平和・コミュニティ研究機構Rikkyo Institute for Peace and Community Studies

さまざまな角度から平和構築にかかわる研究活動を行うとともに、大学院科目も提供しています。また、研究書の刊行、継続的な講演会の開催など、学内外に向けた研究と教育への貢献をめざしています。

研究機構からのお知らせ

2017.10.10 平和・コミュニティ研究機構のページをリニューアルしました。
大学公式サイトのデザインを適用し、スマートフォンなどモバイル端末にも対応しました。

当研究機構について

ご挨拶

教育・研究両面での平和学展開を目指して

立教大学異文化コミュニケーション学部
立教大学平和・コミュニティ研究機構代表
石坂浩一
                                                                     
立教大学平和・コミュニティ研究機構(平コミ)は2004年3月に学部・研究科横断的な研究・教育組織として発足しました。平和という課題が今日ほど必要とされる時代はないでしょう。その平和を、社会に根付いたしっかりしたものとして共有、確立させていくために、国際関係はもちろんのこと、地域のあり方、メディアなどの社会のあり方、市民の活動の多様性まで含めて研究して行くことをめざすのが、平コミの役割です。グローバル化、あるいは国際化が語られる中、研究は多様化しているように見えますが、日本社会ではヘイトスピーチなどの排外主義や憎悪感情が高められていることを見逃すことができません。今日的課題に対応することを、研究者も大学も、そして地域も迫られていると思います。そうした対応のためにも、広く国内外の研究者と意見を交わし、その成果を公表していきたいと考えます。また、そうした活動を広く共有していくため、さまざまな公開講演会、映画上映会、研究会、ニュース・レターや紀要の発行などを行なっています。
同時に、その成果を教育において生かしていくため、大学院および学士課程の全学共通総合科目に科目を提供してきています。大学院では、平和学という世界的に認められている分野が、日本で十分に成立していないことを踏まえ、平コミ提供科目を履修することで平和学に触れる機会を提供しています。また、学士課程においては、平和構築のための基本的認識を身に着ける授業とともに、ロシアやパレスチナ、アフリカなど日本で十分に知られていない国際的課題や事情についても、科目を提供しています。
2016年度には、世界的な人の移動のあり方の意義を解明しようとする共同研究の「流動する移民社会」の公開シンポジウム、教室があふれるほどの方がたが来てくださった公開講演会「韓国と日本をつなぐ仕事2-言葉からつながる」など、活発な活動を行なってきました。東北アジアと日本社会の現実を直視しつつ、平コミは一層の活動に邁進していく所存です。
趣旨
<平和>とはつねに人類の希求してやまない課題ですが、半世紀にわたる冷戦の終焉がいわれる現在も、世界は平和への新たな挑戦に直面しており、その認識と対応が緊急の課題となっています。こうしたなか立教大学平和・コミュニティ研究機構は、平和の実現の条件を根本的に捉え、独自の視点から研究すべく、2004年3月開設されました。
私たちは身近な地域レベルから地球的レベルにいたるまで多層的に形成された<コミュニティ>において活動し生活しています。これらのコミュニティには伝統的・閉鎖的なものありますが、市民社会を支える共生的、開放的な諸コミュニティも存在し、それらは相互に影響を及ぼし合い、そのダイナミズムがしばしば世界を動かしています。その重要性を踏まえ、より平等、公正、かつ開かれた多層コミュニティを形成していくことが、持続的な真の平和の構築につながるのではないでしょうか。
これら多層的コミュニティは、政治、安全保障、経済、社会、福祉、歴史、文化などの諸レベルを有し、それらの充足の実現と相互的作用が、平和の条件をなしていると私たちは考えます。コミュニティのそのような構造とダイナミズムを分析、理解し、平和の条件を探求するために、本研究機構は立教大学の全学的な協力の下、また学外、海外の研究者との連係の下、学際的な共同研究を展開します。そして平和実現のための政策を探り、提言することをめざすものです。研究課題の重点としては、世界を見据えつつ、これまで立教大学として実績のあるアジア社会の研究の基づきながら、「アジアにおけるトランスナショナル・コミュニティの形成と平和の構築」を当面追究しています。
また研究とともに、大学院教育をも担い、平和・コミュニティ研究における若手研究者の育成、支援にもあたります。立教大学の建学の理念である「平和の叡智」を磨き、その成果を生み出すためにも、本機構はこの研究・教育に全力をあげて取り組んでいきます。
2018年度メンバー

