勝負を制するのは心の強さ——立教時代を糧につかんだ、叡王の座

棋士 髙見 泰地さん

2018/10/19

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

立教新座高等学校在学中にプロ棋士となり、立教大学文学部卒業後、叡王の称号を獲得した髙見泰地さんからのメッセージです。

2018年5月、決勝七番勝負の第4局目を制し、叡王の座に就いた髙見泰地さん。2017年に立教大学を卒業してその翌年、24歳という若さでの快挙。現役最年少のタイトル保持者の誕生だった。加えて、一般棋戦だった叡王戦がタイトル戦に昇格し、竜王戦や名人戦と並ぶ将棋の8大タイトルの一つとなった記念の年に。

2018年6月、叡王獲得の報告を兼ね立教新座中高を訪問。将棋・囲碁同好会の生徒と一局

初めて将棋の駒を手にしたのは幼稚園の頃。父が買ってきたボードゲームのセットにあった将棋に、たちまち夢中になった。小学校に上がってからは、東京・千駄ヶ谷の将棋会館に通い始める。子ども向けの教室で同世代と切磋琢磨する傍ら、大人に交じって対局することも多かったという。神奈川県代表として全国大会に出場するなど、めきめきと頭角を現した。

「将棋はとにかく複雑なゲーム。指し手の可能性は10の220乗通りあると言われていて、羽生善治先生(竜王・十九世名人ほか称号資格保持者)でさえ、将棋の1割も分かっていないとおっしゃっている。そんな奥深さに幼いながら魅了されました」

兄弟子の紹介を受けて石田和雄九段の門下に加わり、小学6年で棋士への登竜門である奨励会に入会して、高校卒業までにプロ入りすることを目標に掲げる。将棋に打ち込める環境を求めて中学で立教の門をくぐった。

「高校受験を気にせず将棋に集中できるからと、親に中高一貫校を勧められて。オープンキャンパスに参加した中で、ここだと直感したのが立教新座でした。広々としたキャンパスや優しく接してくださった先生方が印象的で、伸びやかで自由な雰囲気が自分に合っていると思ったのです」

自宅のある神奈川から新座まで、片道2時間の通学は6年間続いた。「将棋と学業を両立できたのは、立教新座の大らかな校風のおかげです」と当時を振り返る。

「立教新座は、生徒一人一人の個性を認め、一つのことを突き詰める姿勢を尊重してくれます。先生方にはいろいろと配慮していただきました。周りの友人も好きなことを追求し、得意分野に秀でた人が多かったですね」

奨励会には全国から実力者が集い腕を競うが、棋士になれるのはほんの一握り。将棋に心血を注ぎ続けた髙見さんは、高校3年で念願のプロ入りを果たした。

将棋と学業の狭間で鍛えられた 「心・技・体」

高校までに棋士になった場合、大学に進学するケースはごく稀だ。髙見さんは思い悩んだ末、将棋以外の世界に触れたいという思いから進学を決意。小学校の時から歴史が好きで、学びをもっと深めたいという思いから、文学部史学科を選んだ。

プロになると年間の対局数は格段に増え、学業との両立の大変さは中高時代の比ではなかった。「1局勝てば翌週にまた対局が入る。勝てば勝つほど大学の授業に出席できなくなって」。欠席が重なって単位を落としてしまう科目もあり、ジレンマに苦しんだ。

そんな中、思わぬ場所で自身のファンと出会ったこともある。とある授業で、「将棋の髙見先生ですよね」と教授に“逆質問”されたという。

「いつもテレビで見ています、と言われて驚きました。棋士なのに勉強ができないと思われたくなかったので、その先生の授業は必死に受けました(笑)」

とはいえ他の棋士との練習量の差は埋めがたく、同世代の躍進に焦りを覚える日々が続いた。しかし、大学に身を置いていたからこそ得られた気づきもあったという。

「立教大学には本当にいろいろな人がいます。一人一人が異なる価値観を持っていて、話をするたびに新しい発見があり、考え方が変わったことが何度もあります。将棋中心に生きてきた自分には刺激的な経験で、世界の広さを実感しました」

