数式や図形の点訳自動化による視覚しょうがい学生の学修支援

理学部 小森 靖教授

2026/02/04

研究活動と教授陣

OVERVIEW

立教大学では、しょうがいがある学生への学修支援の一環として、理系テキスト点訳システム「LaTeX(ラテフ)※1による理数系双方向コミュニケーションツール」を活用しています。数式・図を含む資料の自動点訳を可能にした、世界で類を見ないシステムの誕生経緯や今後の可能性について、開発を手掛けた理学部の小森靖教授に伺いました。

※1 LaTeX:(ラテフ、ラテック)理系分野で定番の文書作成システム。数式や図版の作成に優れており、文章・文字との組み合わせが自在にできる。

理系テキスト点訳システムを実装したLaTeXの画面

写真1

コード画面。教員や学生など利用者がコードを入力する

写真2

以前からある晴眼者の確認用画面。コードに基づいて数式や図が表示され、PDFで出力できる

写真3

写真3

点字変換の確認用画面。点訳されている内容を晴眼者が校正できる。視覚しょうがい者は点字プリンターやピンディスプレイを利用して読む

自動点訳できない理系の資料

※2 晴眼者:視覚にしょうがいのない者。

視覚しょうがいのある学生が理系学問を学ぶ上で大きな壁となるのが、数式や図を含む資料へのアプローチです。既存の音声読み上げアプリや自動点訳システムは、これらにほとんど対応していません。そのため、授業用資料を数週間前に用意し、専門の点訳者に点訳を依頼する対応が必要ですが、授業の進度や学生の理解度に応じて資料を調整することは日常的です。時間やコスト、点訳者の人手不足といった問題が、視覚しょうがい学生から学ぶ機会を奪うことになりかねません。

私がこの課題に直面したのは、2021年度に視覚しょうがいのある学生が数学科に入学した時です。しょうがい学生支援室※3と連携して準備を進める中で、「これは本学に限らず高等教育機関に共通する課題であり、抜本的に解決しなければ学生の進路や選択肢を狭めかねない」と痛感。そこで、LaTeXを用いた点訳システム開発に着手したのです。

※3 しょうがい学生支援室:しょうがいのある学生が充実した学生生活を送れるように、関連する教職員と連携しながらサポートを行う。学生・教職員による支援ネットワークの運営、バリアフリー講座などの講演会も開催。

教員・学生双方の利便性とコミュニケーションを重視

LaTeXは、数学・物理分野で広く利用されている文書作成ツールで、テキスト形式でコードを記述すると(写真1)、数式や図を含むPDF(写真2)を生成できます。従来はこのPDFの点訳を外部に依頼していましたが、今回開発したシステムでは、元のテキストを自動で点字に変換できるようになりました(写真3)。教員は通常と同じ手順で資料を作成するだけでよく、学生は点字プリンターやピンディスプレイ※4を用いて、数式や図を読み取ることができます。

点訳機能を実現する上でカギとなったのは、日本語の文章を正しく点字に変換するための辞書の整備でした。点訳では、漢字は基本的に平仮名読みに準じて表記されるため、複数の読み方がある場合は文脈に応じて適切な読み方で、さらに、点字独自のルールに則って登録。加えて数学用語や専門的な文章も学習させることで、複雑な数式や学術的なテキストにも対応できるようにしています。

本システムでは、双方向性も重視しました。コードを入力すると「点字」、晴眼者が用いる「墨字」への変換が短時間でできるため、システムを介して、視覚しょうがい学生と教員・他の学生とのコミュニケーションも、より円滑になるでしょう。前述した数学科の学生は現在、本学大学院に進学しています。


※4 ピンディスプレイ:(点字ディスプレイ)二次元に配列されたピンを上下させ、凹凸を発生させることにより、パソコン画面上の文字や図形を「点字」や「点図」として表示する機器。

他大学にも無償で配布

大学側の受け入れ体制が不十分であるために、意欲ある理系学生の可能性を狭めることがあってはならない。その思いから開発した今回のシステムは汎用性の高いツールです。広く活用してもらいたいという考えから無償で配布しており、すでに複数の大学で説明会・講演会を行っています。本システムが幅広い場で用いられることで、より多くの学生が自ら望む道へ進めるよう願っています。

小森教授の3つの視点

  1. 理系資料の点訳の困難さが視覚しょうがい学生の大きなハードルに
  2. 使いやすさと双方向性を重視した点訳システムを開発
  3. 活用が進むと学生の進路や選択肢が広がる可能性がある

プロフィール

PROFILE

小森 靖

理学部数学科教授

東京大学理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。名古屋大学大学院助教などを経て、2010年立教大学に着任、2017年より現職。専門は数理物理、物性基礎、代数学。授業・研究の傍ら、約3年半かけて今回のシステム開発に取り組んだ。

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