代表

石坂 浩一(本学異文化コミュニケーション学部)

運営委員

田島 夏与(事務局長)(本学経済学研究科)
栗田 和明(本学文学研究科)
林 みどり(本学文学研究科)
市川 誠(本学文学研究科)
郭 洋春(本学経済学研究科)
デウィット・アンドリュー(本学経済学研究科)
水上 徹男(本学社会学研究科)
野呂 芳明(本学社会学研究科)
黄 盛彬(本学社会学研究科)
西山 志保(本学社会学研究科)
小川 有美(本学法学研究科)
竹中 千春(本学法学研究科)
カプリオ・マーク(本学異文化コミュニケーション学部)
李 香鎮(本学異文化コミュニケーション学部)
大橋 健一(本学観光学研究科)
杜 国慶(本学観光学研究科)
小長井 賀與(本学コミュニティ福祉学研究科)
萩原 なつ子(本学21世紀社会デザイン研究科)
五十嵐 暁郎(本学名誉教授)
庄司 洋子(本学名誉教授)
勝俣 誠(明治学院大学国際平和研究所)
木村 自(本学社会学研究科)

所員

松本 康(本学社会学研究科)
伊藤 道雄(元本学21世紀社会デザイン研究科)
李 鍾元(早稲田大学大学院)
佐久間 孝正(東京女子大学)
佐々木 寛(新潟国際情報大学)
高原 明生(東京大学大学院)
田中 治彦(上智大学)
林 倬史(国士舘大学)
藤林 泰(大阪経済法科大学、アジア太平洋研究センター)
浪岡 新太郎(明治学院大学)

外部評価委員

上村 英明(恵泉女学園大学)
吉原 和男(元慶應義塾大学)

特任研究員

段 躍中(日本僑報社)
石川 晃弘(中央大学)
佐々木 正道(兵庫教育大学)
畑山 要介(日本学術振興会PD)

研究員

金 兌恩(本学兼任講師)
加藤 恵美(本学兼任講師)
前川 志津(茨城大学兼任講師)

RA

澁谷 和樹(本学観光学研究科博士課程後期課程)
板垣 武尊(本学観光学研究科博士課程後期課程)

