松永ゼミの「埼玉県知事への政策提言と意見交換」実施報告
立教大学現代心理学部
2026/07/28
トピックス
OVERVIEW
2025年11月17日、新座キャンパスで開催された「知事と立教大学学生の意見交換会」は、埼玉県と立教大学との包括連携協定に基づく連携推進の一環として、若者の感性を県政に生かしつつ、学生に生きた学習の場を提供することを目的としています。現代心理学部の松永ゼミおよび砂連尾ゼミの学生が、埼玉県職員のメンタルケアや聴覚しょうがい者への理解促進をテーマに、政策提言を行い、埼玉県の未来について議論を深めました。2025年度で3回目、埼玉県内の私立大学として唯一の開催です。
発表・意見交換のテーマ:職員のメンタル不調者を減らすために
職員間のソーシャルサポートを目的とした部署をまたいで行うスキマヘルプ制度の提案
現代心理学部心理学科4年次(当時) 佐藤一始さん
私は一般企業での勤務経験があり、現在は職場でのメンタルヘルス支援を学術的に探究するため再び学びの場に身を置いています。それゆえ、現場の切実な課題に直結する今回のプロジェクトには強い関心を持って臨みました。ただし、求められているのは行政の既存の枠組みにとらわれない「学生らしい自由な発想」であるはず。そこで、私たちのグループでは自由にアイデアを出し合うブレインストーミングを行いました。
たわいのない思い付きでもいいので多くのアイデアを出そうという方針のもと、20を超える案が出されました。それらを精査して最後に残ったのが、ちょっとした空き時間を活用して部署間での助け合いを目指す「スキマヘルプ」でした。自分の好きな時間に働ける「スキマバイト」をモチーフとして、庁内のWebサイトで何を手伝ってほしいかを公開し、時間がある職員は上司の承認のもとでヘルプに行く、という制度の提案です。スキマヘルプは「数年ごとの定期異動」という県庁ならではの人事システムとも相性がよいと考えました。異動によって多様な部署で経験を積めたり、組織を活性化できたりする利点がある一方で、引継ぎの負担や新たな人間関係の構築といったストレスも伴います。異動直後の不安な時期に前任者の知恵を借りたり、異動前からさまざまな部署の業務に触れて心理的障壁を下げたりできる本制度は、定期人事異動の課題を補完する可能性を秘めています。
さらに提案の説得力を高めるため、私たちは先行研究の知見によってスキマヘルプの有効性を伝えるよう努めました。たとえば、NIOSHの職業性ストレスモデル(※1)などに基づき、部署を越えたサポートがストレス緩和の鍵であることを示しました。ところが、当初は人手やスキルの不足といった「助けてもらう側」の視点に偏っており、この提案がメンタル不調者を減らすというテーマに沿っているか、持続可能な仕組みとして定着するだろうか、という疑念が生じました。そんな中、指導教員である松永先生から「助ける側にもメリットがある」とヒントをいただきました。参考にしたのはデシとライアンが提唱した「自己決定理論」(※2)で、自分の意思で参加を決め(自律性)、スキルを生かして感謝され(有能感)、新しい絆を結ぶ(関係性)。単なる作業の肩代わりではなく、職員の成長と幸福感を生むスキームとしてスキマヘルプを再定義することで、助けられる側だけでなく助ける側のメンタルヘルス向上に資する提案へと進化しました。
※1 米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が、職場環境の要因がどのように心身の健康や疾病につながるかを構造化。
※2 心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが1985年に提唱。
私は一般企業での勤務経験があり、現在は職場でのメンタルヘルス支援を学術的に探究するため再び学びの場に身を置いています。それゆえ、現場の切実な課題に直結する今回のプロジェクトには強い関心を持って臨みました。ただし、求められているのは行政の既存の枠組みにとらわれない「学生らしい自由な発想」であるはず。そこで、私たちのグループでは自由にアイデアを出し合うブレインストーミングを行いました。
たわいのない思い付きでもいいので多くのアイデアを出そうという方針のもと、20を超える案が出されました。それらを精査して最後に残ったのが、ちょっとした空き時間を活用して部署間での助け合いを目指す「スキマヘルプ」でした。自分の好きな時間に働ける「スキマバイト」をモチーフとして、庁内のWebサイトで何を手伝ってほしいかを公開し、時間がある職員は上司の承認のもとでヘルプに行く、という制度の提案です。スキマヘルプは「数年ごとの定期異動」という県庁ならではの人事システムとも相性がよいと考えました。異動によって多様な部署で経験を積めたり、組織を活性化できたりする利点がある一方で、引継ぎの負担や新たな人間関係の構築といったストレスも伴います。異動直後の不安な時期に前任者の知恵を借りたり、異動前からさまざまな部署の業務に触れて心理的障壁を下げたりできる本制度は、定期人事異動の課題を補完する可能性を秘めています。
