに持続可能な社会の実現を目指す国際目標。

プロフィール

PROFILE

小川 嶺さん

株式会社タイミー 代表取締役
立教大学経営学部経営学科4年次

2013年 立教新座中学校卒業
2016年 立教新座高等学校卒業

1997年東京都生まれ。立教新座中学校へ入学、立教新座高等学校では生徒会長を務め、日本政策金融公庫の高校生ビジネスプラン・グランプリで入賞。2016年、立教大学に入学。17年に株式会社Recolleを設立、18年株式会社タイミーに社名変更し、スキマバイトアプリ「Timee」をリリース。現在、数多くの講演・イベントに登壇する。

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