研究成果

出版物

『東アジア安全保障の新展開』

平和・コミュニティ叢書 第1巻

五十嵐暁郎・佐々木寛・高原明生編著
(明石書店、 2005年)
ISBN:9784750321028
2,500円+税

『平和とコミュニティ-平和研究のフロンティア』

平和・コミュニティ叢書 第2巻

宮島喬・五十嵐暁郎編著
(明石書店、 2007年)
ISBN:9784750326115
2,500円+税

『移動するアジア-経済・開発・文化・ジェンダー』

平和・コミュニティ叢書 第3巻

佐久間孝正・林倬史・郭洋春編著
(明石書店、 2007年)
ISBN:9784750326276
2,800円+税

『地方自治体の安全保障』

平和・コミュニティ叢書 第4巻

五十嵐暁郎・佐々木寛・福山清蔵編著
(明石書店、 2010年)
ISBN:9784750332529
2,400円+税

『平和の再構築は可能なのか?』

平和・コミュニティ研究 No.1

(唯学書房、2005年)
ISBN:9784902225174
2,500円+税

『新たなコミュニティ形成に向けて—アジアとヨーロッパの事例に学ぶ』

平和・コミュニティ研究 No.2

(明石書店、 2007年)
ISBN:9784750326115
2,500円+税

『共生社会への課題——人の移動と参加型開発』

平和・コミュニティ研究 No.3

(唯学書房、2007年)
ISBN:9784902225365
2,300円+税

「村神を巡る信仰実践から見る民衆ヒンドゥー教の実相-北インド、U.P.州ワーラーナシー県の事例より」

RIPCS Working Paper Series No.1

小松原秀信
(2009年)
100円

「観光事業と地域開発の展開と諸問題-復帰後沖縄の振興開発と海洋博に関する政策史的吟味」

RIPCS Working Paper Series No.2

上間創一郎
(2009年)
100円

「現代中国における都市開発と住民運動-2007年アモイ市の住民運動を事例に」

RIPCS Working Paper Series No.3

武玉江
(2010年)
100円

『日本政治論(岩波テキストブックス)』

関連書籍

五十嵐暁郎著
(岩波書店、2010年)
ISBN: 978-4000289054
2,800円+税

『アジアで出会ったアフリカ人-タンザニア人交易人の移動とコミュニティ』

関連書籍

栗田和明著
(昭和堂、2011年)
ISBN: 978-4812210680
2,400円+税

『ドイツは脱原発を選んだ (岩波ブックレット)』

関連書籍

ミランダ・A・シュラーズ著
(岩波書店、2011年)
ISBN: 978-4002708188
500円+税

『女性が政治を変えるとき——議員・市長・知事の経験』

関連書籍

五十嵐 暁郎 (著), ミランダ・A・シュラーズ (著)
(岩波書店、2012/7/24)
ISBN: 978-4000258388
3,675円+税
ニュースレター

平和・コミュニティ研究機構提供科目

2018年度 大学院提供科目一覧
2018年度 学部提供科目一覧
2017年度 大学院提供科目一覧
2017年度 学部提供科目一覧

イベント・講演会

2018.10.05 - 06 International Workshop on Trust
Date
5– 6 October, 2018

Location
Institute for Peace and Community, Rikkyo University, Tokyo

No one denies the importance of trust in social relationships. Many scholars view trust as extraordinarily important because of its influence on interpersonal and group relationships. Our economic system is in many ways entirely dependent upon trust because if there were no trust there would be no economic transactions. Thus trust has profound implications for interpersonal and social cooperation. As we all know, social systems are becoming increasingly complex and confounded, meaning that trust plays an ever-increasingly important role. Trust becomes a coping mechanism for societal complexity as it helps to overcome the accompanying uncertainty characteristic of a mushrooming globalized social system. Thus, trust has profound implications across contexts for inter-organizational, interpersonal and social cooperation and as a topic of research across academic disciplines.
To connect with and address such global issues, the Institute for Peace and Community Studies at Rikkyo University (Tokyo) is hosting an International Workshop on Trust on the 5th and 6th of October, 2018.The purpose of the Workshop is to offer a collegial atmosphere in which to present current research results, and to discuss and exchange ideas by meeting together in one place during October (the most pleasant of Japan’s seasons).
This International Workshop on Trust will consist of a morning keynote speech on the first day and afternoon sessions for both days, all highlighting current trust research.

Submission and format
Although the number of participants is limited to 40, we invite all researchers on trust to indicate their interest in joining this International Workshop by submitting an Abstract (maximum 250 words, excluding references, tables, diagrams, etc.). All abstracts will be peer reviewed. Successful submissions will be notified around mid-August 2017.

Submission deadline for Abstracts
31st July 2017

Registration fees
5,000 yen, which includes a welcome buffet dinner


Please submit abstracts and any inquiries about participating in this Workshop to the organizer and host, Emeritus Professor Masamichi Sasaki, PhD.
Email: masasaki@tamacc.chuo-u.ac.jp

We look forward to welcoming you to Tokyo!
2018.06.21 豊島区日本中国友好協会設立 30周年記念、日中平和友好条約締結40周年記念、豊島区2019年東アジア文化都市開催地決定記念講演会「池袋とエスニック・コミュニティ」
日時
2018年6月21日(木)18:20~19:50(18:00開場・受付開始)

会場
池袋キャンパス 太刀川記念館3階 カンファレンス・ルーム

対象
本学学生、教職員、校友、一般

参加費
無料

主催
豊島区日中友好協会

共催
社会学部、平和・コミュニティ研究機構、グローバル都市研究所

後援
豊島区

内容
豊島区日中友好協会は 1988年2月に設立され今年30周年を迎えた。区内の中国人住民との交流、ビジネス情報交換、留学生支援など、年間を通して様々な友好・交流行事を企画運営してきた。一方、立教大学は都市型大学として、個々の学部や教員のレベルでも地元・豊島区と多様な協力関係にある。本講演会では、とりわけ中国からの住民が増加している池袋地区の状況について、エスニック・コミュニティの形成、その社会的背景などを説明して、池袋に関わってきた方々がコメントをする。