さらに提案の説得力を高めるため、私たちは先行研究の知見によってスキマヘルプの有効性を伝えるよう努めました。たとえば、NIOSHの職業性ストレスモデル(※1)などに基づき、部署を越えたサポートがストレス緩和の鍵であることを示しました。ところが、当初は人手やスキルの不足といった「助けてもらう側」の視点に偏っており、この提案がメンタル不調者を減らすというテーマに沿っているか、持続可能な仕組みとして定着するだろうか、という疑念が生じました。そんな中、指導教員である松永先生から「助ける側にもメリットがある」とヒントをいただきました。参考にしたのはデシとライアンが提唱した「自己決定理論」(※2)で、自分の意思で参加を決め(自律性)、スキルを生かして感謝され(有能感)、新しい絆を結ぶ(関係性)。単なる作業の肩代わりではなく、職員の成長と幸福感を生むスキームとしてスキマヘルプを再定義することで、助けられる側だけでなく助ける側のメンタルヘルス向上に資する提案へと進化しました。
※1 米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が、職場環境の要因がどのように心身の健康や疾病につながるかを構造化。
※2 心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが1985年に提唱。
提言当日、会場には取材のテレビカメラが入り、大野知事や西原総長、篠崎学部長が居並び、緊張感に包まれた空間が広がっていました。発表後の質疑応答では知事から鋭く本質的な質問が相次ぎ、準備してきた根拠を必死に手繰り寄せ、不格好でしたが自分たちの言葉で回答しました。この厳しいやり取りは知事が私たちを一人前の立案者として真剣に扱ってくださる証であり、実際に今回の提案を参考として制度構築に向けた検討が進められると、後日伺いました。職員のメンタル不調者を減らすという大きな目標に対し、私たちの小さなひらめきが行政を動かす一助になったことは得難い喜びです。この経験を糧に、今後も心理学的視点を持ち続け、働く人々の心を軽やかにできるよう貢献していきたいと思います。
職場のコミュニケーション活性化によるストレス軽減を目的としたコーヒーナップの提案
現代心理学部心理学科4年次(当時) 松戸徳寿さん
提言内容を考えるにあたり、埼玉県総務部職員健康支援課の方が出前講座を開催してくださり、危機管理対応や人事異動といった県庁ならではの課題に加え、ストレスチェックの実施や心と身体の相談事業といったメンタルヘルス対策など、現状と課題について伺いました。この出前講座を受け、私たちのグループは「職場におけるコミュニケーション」に着目して提言を行うことにしました。
すでに県庁内にある施設や制度といった環境を活用するアプローチと、部署異動に伴うストレスを軽減するアプローチの2つの視点から検討しました。埼玉県庁の現状を踏まえて、具体的にどのような施策がメンタルヘルス対策として有効的であるのかを検討するために文献や事例を探し、具体化を目指しました。
しかしながら、どのような施設があり、職員の方がどのような働き方をしているのかといった埼玉県庁という職場の具体的なイメージを持つことができていませんでした。そのため、私たちのグループは実際に庁内を見学させていただきました。見学を通して、県庁ではABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)が導入され、ワークスペースの設置や一部の部署ではフリーアドレス化が進められていることを知りました。また、このような取り組みを積極的に導入している部署の方のお話から、ニーズに合わせた働き方ができる環境が徐々に整備されていることを知ることができました。一方で、個人のニーズに合わせて働きやすい環境になったことで、かえって職場が個別的になりやすいという課題も見えてきました。
県庁では危機管理対応時に長時間労働になりやすく、心身の疲弊と睡眠不足からメンタルヘルス不調を招く恐れがあります。こうした現状を踏まえ、私たちは「コミュニケーションの不足」と「ストレス低減」の双方にアプローチする方策として、「コーヒーナップ」を提言しました。