大学を辞める選択肢も度々頭をよぎったというが、諦めずに学び続け、視野を大きく広げたことが、結果的に棋士としての成長を後押しした。

「対局が長時間に及ぶこともある将棋は、単に技術だけで勝敗が決まるわけではなく、体力や気力を含めた『心・技・体』のバランスが大切。極限状態に追い込まれたとき、一呼吸おいて心に余裕を見いだせるかが勝敗を左右します。人間的に大きく成長できた大学での経験は、棋士としての強みになっています」

対局は孤独との戦い 執念で勝ち取った叡王の称号

群馬県富岡市の富岡製糸場にて行われた叡王戦七番勝負第4局。4勝目をあげ叡王に(画像提供:niconico)

立教大学卒業後間もなく、叡王戦がタイトル戦へ昇格するという発表があった。大学を卒業したら本領発揮だと息巻いていた髙見さんにとっては、運命的なタイミング。このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

段位別の予選を順調に勝ち抜き、本戦トーナメントに出場。準決勝を控える頃にはさすがにプレッシャーが心身を締め付け、食欲不振になったという。そして決勝七番勝負が行われた約2カ月の間、感じたのはかつてない孤独だった。

「将棋盤を挟んで対峙するのは相手と自分だけ。他人が介入する余地はなく、自分の力で現状を打破していくしかない。すさまじい孤独感の中、それでも絶対に勝ちたいという気持ちは強く持っていました。タイトルを獲れなかったら旅に出る、と周りに言っていたくらい(笑)。後がないという覚悟で挑みました」

その結果、第4局を終え4勝0敗で堂々優勝。プロ入り7年目で初のタイトルを獲得した。

「率直にうれしかったです。0か1かは全然違いますから。タイトルを手にしていない人は1つ獲るために勝負し続けますが、1つ獲れるとその次を目指せる。今後の棋士人生にも大きく影響すると思います」

叡王戦終了後、対局を観戦していた師匠の石田九段と(画像提供:niconico)

画像提供:niconico

叡王戦を終えた後には、師匠の石田九段からこんな言葉を掛けられた。

「『タイトルを取った棋士は、重みに押しつぶされてしまう人と、経験を糧に地位を築いていく人がいる。髙見くんには後者になってほしい。さらに成長する棋士になってくれ』と。ずっと心に残っています」

現在、髙見さんは解説者としての一面も持っている。動画配信サービスでは、長時間の生放送の解説を担当することも。棋士としての知識・経験と巧みなトークを駆使して将棋の面白さを伝え、多くのファンを獲得している。

「大学に行かなければ、ここまで明るく喋れなかったと思います。先生や友人と会話したり、討論したりする機会が多かったので、コミュニケーション力が鍛えられました」。さらに、解説の仕事に積極的に取り組むのはこんな理由もあると続ける。「強い棋士同士の対局を素早く説明し、時には次の手の予想をする。解説をしていると、自分の勉強にもなるんです」

これまでは若手棋士の中の一人だったが、いまやタイトルホルダーとして良くも悪くも注目を集める。そんな状況の中、群雄割拠の将棋界でどれだけ戦えるかが次の試練だ。次期叡王戦ではタイトル防衛に臨む髙見さんに、今後の意気込みを尋ねた。

「周囲からの視線や重圧に負けず、自分の指す一手一手に自信を持って成長し続けたいです。次の叡王戦については、防衛を成功させたいという気持ちよりも、決勝戦で強い人と指せるという楽しみの方が強いですね」

プロフィール

PROFILE

棋士 髙見 泰地さん

2009年、立教新座中学校卒業。2012年、立教新座高等学校卒業。2017年、立教大学文学部史学科卒業。
2011年、高校在学中に四段に昇段しプロ入り。2018年、叡王戦七番勝負を制し叡王の称号を獲得し、規定によって七段に昇段。一般棋戦やタイトル戦に臨む傍ら、動画配信サービスでの解説でも人気を博している。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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