司会進行:木村 自(本学社会学部准教授)
(1) 開会の挨拶:尾崎隆信氏(豊島区日中友好協会会長)
(2) 来賓紹介
(3) 講師:水上徹男(本学社会学部教授、グローバル都市研究所所長)
(4) コメンテーター:段躍中氏(日本僑報社編集長、ジャーナリスト)、野呂芳明(本学社会学部教授、社会福祉研究所所長)
(5) 閉会挨拶:松本 康(本学社会学部長)
2018.05.25 公開講演会「欧州における外国人家族の保護と日本の在留特別許可比較」
講師
児玉 晃一 氏

日時
2018年5月25日(金)18:20~19:50

会場
池袋キャンパス 14号館5階 D501

対象
本学学生、教職員、校友、一般

参加費
無料

主催
平和・コミュニティ研究機構

共催
APFS(Asian People’s Friendship Society)

内容
-在留特別許可に係る市民懇談会による公開報告および基調講演-
日本では外国人住民の在留特別許可を限定的にしか認めないため、家族の一部が在留を認められても一部は国外退去を強いられるという不条理な対応が続いている。これに対し、ヨーロッパでは移住者の家族の結びつきを認める対応がとられるようになってきている。外国人住民の支援をしてきた弁護士が、ヨーロッパ人権裁判所における事例などを紹介する。

【講師略歴】
児玉 晃一 氏
東京弁護士会、外国人の権利に関する委員会委員(2008年度委員長)、関東弁護士会連合会、外国人人権救済の権利に関する委員会委員(2006~2007年度委員長)、移民政策学会事務局長(元共同代表)、全件収容主義と闘う弁護士の会、ハマースミスの誓い代表
(主要著作)
・『在留特別許可と日本の移民政策——「移民選別」時代の到来』(共著・明石書店2007年)
・『非正規滞在者と在留特別許可』(共著・日本評論社2010年)
・『市民が提案するこれからの移民政策』(共著・現代人文社2015年)
・『移民政策のフロンティア』(共著・明石書店2018年)他
2018.01.18 日中国交正常化45周年記念事業基調講演:公開講演会「日中間の民間交流と北京日本学研究センター」
講師
笠原 清志

日時
2018年1月18日(木)18:30~20:00

会場
池袋キャンパス 太刀川記念館3階 多目的ホール

対象
本学学生、教職員、校友、一般

参加費
無料(※事前申し込みの必要はありません。学内・学外問わず参加可能です。)

主催
平和・コミュニティ研究機構

共催
豊島区日中友好協会

国家レベルの交流では難しいことが、民間での交流によって展開されることがある。大平学校からスタートし、35年の歴史を刻んだ北京日本学研究センターの歴史を取り上げ日中の民間交流のあり方を考える。

【講師略歴】
笠原 清志
本学名誉教授、跡見学園女子大学教授、北京日本学研究センター主任教授
【学位】社会学博士(慶應義塾大学)
【著書】『ユーゴスラビアにおける自主管理制度の変遷と社会的統合』(博士論文、時潮社)、『産業化と社会的統合』(駿河台出版)、『参加的組織の機能と構造』(監訳、時潮社)、『企業戦略と倫理の探求』(監訳、文眞堂)、『貧困からの自由』(監訳、明石書店)、『社会主義と個人』(集英社新書)等
2017.12.07 公開講演会「韓国と日本をつなぐ仕事3 新大久保で韓国と日本をつなぐ」
講師
金 根煕 氏(キム・クンヒ)

日時
2017年12月7日(木)18:30~20:30

会場
池袋キャンパス 10号館2階 X204教室

対象
本学学生、教職員、校友、一般

参加費
無料(※事前申し込みの必要はありません。学内・学外問わず参加可能です。)

