立教の映画人
篠崎 誠 教授、石田 智哉 さん
2021/03/09
トピックス
OVERVIEW
2020年9月、プロの映画監督を多数輩出する「第42回ぴあフィルムフェスティバル」※1のコンペティション部門「PFFアワード2020」において、現代心理学研究科1年次の石田智哉さんが初監督を務めた卒業制作『へんしんっ!』が、見事グランプリを受賞。卒業制作の指導教員である篠崎誠教授を交え、作品にまつわるエピソードを伺いました。
Joint Interview
「PFFアワード2020」グランプリ受賞/現代心理学研究科
現代心理学研究科映像身体学専攻博士課程前期課程1年次。2020年現代心理学部映像身体学科卒業。1997年東京都生まれ。中学時代、iPadを使った学習がきっかけで映像制作に興味を持つ。立教大学入学後、篠崎誠教授のゼミで本格的に映像制作に取り組む。バリアフリー映画上映会「だれでも楽しい映画会」※22018年度実行委員長。
※2 バリアフリー映画上映会「だれでも楽しい映画会」:しょうがいの有無にかかわらず誰もが映画を楽しめる上映会で、2009年から新座キャンパスで開催している。2020年は12月にオンライン開催。
現代心理学部 映像身体学科/映画監督
現代心理学部映像身体学科教授、映画監督、脚本家、映画批評家。1963年東京都生まれ。86年立教大学文学部心理学科卒業。商業映画監督デビュー作品『おかえり』(96年)では、ベルリン国際映画祭最優秀新人監督賞をはじめ海外で11冠を獲得。その後も数々の映画、テレビ、映像作品を制作。2006年より現職。
表現活動を行うしょうがい者がどんな思いを持っているのか
—受賞を受けての率直な気持ちを聞かせてください。
篠崎 応募480作品から入選17本に残っただけで賞讃されるべきことですが、グランプリ受賞は驚きました。発表日は何も手につかなくて(笑)受賞の知らせを学科のメーリングリストで共有するとすぐに先生方から祝福の声が寄せられました。みなさん、我が事のように喜んでくれました。
—『へんしんっ!』の制作経緯を教えてください。
篠崎 本学科には、授業と別に、学生の研究や制作を支援するスカラシップ制度※3があります。2018年度に石田君の企画も選ばれ、『へんしんっ!』の元になる作品を作りましたが、構成がまだ散漫で、やや優等生的にまとまってしまい、もっと石田君にしか作れない部分に踏み込んでほしかったんです。その後ゼミ生や是枝裕和さんはじめプロの映画人たちにも意見をもらい、新たに卒業制作として取り組むことを決め、追加撮影して構成も変えました。
※3 スカラシップ制度:他の年度では、2017年度に壷井濯『サクリファイス』(「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019」優秀作品賞)、2019年度に河邊怜佳『過ぎ行くみなも』(第21回 TAMANEW WAVE ある視点部門)が選出されている。
身体の捉え方が一変するような感覚
—制作過程で、特に印象に残っていることはありますか。
石田さん(左)と砂連尾先生(『へんしんっ!』より)
※4 砂連尾理:映像身体学科・映像身体学専攻特任教授/振付家・ダンサー。2002年、「TOYOTACHOREOGRAPHY AWARD2002」にて、「次代を担う振付家賞」(グランプリ)、「オーディエンス賞」をダブル受賞。近年取り組んでいるワークショップ「変身—ええ、私です。又あなたです。」では、老いやしょうがい、出産といった人間のさまざまな「変身」について参加者と語り合い、身体表現へと転換するパフォーマンスを行っている。
篠崎 学部付属の心理芸術人文学研究所主催で、2018年に砂連尾先生がカフカの『変身』をモチーフにした舞台発表が学内でありました。実に刺激的で、翌年再演されると聞き、もしも、石田君が出演したらと想像が広がって、砂連尾先生にお話ししたのです。誘導したわけではないのですが(笑)そうしましたら、石田君が砂連尾先生をインタビューした際、カメラの前で石田君を誘ってくれました。そこから映画が大きく動き出した気がしました。ある日、学生スタッフが足りずに私もカメラを回していると、石田君が「人からよく『頑張ってるね』と言われるのが、実はうれしくない」とスタッフに漏らしたんです。こういう本音を言える関係性を彼が仲間たちと築いたことに感銘を受けました。
理論と制作を行き来しながら学べる
—石田さんが映像身体学科に入学した理由を教えてください。
※5 赤﨑正和:2011年映像身体学科卒業。知的しょうがいと自閉症を併せ持つ妹・千鶴と母を1年にわたって撮り続けたドキュメンタリー映画『ちづる』を、卒業制作として発表。同作品は11年に劇場公開され、全国でロードショーが行われた。大学卒業後、しょうがい者支援施設に勤務。
—映像身体学科の魅力は何でしょうか。
石田 理論と制作を行き来しながら学べる点です。制作をしながら日誌をつけていて、文章を書き思考することと映像を作ることが深いところではつながっていて、互いに影響を与えていることを実感しました。また、学びを通して、自分のしょうがいや身体を見つめ直すことができました。
篠崎 映像制作や身体表現による創作だけでなく、哲学や思想など、多様な関心をカバーできる学びが魅力だと感じます。幅広い視野を持ち、作品に対して「なぜこうなったのか」と自分の言葉で思考できる人間が面白いものを作ると考えています。
石田君が最も映像身体学科の学びを体現している
—石田さんの今後の目標は。
—石田さんへ篠崎先生からエールをお願いします。
篠崎 現在、石田君は大学院で研究テーマを修士論文にまとめようとしています。その一方映像論ワークショップで脚本を書いているのですが、『へんしんっ!』を作り、評価されたことが自信に結びついたのか、ものの見方や文体を含めて、書くものが変わってきました。「理論と実践の融合」という点で、石田君が最も映像身体学科の学びを体現している気がします。持ち前の旺盛な探求心でやりたいことに精一杯挑戦してほしいと願っています。
※取材はリモートで実施しました。
表彰式の様子(写真提供:ぴあフィルムフェスティバル)
受賞作品『へんしんっ!』
車椅子に乗った石田さんが、しょうがい者の表現活動の可能性を探ったドキュメンタリー。映画制作を通じてさまざまな人と関わり合う中で、多様な"違い"を発見してゆく。周囲の人を巻き込む、石田さんの映画の作り方にも注目。2020年/カラー/93分
監督・企画・編集:石田智哉
プロデューサー・録音:藤原里歩
撮影:本田恵/壷井濯/柗下仁美
キャスト:石田智哉/砂連尾理/佐沢(野崎)静枝/美月めぐみ/鈴木橙輔
※2021年6月下旬にポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・タバタほか、全国の映画館にて順次公開。
現代心理学部 映像身体学科/現代心理学研究科 映像身体学専攻について
映像身体学は、映像と身体を融合的に扱う学問です。映像制作の技法だけを学ぶのではなく、生身の身体と映像との相互作用を、自然や社会、電子メディアなどの環境の中で捉える、21世紀の新しい人間学を目指しています。
3つの特色
- 映像と身体について、哲学、社会学、生命科学などの領域から学び、映像制作、演劇などの実習で両者の関係性を体感。
- シアター型教室やスタジオ棟など、充実した環境を整備。教員は研究者、著述家、アーティストなど第一線のプロで編成。
- 映像系では映画、写真、広告など、身体系では演劇、ダンス、武術など、実体験から理解する多彩なワークショップを設置。
現代心理学部 Webサイトはこちら
※本記事は季刊「立教」255号(2021年1月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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