コーヒーナップの具体的な実施方法としては、コーヒーや埼玉県の特産である狭山茶などのカフェイン飲料を摂取した後、15~20分ほどの短い睡眠を各自で取ることを提案しました。また、週に数回は部署(チーム)ごとに実施することでチーム内のコミュニケーションの活性化を図ります。さらに、年に数回は中庭などのフリースペースで他部署と共に実施し、部署を超えた交流の機会を設けることで、部署異動による負担の軽減も目指す仕組みとしました。
提言内容を考えるにあたり、埼玉県総務部職員健康支援課の方が出前講座を開催してくださり、危機管理対応や人事異動といった県庁ならではの課題に加え、ストレスチェックの実施や心と身体の相談事業といったメンタルヘルス対策など、現状と課題について伺いました。この出前講座を受け、私たちのグループは「職場におけるコミュニケーション」に着目して提言を行うことにしました。
すでに県庁内にある施設や制度といった環境を活用するアプローチと、部署異動に伴うストレスを軽減するアプローチの2つの視点から検討しました。埼玉県庁の現状を踏まえて、具体的にどのような施策がメンタルヘルス対策として有効的であるのかを検討するために文献や事例を探し、具体化を目指しました。
しかしながら、どのような施設があり、職員の方がどのような働き方をしているのかといった埼玉県庁という職場の具体的なイメージを持つことができていませんでした。そのため、私たちのグループは実際に庁内を見学させていただきました。見学を通して、県庁ではABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)が導入され、ワークスペースの設置や一部の部署ではフリーアドレス化が進められていることを知りました。また、このような取り組みを積極的に導入している部署の方のお話から、ニーズに合わせた働き方ができる環境が徐々に整備されていることを知ることができました。一方で、個人のニーズに合わせて働きやすい環境になったことで、かえって職場が個別的になりやすいという課題も見えてきました。
県庁では危機管理対応時に長時間労働になりやすく、心身の疲弊と睡眠不足からメンタルヘルス不調を招く恐れがあります。こうした現状を踏まえ、私たちは「コミュニケーションの不足」と「ストレス低減」の双方にアプローチする方策として、「コーヒーナップ」を提言しました。
コーヒーナップの具体的な実施方法としては、コーヒーや埼玉県の特産である狭山茶などのカフェイン飲料を摂取した後、15~20分ほどの短い睡眠を各自で取ることを提案しました。また、週に数回は部署(チーム)ごとに実施することでチーム内のコミュニケーションの活性化を図ります。さらに、年に数回は中庭などのフリースペースで他部署と共に実施し、部署を超えた交流の機会を設けることで、部署異動による負担の軽減も目指す仕組みとしました。
意見交換会では、大野知事から質問やコメントを受け、若い世代と中高年層とのコミュニケーションギャップなど、私たちの検討が十分に及んでいなかった点に気づきました。今回、政策提言と意見交換会に参加することで、大学での学びを社会の課題解決に結びつけて考える経験ができました。これらを今後の学びや活動にも生かしていきたいと考えています。
現代心理学部心理学科
松永美希教授コメント
松永ゼミでは、個人の認知・行動的要因が心の健康にどのように影響しているのかを理解し、心の健康を維持・増進するためのアプローチについて学んでいます。今回は、「埼玉県庁で働く人々の心の健康をどのように高めていけるのか、不調を防ぐのか」というテーマを通じて、学生たちがゼミで学んだ心理的ストレスに関するさまざまな研究や理論を、実際の職場における問題解決に生かすというプロセスを体験できたことは大変貴重であり、彼らの学びへの意欲をさらに喚起する機会になりました。このような貴重な機会を与えてくださった、埼玉県知事、埼玉県庁の計画調整課や職員健康支援課の皆さまには心よりお礼申し上げます。
松永ゼミでは、個人の認知・行動的要因が心の健康にどのように影響しているのかを理解し、心の健康を維持・増進するためのアプローチについて学んでいます。今回は、「埼玉県庁で働く人々の心の健康をどのように高めていけるのか、不調を防ぐのか」というテーマを通じて、学生たちがゼミで学んだ心理的ストレスに関するさまざまな研究や理論を、実際の職場における問題解決に生かすというプロセスを体験できたことは大変貴重であり、彼らの学びへの意欲をさらに喚起する機会になりました。このような貴重な機会を与えてくださった、埼玉県知事、埼玉県庁の計画調整課や職員健康支援課の皆さまには心よりお礼申し上げます。
※2025年11月17日立教大学新座キャンパスで行いました。記事の内容およびプロフィールは、取材当時のものです。
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