主催
平和・コミュニティ研究機構

新宿区新大久保のコリアンタウンは、いまや海外からの観光客も訪ねてくるほどの有名な街になりました。韓国料理店やグッズの店が軒を連ね、ハングルの看板が当たり前の街。でも、1980年代には新大久保がこのように変貌するとは誰にも想像ができませんでした。南北朝鮮や韓日の和解の道を探るために1980年代に日本に留学した金根煕さんは、韓日共生を身をもって実践すべく「韓国広場」を創業し、東京に暮らす人びとにとって韓国の食べ物をぐっと身近にしました。そうして今日まで、新大久保に根付いて事業を広げてきました。その夢あり、喜びあり、また辛さもあった日々を振り返っていただくとともに、韓国と日本をつなぐ仕事をめざす人びとにヒントや励ましをいただければと思います。是非ご来場ください。

【講師略歴】
株式会社韓国広場代表取締役社長
金 根煕 氏(キム・クンヒ)
韓国出身。1985年に日本に留学、一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。1993年に新大久保で韓国食品スーパー「韓国広場」を創業。次いで97年にコリアプラザ、2000年に韓国料理「高麗」、03年に韓国伝統工芸品「仁寺洞」を開業し、新大久保でのコリアンタウン形成の草分けとなる。「日韓友情に貢献する企業」を企業理念に掲げる。

研究・研究者紹介/書評

書評:栗田和明編『移動と移民 — 複数社会を結ぶ人びとの動態』(評者:立教大学観光学部 豊田由貴夫)

