立教のリベラルアーツ教育——人格を陶冶(とうや)する教養とは

立教大学

2024/06/17

トピックス

OVERVIEW

立教大学には創立以来150年に及び、一貫してリベラルアーツ教育に取り組んできた歴史があります。リベラルアーツは一般的に「教養」と訳されますが、単なる「物知り」を意味しているわけではありません。本学が掲げているのは「専門性に立つ教養人」の育成。専門という確かな軸を持った上で、さまざまな学びの分野に触れ、広く深い視野と多面的かつ柔軟なものの見方を養うことを重視しています。このような立教大学のリベラルアーツ教育の歴史と現在、これからについてご紹介します。

座談会

左から理学部教授・教務部長 松下信之、文学部教授 加藤磨珠枝、立教大学総長 西原廉太、名誉教授・元 全学共通カリキュラム運営センター部長 佐々木一也

文系・理系といった学問分野の枠組みにとらわれず、多様な知の世界を横断的に体験する立教のリベラルアーツ教育は、どのように確立され、学ぶ者に何をもたらすのか。西原総長と本学でリベラルアーツ教育に深く関わってきた教員が語り合いました。

リベラルアーツとは何か

西原 初めに「リベラルアーツとは何か」ということについて、立教大学のリベラルアーツ教育を体現する「全カリ※1」の設立検討から導入、運営まで関わられた佐々木先生に解説をお願いいたします。

佐々木 リベラルアーツは、古代ギリシアで生まれ、中世ヨーロッパの大学で導入されていた「自由七科」(文法、修辞学、論理学、算術、幾何学、天文学、音楽)という科目群に起源を持ちます。初期の大学には「神学」「医学」「法学」という3つの専門分野があり、専門教育に進む前に自由七科を共通の知識基盤として身に付けていました。「自由」が付く理由は諸説ありますが、自分の家柄や地位などから解放され、自由人として生きるために教養を磨くことが必要とされていたのだと考えられています。こうして根付いたリベラルアーツ教育は、時代とともに発展しながら近現代まで受け継がれてきました。

日本に西洋の学問が導入されたのは明治維新以降ですが、日本の大学では学部ごとに専門に特化した内容を教えていました。そこから変貌を遂げたのが戦後で、戦争への反省から教育の民主化が課題として挙げられました。それに伴い、旧帝国大学には教養人を育成する役割が求められ、教養教育が大学の中に位置付けられたのです。一方、旧制の私立大学では、「予科」という本科(学部)に進学するための予備教育として幅広い教養を教える場がありました。本学にも予科があり、現在の12号館(池袋キャンパス)の前身は予科の建物だったのです。1949年に新制大学となって、いち早く予科を再編し、1955年に一般教育部を立ち上げました。本学は、一般教育部と学部が一体となって教育を行う数少ない大学の一つだったのです。これが後の全カリにつながっています。

西原 西洋における初期の大学が持っていた神学部、医学部、法学部を卒業した者は、それぞれ聖職者、医者、法律家になります。つまり、人々の精神的、肉体的、社会的な痛みに寄り添う者を育てるために大学があったのです。本学も同じ考えがあり、だからこそ、その前段階として必要なリベラルアーツ教育に注力してきた歴史があります。

※1 全カリ:学生の学びを「全学で支える」という理念のもとに構築された「全カリ運営センター」が運営する、全学部の学生が履修できる「全学共通科目」。言語系科目と総合系科目で構成される。「全カリ」は、「カリキュラム」であると同時に、「運営組織」であり、「教育革新の運動」であるということができる。

立教のリベラルアーツ教育の源泉

西原 立教の礎である聖公会はイギリス国教会にルーツを持つキリスト教の教派であり、同じ聖公会の大学としてイギリスのオックスフォード大学、ケンブリッジ大学などがあります。本学の創立者であるアメリカ聖公会のウィリアムズ主教が卒業したアメリカのウィリアム・アンド・メアリー大学は、オックスフォード大学をモデルに設立された大学です。これらの大学では、自由七科を踏まえたリベラルアーツ教育を重視していました。あらゆる縛りから解き放たれて自由になるための技法がリベラルアーツですが、「職業訓練」が主目的ではないということが重要です。本学の源泉から継承しているリベラルアーツ教育は、「人格の陶冶とうや」に重きを置いているのです。

