サブスク時代の到来で変わる「人」と「音楽」の関係

社会学部 井手口 彰典教授

2023/01/10

研究活動と教授陣

OVERVIEW

「定額聴き放題」のサブスクリプション(サブスク)が浸透し、音楽を取り巻く環境は大きく変化しています。音楽社会学を専門とする社会学部の井手口彰典教授に、サブスクという新たな「聴き方」が社会や人々に与える影響について伺いました。

音楽は「所有」から「参照」へ

写真:WESTEND61/アフロ

インターネットの普及により、レコードやCDを「所有」する時代から、「参照」して音楽を聴く時代に突入しました。その最先端に位置するのが、音楽サブスクリプションです。数千万に及ぶ膨大な楽曲を、いつでもどこでも聴くことができる。そんな画期的なサービスは、音楽業界や人々の聴取スタイルに多くの変化をもたらしました。例えば、曲が誕生した「時代」が関係なくなること。主に最近の曲が並ぶ店頭と異なり、サブスクでは過去の曲に自在にアクセスできるため、ヒットするものが新曲とは限らない状況が生まれつつあります。また、昨今の曲は「テンポが速く」「イントロが短く」なっているという研究が海外で発表されました。聴き始めてすぐスキップされるのを防ぐためで、楽曲の構造そのものにも影響を与えていることが分かります。

*ICT総研による利用者数推計。 *無料サービス利用者には、お試し無料サービス期間中の利用者などが含まれる。 *有料サービスと無料サービスの両方を利用する場合は有料サービス利用者としてカウント。

さらに、これは動画サイトやSNSも関係していますが、「パプリカ※1」「うちで踊ろう※2」等のブームやTikTokのダンス動画に見られるように、「音」と「身体運動」がセットになっているのも近年の特徴です。CDは音しか届けられませんが、もともと歴史的に音楽は踊りなどの身体表現を伴うものでした。それが記録できるようになったことで、音楽と身体の動きの再結合が進み、作り手も戦略的に「一緒に踊れる」曲づくりを行うようになっています。

※1 「パプリカ」:小中学生の音楽ユニット「Foorin」の歌とダンスの動画は再生回数が2億回を超える。(2018年7月~2022年9月)
※2 「うちで踊ろう」:星野源が2020年4月にInstagramで公開後、一緒に歌ったり、振りを付けたりするコラボレーション動画の投稿が相次いだ。

「聴く音楽=個性」の終焉(しゅうえん)

他にも、私たち聴き手にもたらす大きな変化として、「音楽がアイデンティティーの根拠ではなくなる」可能性が挙げられます。かつて、ロックンロールは反逆の音楽として若者に支持され、その後登場したヒップホップは「ロックではない音楽を選ぶ自分」の証しになりました。いわば音楽は、集団から自らを切り離し、個性を表すツールだったのです。ところが、誰もが広く浅く聴くようになると、必然的にそうした側面は失われてしまいます。

一方で、サブスク全盛の時代だからこそ、生演奏の価値が高まり、コロナ禍の前は「ライブの復権」が起こっていました。その流れが戻り、作り手側もあえてサブスクに出さない、ライブでしか楽しめないコンテンツを仕掛けてくる可能性はあります。この先は、「サブスクにない何を生で聴いたか」「どのライブに行ったか」が、今以上に重視されるようになるのかもしれません。

サブスクの先にあるもの

今後、「所有」を前提としない音楽聴取の形は確実に定着していくでしょう。しかし、人間には繰り返し接するものに好感を抱く「単純接触効果」という心理作用があり、圧倒的な量の「未知」の曲を聴き続けられるかは疑問です。そう考えると、クラシックやジャズ、あるいは初音ミクの「千本桜※3」のように、一つの「既知」の曲から無数の「未知」のバリエーションが誕生し、おのおの楽しむスタイルが一層広がっていくかもしれません。これまで歴史と共に多様な変化を遂げてきたように、いまの私たちが捉えている音楽の形もまた、変わっていくものなのです。

※3 「千本桜」:音声合成ソフト「初音ミク」を使い動画サイト上で公開された楽曲。多様なカバーやアレンジ、二次創作が生まれ、異例のヒットとなった。

井手口教授の3つの視点

  1. サブスクの登場は人々の聴取スタイルや音楽市場を大きく変えた
  2. 「何を聴くか」が個性の証明だった時代は過ぎ去ろうとしている?
  3. 「既知」の曲から「未知」を生み出す音楽文化が広がっていく


プロフィール

PROFILE

井手口 彰典/IDEGUCHI Akinori

社会学部メディア社会学科 教授

大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻修了。博士(文学)。2013年立教大学着任、2020年より現職。現代における音楽文化の特徴を社会学的視点から考察。テクノロジーと音楽の関連に着目した研究のほか、クラシックや童謡、同人音楽など幅広いテーマに取り組んでいる。

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