書評:栗田和明編『移動と移民 — 複数社会を結ぶ人びとの動態』昭和堂2018

本書は、人の移動を研究するに際して、新たな視点を提供しようとするものである。これまで人の移動すなわち移民や移住の研究では、ある特定の地域を視点としてそこに移入してくる人々やそこから移出していく人々を研究対象とすることが多かった。このような視点に対して本書は、移動する人たち自体に着目する視点を重要視するものである。これは世界的に人の移動が量的に飛躍的に増加し、移動が多様化したこと、さらには移動した地域で生活を確立している人々ばかりでなく、頻繁に移動を繰り返す人々が増加している現状に対応するものである。
現在、国境を越えて移動する人々の数は毎年12億人を超えると言われ、人の移動はいまや常態化しつつある。そして規模の増大にともなって、そのあり方も多様化している。これまでは職を求めて世界の「中心」とされる地域への移住が多かったが、現在では労働の可能性が広がり、移住の原因も職を求めるだけではなくなってきている。様々な原因で人が大規模に移動し続けているのが現在の社会となっているのである。
古典的な移民研究では、国家の枠組みが明確であったことから、その国にやってくる人たちがどのようなコミュニティを形成するのか、彼らのアイデンティティはどのように維持されるのか、また変化するのかという問題を主として取り扱ってきた。これは国家にしてみれば、移民をいかに包摂するかが重要であったことから、ある程度は当然の帰結であった。国家にとって移民は新たな定住者であり、それをどう扱うかが問題だったのである。
本書では以上のようなこれまでの研究に対して、人の移動を、より常態化したものとしてとらえようとする。このために人の移動を研究する際に、「移民(emigrantあるいはimmigrant)」という概念よりも「移動者(traveler)」という概念を提案している。これは現代社会においては移動することが頻繁になり、移動を終えた人とされる「移民」よりも、絶えず移動を続けている「移動者」という概念の方が適切であろうという考え方に基づいている。
そして頻繁に移動する人々と緩慢な移動をする人々をそれぞれFrequent Travelers、Slow Travelersと位置づけ、特にこのFrequent Travelersに着目しているのが本書の特徴である。Frequent Travelersとしては、地域と商品を限定して小規模の取引を繰り返す交易人(第1章、第9章)や、短期の海外労働を繰り返す人々(第6章、第8章)などが典型的な例にあたり、観光客(第3章)にも適用が可能とされている。Slow Travelersとは、従来「長期滞在者」と呼ばれてきた人たちにほぼ重なるが、長期滞在者も実は潜在的に移動を繰り返す人々と考えられることから「緩慢な(Slow)移動者」という概念を使っている。以上のような概念をゆるやかな共通の枠組みとして本書全体が構成されている。
本書の内容は以下のようになる。第Ⅰ部は移動の普遍性ということで、本書の枠組みとなる概念が見られる中国広州におけるアフリカ人の事例(第1章)と、やはり頻繁な移動者が集う南アフリカのグローバル特区の場合(第2章)、典型的な短期の移動者である観光者(第3章)、そして語学学校に集う宗教者(第4章)を取り扱っている。第Ⅱ部では移動の出発点である故地と移動先での生活の関連が描かれる。社会主義時代の関係からロシアに出来たベトナム人向けの施設とベトナムで増加するロシア人観光客に見られる「複数の移動の方向性」と「移動の暫定性」いう問題(第5章)、韓国の二つの地域におけるアフリカ人滞留者の生活動態(第6章)、ベトナムから韓国へ職を求めて移動した人々の人間関係のあり方(第7章)、中国からまさに労働のためだけに海外へ移動する(させられる)人々の姿(第8章)が問題となっている。第Ⅲ部では、移動先で生活を確立していく人々の姿が描かれる。アフリカ系アメリカ人の文化(ヒップホップ文化)に関連する商売にアフリカ人が関わる様子(第9章)、東京とミラノにおける中国系ニューカマーズと地域社会とのかかわり(第10章)、また海外駐在員を中心とする日本人コミュニティの実態が描かれている(第11章)。
全体の構成は以下のようになる。
第Ⅰ部 移動の広がり
 第1章 人の移動の普遍性—定住者の視点を離れて
 第2章 南アフリカのグローバル特区と移動者
      —市民/非市民の分断と部分的つながり
 第3章 訪日外国人旅行者の訪問先の分布
      —スマートフォンGPSデータの解析より
 第4章 カトリック聖職者のフィリピン訪問
      —養成中の修道者が通う語学学校をてがかりに
第Ⅱ部 移動先と故地
 第5章 「ソーシャリスト・モビリティーズ」の現代的展開
      —ベトナムとソ連・ロシアとの関係を中心に
 第6章 韓国滞留アフリカ人の移動と集合
      —首都ソウルのイテウォンと郊外アンサンの比較から
 第7章 ベトナムから韓国への労働移動
      —ベトナム流コミュニティの形成と改変
 第8章 中国から東アジア諸国への労働「移植」
      —人材募集会社による移住管理システム
第Ⅲ部 移動する者の生活戦略
 第9章 在日アフリカ人と東アジア交易
      —ヒップホップ文化をめぐる人とモノの移動
 第10章 中国系ニューカマーズがもたらす地域社会の変容
      —東京豊島区池袋地区とミラノ市サルピ地区の比較から
 第11章  シンガポールの日本人社会
      ——海外駐在家庭を中心としたエクスパトリエイト・コミュニティ
最初に述べたように、人の移動は現在、その規模が飛躍的に増大し、それと同時にそのあり方はますます多様性を増している。本書の内容を見ても、人の移動にかかわる研究は、今後も多様な広がりを持つ可能性があるのがわかるだろう。今後の人の移動の研究においては、このような多様化する事例の研究とともに、それらを普遍的に扱う理論が求められる。その際に、本書で示されたFrequent Travelers、Slow Travelersの概念が有効になるであろう。

豊田由貴夫

李美淑著『「日韓連帯運動」の時代 1970-80年代のトランスナショナルな公共圏とメディア』(評者:立教大学異文化コミュニケーション学部 石坂浩一)

