物理学を通じて、大学の学びを体感
——立教大学×西南学院高校

立教大学特別授業

2024/02/14

研究活動と教授陣

OVERVIEW

大学の講義を高校生が体験する「立教大学特別授業」が11月1日、福岡市早良区の西南学院中学校・高等学校の高校生を対象に行われた。「私たちの世界は本当に3次元空間なのか」「時間は過去から未来へ流れているのか」と一般常識に疑問を持ち、研究を続けている村田次郎教授が登壇。自身のキャリアや研究、大学についても紹介し、参加した在校生の約50人は熱心に耳を傾けた。

優しい表情で生徒たちに語りかける村田教授

理学部物理学科 教授
村田 次郎氏

研究分野
物理学/素粒子・原子核、重力の物理学
研究テーマ
ミリメートル以下の距離での重力の精密測定による、3次元を超える余剰次元の探索を進めるとともに、素粒子・原子核の精密観測による、時空対称性の破れの探索

世界は本当に3次元か?—科学の目的は科学、勉強の目的は勉強

面白いから研究をする

「私たちの世界は本当に3次元空間なのか?」一般常識に疑問を持つことを説明

本日は「世界は本当に3次元か?」というテーマで、「科学の目的は科学、勉強の目的は勉強」をサブテーマとして話を進めます。皆さんには、勉強が何に役立つのかという疑問があるかもしれません。私は、科学が面白いから研究をしています。
もう少し詳しくいうと4次元ポケットとタイムマシン。自分がどんな世界に生きているのか知りたくて、空間と時間について研究しています。

皆さんは、空間は3次元だと思っているでしょう。しかし、写真や地図が3次元を2次元で表しているように、この世界が本当は4次元以上の高次元(余剰次元)なのに3次元と思い込んでいる可能性があります。ニュートンとアインシュタインは、世界は3次元という前提に立って現象を説明しましたが、もし余剰次元があれば、説明が正しくないことになります。私は余剰次元の世界があるかもしれないと考えて、証拠を探しているのです。

例えば照明(ライト)の実験です。空間が3次元の場合には、ライトの距離が2倍離れると、感じる光のまぶしさは4分の1になります。まぶしさも物体間に働く力の大きさも、距離の2乗に反比例するからですが、これの前提は3次元です。私は本当かどうか知りたくて、距離を変えて重力の大きさを調べる実験をしています。

過去と未来で性質に違いが

講義終盤の力説する様子

皆さんは過去のことを覚えていますが、未来のことは覚えていませんよね。物理学的には、過去と未来は本質的な違いがないのに、なぜ未来のことは覚えていないのか、私は不思議なのです。一般的には、過去から今、未来へと時間が流れているからといわれますが、本当に時間が流れているのかは分かっていません。

そこで時間に関する実験も行っています。物理学では未来と過去を区別する方法はありませんが、もしかしたら違った性質があるかもしれないと考えています。ビッグバンによって宇宙ができたのなら、「物質」と電気的な性質などが正反対の「反物質」の両方ができているはずなのに、身の回りには反物質が非常に少ない。ですから違う性質があるのではないかという考えのもと、時間を逆回しできないか調べる「時間反転」という実験をしています。そのための装置は売っていないので、世界に一つだけの装置を自分で作って実験しています。

誰も知らない世界が見える

私は子どもの頃、大工さんになりたいと思うほどものづくりが好きでした。小学5年の時に、テレビでアインシュタインの理論を知り、目標は物理学者に変わりました。大学に入ると周囲の学生が優秀で自信を持てずにいましたが、大学3年ごろから実験装置を自分で作るようになり、得意なものづくりを生かして物理学の結果を出すことで手応えを感じました。その後は、研究所に所属して憧れの米ニューヨークへ行き、4兆度という超高温状態を作って、ビッグバン直後の「クォーク・グルーオン・プラズマ状態」を発見した世界的なプロジェクトに携わりました。いわゆるエリートコースを歩んでいたものの、30歳に差しかかり、自分が一番面白いと思える科学の研究に取り組みたいと思い、立教大に移りました。

その一つに高次元空間を探すことがあります。スイスにある世界最大規模の欧州合同原子核研究所(CERN)は、予算1兆円規模、数千人で進める巨大科学です。一方、私の研究室は1千万円規模の予算で、学生を含む5人ほどで予算も人数も大きく違いますが、私たちの方が先に見つけられるかもしれません。こういう研究を最先端で担っているのは大学生や大学院生たちです。高校までは先生が教える人、生徒は教えられる人と立場がはっきりしていると思いますが、大学では誰も知らない世界を見たくて、先生と学生が一緒に実験し研究をしています。

「勉強の目的は勉強」で十分

講義終了後、生徒たちの質問に答える

私は自分が知りたいこと、面白いと思うことを研究しています。そもそも理学部は、物理や化学など自然に関する科学の「基礎研究」をするところです。社会の中ですぐに実用化されるというものではありませんが、結果的に社会の役に立つことはたくさんあります。例えば、アインシュタインの相対性理論があるからスマートフォンで自分の位置を正確に知れますし、私が時間の実験で測っている物質は福島の原発事故で放出した物質と同じだったので原発などの測定にも協力しています。

これまでの経験から、勉強や研究など目の前のことにじっくり取り組むことで、自分の進むべき方向が分かったり、新たな発見と出合ったりすることがあります。今は「勉強の目的は勉強」ということで十分だと思います。

西南学院高校<生徒の声>

高校2年

立教大の理学部が第1志望です。今日の授業を受けて、より同学部で研究したいという思いが強まりました。

高校2年

初めて聞く用語もありましたが、教科書から得る知識とは違う、新しい物理の視点が分かり興味深かったです。

高校2年

物理や4次元に興味があり動画配信サイトなどで閲覧していました。生の授業でより理解が深まりました。

高校3年

勉強に臨む姿勢を学ぶことができました。無駄なことはないと気づき、いろいろやってみたいです。

高校3年

立教大では自由に研究できると分かり、私も自分が楽しめることを大学で研究したいと思いました。

高校3年

高校ではやることが決まっていますが、大学はテーマがさまざまあり自由度が高いところに魅力を感じました。

高校3年

オープンキャンパスに参加できなかったのでこういう形で講義を受けられてとてもありがたかったです。

※本記事は『西日本新聞』(2023年12月10日掲載)をもとに再構成したものです。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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