西洋における初期の大学は主に修道院がルーツとなっています。修道士には「共に祈る」「共に学ぶ」「共に生活する」という3つの勤めがあり、その痕跡がオックスフォード大学やケンブリッジ大学の古いカレッジには残っています。共に祈る空間としてチャペルがあり、共に学ぶ空間として教室や図書館があり、共に生活する空間として学生寮があるのです。こうした設計思想は、1918年に築地から池袋へ移転した際のキャンパスにも生かされています。現在の第一食堂、そして、2号館、3号館はもともと寄宿舎(学生寮)であり、前述した3つの空間があったわけです。私と旧知の仲で、東京女子大学学長の森本あんりさんは自著※2の中で「リベラルアーツの大学であるならば、キャンパスは美しくなければならない」とおっしゃっています。本学のキャンパスは美しいとよく言われますが、確固たる思想に基づいて設計された姿だからこそ美しいといえるでしょう。

※2 『教養を深める人間の「芯」のつくり方』PHP研究所2024年2月発売。

立教のリベラルアーツ教育の特徴

西原 立教におけるリベラルアーツ教育の特徴について、各専門分野の視点も含めて、先生方のお考えをお聞かせください。

松下 私の前任校は東京大学教養学部でした。1991年に当時の文部省が行った大学設置基準の大綱化により、多くの大学が教養教育より専門教育に注力し始めましたが、東大はその流れとは異なり、教養教育を重視する姿勢を崩さなかったのです。その中で感じたのが「学問に対する自由」です。志ある学生は自由に学べる環境に身を置くと、積極的にいろいろな分野を学ぼうとするのです。

今から15年前、東大と同じくリベラルアーツ教育を重視する立教大学に着任した時に「専門性に立つ教養人※3」という言葉にひかれました。東大のようなレイト・スペシャリゼーション※4ではありませんが、専門分野の学びと並行して幅広い教養を身に付けるプロセスが確立されていると感じました。驚いたのが、他学部の授業を履修する容易さ、垣根の低さです。それを実現している全カリは、リベラルアーツ教育を大切にしてきた本学の姿勢を体現するものと感じました。

理学部の教員として、全カリは文系学部の学生に接するチャンスです。私が担当した科目でも真摯しんしに勉強して好成績を残す文系の学生が多くいました。理学部では宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携した科目「JAXA宇宙科学技術講義※5」などロマンあふれるような授業も開講しています。自然科学の分野では、未知の事象にアプローチしても、うまくいかないことが大半です。しかし、仮説と検証を繰り返して真理に近づいていくのが研究の楽しさです。このような姿勢を身に付けることがまさに、リベラルアーツ教育に立脚したサイエンス教育の在り方ではないでしょうか。

加藤 私の専門分野である美術は自由七科に含まれていませんが、リベラルアーツ(Liberal Arts)にアートという言葉が入っています。アートの語源はラテン語の「アルス」で、技術や技能という意味を持っています。これは一つの科目に収まるようなものではなく、自由人になるため、多様な知の分野を結び付け、人間性を高める技術(アートの力)だと考えています。私は長年、美術史という分野に身を置いてきましたが、14年前に本学に着任し、リベラルアーツ教育に触れる中で、幅広い見方が培われた気がします。社会は一つの分野だけでなく、さまざまなもので構成されている。多彩な学びや経験が人をつくり上げる。そういったことを、本学の教員と話したり、全カリの授業を担当したりする中で実感しました。全カリの美術の科目で作品に触れ、例えばマティスの色彩の美しさを知ることで、人生が豊かになっていく人もいます。欧米の歴史ある大学はアートコレクションを保有しているところが多く、それは「異文化と出合うための場所」と考えられているんですね。私も美術史の教員として、できるだけ多くの出合いを提供したいと思っています。その一環として、2023年には本学と森美術館との共同企画に携わりました。森美術館の開館20周年記念展「ワールドクラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」の開催に伴い、立教生が作品解説を作成したり、アーティストと本学教員によるトークセッションを行ったりしたのです。多彩な専門分野を持つ先生方が集まり、学部を超えた強い連携がある本学だからこそ実現できた企画だと感じています。

西原 数学者の藤原正彦さんは「数学にとって重要なのは、論理よりも美を発見する感受性」だとおっしゃっています。こういう考えを本学は、実際に大切にしてきたのではないでしょうか。リベラルアーツはもともと「リベラルアーツ&サイエンス」とも呼ばれていて、サイエンスがとても重要なのです。だからこそ本学には、サイエンスの理学部を設置しているのです。現在、「環境学部(仮称)」の2026年4月新設を構想していますが、リベラルアーツ&サイエンスを体現する新学部として立ち上げたいと考えています。