李美淑著『「日韓連帯運動」の時代 1970-80年代のトランスナショナルな公共圏とメディア』2018年2月、東京大学出版会

第二次世界大戦以前、日本は朝鮮半島を植民地支配して、その地の人びとに人間的関心を抱くことがなかった。日本の敗戦で朝鮮は独立したが、不幸にして東西冷戦のもと、南北に分断され、朝鮮戦争を経てそれは固定化された。2018年に入ってからの劇的展開を見るにつれ、南北双方の政権が誕生してから70年の歳月が何であったのか、考えさせられるが、そのことは今はおこう。
 戦後、1965年に日韓が国交を正常化してからも、日本社会は韓国に関心を持たなかった。しかし、韓国の民主化運動がその状態を掘り崩す重大なきっかけを作ってくれた。それが1970年代以降に展開された日本における「日韓連帯運動」であったと思う。
 著者の李美淑(イミスク)は東京大学大学院学際情報学府博士課程を修了し社会情報学博士を取得した若手研究者である。これまでも本学で朝鮮語や英語の兼任講師として勤務されたが、2018年度から立教大学グローバル・リベラルアーツ・プログラム運営センター助教として勤務されている。
 本書は、1970年代から80年代にかけて展開された韓国の民主化運動とそれに呼応した日韓連帯運動についての初めてのまとまった本格的研究である。これまで日韓連帯運動に関する研究は、柳相栄・和田春樹・伊藤成彦編『金大中と日韓関係』(2013、延世大学金大中図書館)がほぼ唯一のものであるが、これは当事者によるまとめの性格が強い。拙稿「金芝河と日韓連帯運動を担ったひとびと」(杉田敦編『ひとびとの精神史 第6巻 日本列島改造—1970年代』(2016、岩波書店)は日韓連帯運動の始まりと公害輸出反対運動について記録している。このほか、吉松繁『在日韓国人「政治犯」と私』(1987、連合出版)、鄭在俊『金大中救出運動小史』(2006、現代人文社)など当事者による記録や在日韓国人政治犯であった康宗憲『死刑台から教壇へ—私が体験した韓国現代史』(2010、角川学芸出版)の手記がある。だが、これらを受け止めて研究として取り組んだものは見られなかった。
 その意味で、この本が韓国出身の研究者によって書かれたことはとても意味のあることである。本書は、日韓連帯運動がトランスナショナルな活動家たちのネットワークという公共圏の形成であることを論証しようとしている。日韓連帯運動が連帯として成立し公共圏といいうるのは、一方的な情報の流れや支援-被支援ではなく、問題提起-認識の共有-応答というコミュニカティブなプロセスが存在していたからだと指摘する。いいかえれば、韓国の困っている人びとを助けるといった同情とか、韓国の独裁政権はひどいといった高所からの批判とは異なる、他者と自己との関係に対する自覚、解釈、認識の中で具体的な行動を通じて自己のあり方を変革していく再帰的な民主化への過程とみなしうるということである。著者はこのことを、韓国民主化運動の情報発信における日本の活動家、特にキリスト者たちの関わり、そして月刊誌『世界』における連帯の言説を見ることで検討した。また、日韓連帯運動を代表する「日韓連帯連絡会議」がまず掲げたのが、「日本の対韓政策をただす」ことだった事実の重要性を確認している。
 実は私はこの本でも何か所か登場するし、連帯運動の当事者でもあるので、客観的批評という意味ではふさわしくないかもしれない。だが、当事者がこれまで重要なことを記録したり語ったりしきれていない状態であることを踏まえ、私見を述べさせていただきたい。
 著者が情報やネットワーク研究を専攻していることもあるが、日韓連帯運動において情報というのは非常に重要なポイントであった。著者が述べているように、1970年代の日本の社会運動においては、狭山差別裁判反対闘争、成田空港建設反対闘争(三里塚闘争)、そして日韓連帯運動が3大闘争と位置付けられていた。このうち、狭山と三里塚は文字通り状況が日本で公然と進行する中での大衆闘争になっていた。だが、日韓だけは韓国から情報が届き、それをもとに方針を提起できる者が運動を制するという独自の側面を持っていた。今日であれば韓国の情報をすぐ理解できる日本社会の構成員は少なくないが、70年代といえば朝鮮語を理解する人々は、むしろ奇特な存在と見られていたのである。韓国民主化運動は歴史的にいって民衆に寄り添うものであったが、それが世界的に注目されるようになったのも、世界への情報発信が一因だった。ドイツ人記者の光州闘争取材という本書とはやや異なる側面ではあるが、昨年韓国で公開され広く共感を呼んだ映画〈タクシー運転手〉もそうした一端を物語っている。私は韓国の聖公会大学における研究会で2004年に日韓連帯運動についての簡単な報告をし、それが조효제,박은홍엮음『한국, 아시아 시민사회를 말하다』 (2005、아르케 )に掲載されているが、そこでも情報の重要性について指摘したことがある。
