カーリングを巡る「世紀の謎」はいかに解明されたか

理学部 村田 次郎教授

2023/06/12

研究活動と教授陣

OVERVIEW

カーリングのストーンを回転させながら投げると、物理学的に不自然な方向に曲がる理由とは?100年近く議論が交わされてきた「世紀の謎」を明らかにした理学部物理学科の村田次郎教授に、解決に至った経緯や、そのメカニズムについて伺いました。

「逆方向」に曲がるストーン

氷上のスポーツであるカーリングは、取っ手が付いた丸い石「ストーン」を、「ハウス」と呼ばれる円めがけて滑らせ、得点を競う競技です。通常、テーブルの上でコップなどを反時計回りに回転させて滑らせると、回転方向とは逆向きに摩擦力がかかり、「右」へカーブします。しかし、カーリングのリンクで同じようにストーンを投げると、「左」にカーブするのです(図1)。

第5回立教サイエンスカフェでは、会場、オンライン合わせて約270人の参加者が村田教授の解説に耳を傾けた

なぜ、このように物理学的に不自然な現象が起こるのか。実はこの問題は、1924年以降、100年近く議論されてきた「世紀の謎」でした。これまで、①速さが異なるストーンの右側と左側では摩擦力が違うためだとする「左右非対称説」、②ストーンの後ろ側の摩擦が強いためだとする「前後非対称説」、③石の底面の突起が氷に引っ掛かって振られる「旋回説」などが提唱されてきましたが、結論が出ないまま現在に至っていました。

解明の鍵は「観測データ」

数年前にカーリングが盛んな長野県に移住したのですが、コロナ禍で県外に移動しにくい事態に。「ならば近場でできる研究を」と思い、この謎に挑み始めました。いざ論文を調べてみると、過去の仮説を判定するに足る十分な観測データがないことが判明。そこで、本来の専門である素粒子物理学の実験用に開発した特許技術を応用し、ストーンの動きをミクロン単位で計測することにしました。
計122回のショットを精密に解析した結果、分かったことは2つ。まず、ストーンを反時計回りに滑らせると、底にある「ランニング・バンド」というざらざらした面と、氷の表面の「ぺブル」という凸凹が石の左側で引っ掛かり、そこを支点に振り子のように旋回して左へ曲がっていました(図2)。ここまでは「旋回説」の通りです。
では、なぜ左側で引っ掛かるのか。それは、ストーンの左右で速度差が生じる「左右非対称説」が関係しています。理論上は、摩擦力は速度と無関係だとされていますが、実測により「速度が遅いほど摩擦力が強くなる」ことを確認できました。よって、スピードが遅い左側の方が摩擦力が強く、氷に引っ掛かりやすいのです(図3)。
つまり、これは①「左右非対称説」と③「旋回説」を合わせた現象であり、摩擦力と振り子運動の両方が関わっていました。非常にシンプルな結論ですが、長年謎が謎のままだった大きな理由は、やはり精密な観測データがなかったことと、曲がる理由を理論上の摩擦力だけに求めたことでしょう。科学の基本は「観察」であり、「頭の中で考えるだけではバイアスから抜け出せない」という良い事例だと思います。

現在は、実際の競技に生かせる成果を得るため、現役のカーリング選手である立教生2人と共に研究を進めている最中です。今回の現象もそうですが、日常の小さな疑問や違和感が科学の「芽」になります。子どもたちや学生の皆さんには、ぜひこの「芽」を大事にしてもらいたいと思います。

※カーリングチーム「SC軽井沢クラブ」所属・園部日向子さん(経済学部3年次・当時)、「世界ジュニアカーリング選手権大会2023」準優勝・荻原詠理さん(コミュニティ福祉学部2年次・当時)。

村田教授の3つの視点

  1. 謎が未解明だった理由は精密な観測データに基づく考察がなかったこと
  2. 科学の基本である「観察」をないがしろにしてはいけない
  3. 「なぜ?」という疑問や違和感が科学の「芽」になる

本記事は、3月8日に池袋キャンパスで開催された第5回立教サイエンスカフェ「カーリングの100年とけない謎をとく」の内容を基に構成しました。

プロフィール

PROFILE

村田 次郎

理学部物理学科 教授

京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻単位取得退学。博士(理学)。理化学研究所研究員等を経て、2003年立教大学着任、2012年より現職。専門は原子核・重力物理学。三次元を超える「余剰次元」や時間反転対称性の破れの探索実験のほか、実験技術の開発研究にも取り組む。

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