※3 「専門性に立つ教養人」の育成を立教大学は教育目標に掲げる。
※4 レイト・スペシャリゼーション:大学入学後の一定期間は幅広い分野を学び、その後専攻を決めて専門教育を受ける制度。
※5 「JAXA宇宙科学技術講義」は一部の回を全学部の学生を対象に公開している。
「RIKKYO Learning Style(RLS)」多彩な学び 科目例
※下記以外の科目も数多く展開しています。

第1カテゴリ 人間の探究

・聖書と人間
・ジェンダーとキリスト教
・教育と人間
・哲学への扉
・多文化の世界
など

第2カテゴリ 社会への視点

・入門・経済教室
・日本国憲法
・現代のビジネスを学ぶ
・観光学への誘い
・メディアと人間
など

第3カテゴリ 芸術・文化への招待

・キリスト教美術
・文学への扉
・日本の美術
・音楽と社会
・映像と社会
・舞踊論
など

第4カテゴリ 心身への着目

・心の科学
・身体パフォーマンス
・対人関係の心理
・ストレスマネジメント
・アウトドアの知恵に学ぶ
など

第5カテゴリ 自然の理解

・数学の世界
・宇宙の科学
・化学と自然
・行動の科学
・生物の多様性
・自然と人間の共生
など

第6カテゴリ 知識の現場

・GL201
・国連ユースボランティア
・陸前高田プロジェクト
・RSL-グローバル(フィリピン)(SDGs)
など

立教のリベラルアーツ教育と学生への期待

西原 今後の立教のリベラルアーツ教育や学生に期待することを教えてください。

佐々木 リベラルアーツ教育を大切にしてきた本学の歴史を、学生の皆さんがよく理解して学んでいただければ、うれしく思います。新しい発見をする時はロジカルではないことがよくあります。直感、インスピレーションを養う科目にも力を入れて、クリエイティブな発想力を磨いてほしいですね。専門に特化すると、どうしても型にはまってしまう傾向がありますが、時には型から外れ、新たな気付きを得る体験をしてほしいと願っています。

松下 社会に貢献し、人の痛みに寄り添える人間になってほしいと思います。そういう意味でリベラルアーツ教育はとても重要です。科学には理詰めではないクリエイティブな発想が必要で、真理は常に美しさを伴っています。こうした感覚を、サイエンスを通して磨いてほしいですね。テクニカルなことは後から吸収できますし、短期間で移り変わっていくものです。普遍的なものを大学で学んでほしいと思います。

加藤 人の痛みに寄り添うという精神的・人間的な成長が大切で、そのためには机上で学ぶ授業と実感を伴う経験の両方が重要です。「立教サービスラーニング※6」をはじめ、そのようなプログラムが本学には豊かにありますので、生きていく上での学びにつながればと思っています。

西原 最近、効率よく教養を身に付ける「ファスト教養」というものを耳にします。教養が大切だと認識されてきたのは良いことですが、「ファスト教養」の教授は大学の役割ではありません。また、均質的で品質管理された「人材」を大学4年間で「生産」してほしいという要求を感じることもありますが、大学教育とは工場生産ではありません。教育とは時間のかかる「手仕事」なのです。これからも立教大学は、リベラルアーツ教育を基本に据えながら、専門性に立った教養人を育む大学であり続けたいと思っています。

※6 立教サービスラーニング(RSL):座学と社会の現場での活動を結び付けて学ぶ正課科目。実践系科目として「RSL-コミュニティ(池袋)(埼玉)」「RSL-ローカル(南魚沼)」「RSL-グローバル(フィリピン)」などがある。

西原廉太

立教大学総長

文学部キリスト教学科教授。専門分野は、アングリカニズム、エキュメニズム、組織神学、現代神学。キリスト教学校教育同盟第28代理事長。日本私立大学連盟常務理事

佐々木一也

名誉教授
元・全学共通カリキュラム運営センター部長

1979年東京大学大学院哲学専攻博士課程単位取得退学。1989年立教大学一般教育部専任講師に着任。文学部教育学科教授を経て、2006年に文学科文芸・思想専修を立ち上げる。専門分野は哲学