 『世界』はTK生「韓国からの通信」を連載して、韓国の状況をいち早く伝達した。また、さまざまな韓国のアピール文、報告を訳出し、日本の状況についても合わせて報告する「ドキュメント 金大中拉致事件」を連載していった。日本の知識人に親しまれた『世界』がこうした作業に多くの力を割いたことの重要性、そして戦前の日本に韓国をたとえる機械的対比のような見方が、誌面において様々な意見を通じて克服されていく経過を本書は跡付けた。植民地支配をとらえ直し、韓国との関係で日本社会のあり方を省みる姿勢を『世界』や日韓連帯運動は日本社会に提起したことが、わかるだろう。もちろん、日韓連帯運動が日韓関係のすべてに取り組み、状況を改善できたわけではないが、時代を画する動きであったことは間違いない。全体として、日韓連帯運動を相互関係の中で発展し、変革を試みようと公共圏を形成していったという論旨は、説得力を持っていると見ることができる。『世界』は日本の進歩勢力のすべてではないが、この時代を象徴する存在として、分析対象にしたことが成功していると思われる。論壇という存在がまだ一定の力を持っていた時代ならではのことである。 
 末尾に、いくつか気が付いたことも指摘しておきたい。和田春樹の著作にはそうした趣旨が出ているが、当時の日韓連帯運動の中で日本人が抱いた韓国民主化運動への共感は、並々ならぬものがあった。「金芝河と日韓連帯運動を担ったひとびと」でも述べたことだが、特にキム・ジハの3・1アピールは大きな衝撃だった。日本の議論には「同情」のレベルのものもあったろうが、ともに自らを解放しようというキム・ジハのアピールを受けて、真剣に韓国を知ろうとした者たちもいて、そこから日本の近代史上初めて、朝鮮語を学ぼうということが社会運動として提起された。この点の重要性は強調してもよかったように感じた。
 本書は「キーセン観光」に反対する女性たちの運動を重要なものとして叙述している。この点は『金大中と日韓関係』で十分触れられなかった課題であった。このほかにも、日韓連帯運動の様々な展開や広がりがあったのであり、その実態や社会的意味も今後、検討してくれればと思う。また、よくいわれる「本国志向」と「在日志向」という二つの流れについては本書で対比的に記述されているが、日韓関係の中での運動的分岐の発生や、二つの課題を統一的にとらえようとした梶村秀樹の問題提起(『朝鮮研究』との議論)も視野にいれることが今後の研究で必要とされるであろう。
 お詫びしなくてはいけない点がある。私自身が証言したことが本書の1ページに出てくるが、刊行後の著者とのやり取りで私が韓国に運んだ映画のタイトルが〈自由光州〉なのに、誤って〈しばられた手の祈り〉と語っていることに気が付いた。大変申し訳なく、著者や読者にお詫びする次第である。〈しばられた手の祈り〉はスライドで、わたしはこの時にスライドも持ち込んでいるので、錯覚したのである。
 本書の143ページの注22で中井毬栄が『朝日新聞』の連載企画「65万人」の担当者であるように記述されているが、これは夫君の故宮田浩人の誤りである。宮田浩人は『世界』で編集部の名前で掲載された「ドキュメント 金大中拉致事件」の筆者でもある。
ハンギョレ新聞の主筆などを務めたキム・ヒョスンは韓国で在日韓国人政治犯とその支援運動をテーマにした『祖国が捨てた人びと』という本を刊行した。遅くなってしまったが、秋にはこの本を刊行する予定で、私たち平和・コミュニティ研究機構では出版に合わせてシンポジウムを行なう予定である。
 日本の連帯運動の当事者が忙しさにかまけているうちに、韓国の研究者がしっかりした仕事をしてくれたことに、改めて感謝を表したい。本書は貴重な研究成果であり、日本でも多くの人々に読まれることを願ってやまない。関連資料の整理や記録作成に、私自身も一層尽力したいと思う。

石坂浩一
(立教大学 平和・コミュニティ研究機構代表)
清水 謙

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