“社会問題を解決する心理学”とは、
どういうものですか?

現代心理学部心理学科 大石 幸二 教授(障がい児(者)心理学)

2018/04/16

研究活動と教授陣

OVERVIEW

人間のこころを研究する心理学は、多種多様な人間を扱うだけに、その学問領域もヴァリエーションに富んでいる。大石先生が専門とするのは「障がい児(者)心理学」。社会に直結した研究成果が期待される分野だ。

大石 幸二 教授

「私の主対象は、自閉症の子どもたちです。彼らは生まれた瞬間から人が怖いのですが、『怖い』と感じたまま成長するケースが多く、慢性ストレス状態にあります。そうなると免疫機能や日常の行動の中での切り替えがうまくできず、対人関係においても“うまくいかなさ”を抱えてしまうんです」

定型発達者(標準的な発達経過を辿ると考えられる人)とは違った感覚を持っていることを認識し、必要なプログラムを取り入れれば、状況は改善できる。その検証、プログラムの確立、実践の場への提供が研究の柱だが、理学部の生命科学グループと協働するブランディング事業においてはプログラムの効果の検証がより確かなものになる。

「カウンセリングなどの心理療法を行う際、心理学的なアプローチではその前と後での意識、態度、行動がどう変化したかを評価します。それに加えて、生命科学グループとの連携によって睡眠、体温、心拍といった生理的機能の変化、さらに内分泌といった体の内側の変化も見ていく。融合研究だからこそできることですね。まずは心理指標、生理指標、生物指標の3つの変化を捉えるのが、この事業における私の研究ミッションです」

大学院生がフィールドで使う検査器具を共に検証。研究データ収集のための大切な作業。

作業の9割は研究室の外の施設で。 事実は市井の中にしか存在しません。

生命科学グループとの融合研究に、面白みと手応えを感じていると話す。

大石先生の研究は、その9割が研究室の外で行われている。保育園や幼稚園から高校、および特別支援学校まで、先生たちが自閉症の子どもとうまく関われるようになるためのバックアップをし、一方で保護者の了解を得ることで、先生と子どもの関わりの変化を分析していく。

「実験室では得られない情報がそこで得られます。直接関わったことで『あなたを信用したから力を貸すよ』と研究に協力してくださる人は、もともとは研究参加には積極的ではなく、従来の研究ではそれらの人の行為や声は反映されてこなかったのかもしれません。事実は市井の中にしか存在しないと私は思います。だからこそ、裾野を広げ、その中から分析するべきところを掘り出す活動に多くの時間をかけています。研究に結びつかなくても、我々の支援の技術が当事者の利益になれば、それも社会貢献ですから」

研究参加者となる当事者たちとの関わりは、信用がすべて。
「信頼関係のないところでは、我々の仕事は何も成り立たないですね」

現場で得た知恵や成果を還元し、 教育プログラムを充実させていきます。

家族の写真が研究室の必需品。心理学が扱うのは、人と人の関わり、相互作用だとも。

自閉症児の対人関係を良好にするには、乳幼児期の早い段階に「人は怖くない」と経験できる環境を作ることが有効ではないか。現在、その検証が進む。

「生まれながらに心地よい環境に置かれる状態を作っていけば、行動や意識が変わり、分泌や代謝といった生体機能にも変化が現れると予測されます。本事業の4年次までにその変化を論文にまとめ、最終年度には教育プログラムとして、現場の当事者や周囲のカウンセラー、保育士や教師、ソーシャルワーカーといった人たちにわかりやすく提示していく。社会貢献として教育プログラムの提供活動を行っているある製薬会社と、今、提携の体制を整えているところです」

巻き込まれてみなければ、わからない世界。 一生賭けて深掘りできる研究分野です。

学生時代、犬に吠えられたことで2時間もその場から動けなくなった自閉症の青年に出会い、“動けなくなる”という想像を超えた感覚に驚いた。大学から大学院博士課程まで、指導を受けたのは日本の自閉症研究の先駆者たち。障がい児(者)心理学の奥深さに、「一生賭けないと無理だ」と研究の道に入った。

「直接役に立たなくても、将来的に何万、何十万という人を救うような発見をする純粋科学の研究は非常に大切です。また、一貫した問題意識をもったドキュメンタリー映画を地道に撮る映画監督のように、それまで光が当たっていなかったところに光を当てる研究もあります。実生活に即して、心理学の研究知見を社会的問題の解決に活かすことができることが、この研究分野の素晴らしい点だと思っています」

プロフィール

Profile

大石 幸二

現代心理学部心理学科教授

日本で唯一の心身障害学(行動・情緒障害学)の講座を有していた筑波大学大学院心身障害学研究科博士課程を修了。筑波大学心身障害学系での文部教官助手を経て、明星大学人文学部心理・教育学科の専任講師として大学人としての生活を本格的に開始。千葉県我孫子市身体障害者福祉センターにて早期発達相談員、東京都足立区教育研究所にて教育相談員(心理職)なども歴任。2006年立教大学現代心理学部の開設に伴い、心理学科准教授として着任。2009年より教授に。2015年より心理学科長、2018年より総長室調査役を兼務。

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