加藤磨珠枝

文学部教授

2000年東京藝術大学美術研究科博士課程修了。2010年立教大学文学部キリスト教学科に着任。2014年より現職。専門分野は西洋美術史、キリスト教美術など

松下信之

理学部教授
教務部長

1989年京都大学大学院理学研究科修了。東京大学大学院総合文化研究科准教授などを経て、2009年立教大学理学部化学科に着任。専門分野は錯体化学、固体物性化学など

対談 リベラルアーツがもたらしたもの

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立教学院創立150周年を記念して、「総長対談シリーズ」を展開しています。第1弾のゲストはジャーナリストであり本学客員教授の池上彰氏。池上先生は、リベラルアーツをどのように捉えているのでしょうか。

池上 彰
1973年、NHK入局。1994年より『週刊こどもニュース』(NHK総合)初代お父さん役を11年間務める。現在はフリージャーナリストとして活躍。2016年4月より立教大学客員教授

SPECIAL CONTENTS

創立150周年記念企画 総長対談シリーズ
“自分らしい生き方”を追求するということ


教育・メディア・芸能・音楽・芸術などの分野で活躍されている方々と、西原廉太立教大学総長との対談動画を150周年サイトで公開中!ゲストの経験やキャリアをひもとき、「リベラルアーツ」や「自由に生きるために必要な姿勢」について多様な視点から紹介します。一緒に、“自分らしい生き方”を考えてみませんか。

立教学院創立150周年 記念事業・取り組み

創立150周年を機に推進する記念事業や取り組みをご紹介します。

立教学院創立150周年記念サイト

多彩なコンテンツを随時更新中!
記念事業や総長対談シリーズ、ニュースなどさまざまな情報を発信しています。

新座新棟(仮称)建設事業

2023年4月に開設したスポーツウエルネス学部・研究科の拠点となる新座新棟(仮称)を建設中。新座キャンパスの4学部の連携を実現し、イノベーションの創出を目指します。2023年8月1日には起工式を実施。竣工は2024年11月、利用開始は2025年4月を予定しています。

「立教箱根駅伝2024」事業

創立150周年となる2024年の箱根駅伝本戦出場を目指した事業。陸上競技部男子駅伝チームは、目標を1年早く達成し、2023年は総合18位という結果を収めました。2024年は総合14位と前年から4ランクアップの大躍進。この結果報告を兼ね、2月27日に新座市役所、3月5日に豊島区役所を表敬訪問しました。

髙林男子駅伝監督

4月1日には、男子駅伝監督に髙林祐介氏が就任しました。髙林氏は駒澤大学陸上競技部出身、箱根駅伝は4年連続で出走して、区間賞を2回獲得。2022年から母校のコーチを務め、同大史上初の学生3大駅伝三冠に貢献しました。

学院史編纂事業

『立教学院八十五年史』『立教学院百年史』に次ぐ、約半世紀ぶりの通史として『立教学院百五十年史』全3巻を刊行。2023年2月に発刊した第1巻に続き、今後、第2巻、第3巻の刊行を予定しています。

小学校新校舎建設事業

チャペルや講堂などがある東棟を除く全ての校舎・教育施設を新しく建設中です。2024年1月には児童と保護者向け「校舎お別れ行事」、3月には同窓生向け「校舎お別れ散策デー」を開催しました。

旧江戸川乱歩邸施設整備事業

立教大学が所有する「旧江戸川乱歩邸」の改修整備を行っています。利用再開は2024年秋の予定。改修に伴い、2023年12月にクロージングセレモニーを実施しました。また、2024年の乱歩生誕130年を記念し、ゲストを迎えたコンテンツをWebサイトで配信しています。これらをまとめた書籍『乱歩を探して』を発売予定です。

立教学院展示館記念企画展

立教学院展示館では「立教学院創立150周年記念企画展」シリーズを展開しています。2023年9月には「立教と災害」、10月~2024年1月には「立教と箱根駅伝」をテーマとした展示を行いました。

立教大学における推進中の計画

  • RIKKYO Learning Style 第2ステージの推進
    質の高いリベラルアーツ教育を一層深化。
  • 新学部構想
    「環境学部(仮称)」を2026年4月、池袋キャンパスに設置構想。
  • 教学発展を支えるキャンパスの整備計画
    魅力ある施設整備に取り組み、両キャンパスの機能と価値を向上。
  • 教育高度化に向けた情報戦略の推進
    情報インフラを整備し、より高次な情報活用型組織へ発展。
  • 国際化の取り組み
    多彩な海外体験の機会を提供し、キャンパスの国際化を推進。

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