睡眠やメンタルヘルスに深く関わる「生体リズム」

コミュニティ福祉学部 石渡 貴之教授

2022/09/20

研究活動と教授陣

OVERVIEW

コロナ禍が長引き、心身の不調を感じる人が増えたといわれます。日々の環境や生活習慣の変化は、気付かないうちに心と体に大きな影響を及ぼします。そのメカニズムや心掛けたいポイントについて、コミュニティ福祉学部の石渡貴之教授に伺いました。

睡眠と体温の意外な関係

長く続いた外出自粛やリモートワークの普及により、「あまり外に出ていない」「運動しなくなった」という人は多いかもしれません。こうした変化は、体に備わる「生体リズム」の乱れにつながり、心身の不調となって表れます。

月単位、年単位などさまざまなサイクルがある生体リズムの中でも、特に重要なのは約1日周期の「概日がいじつリズム」。昼夜の変化に合わせて、体温や血圧、ホルモンなどが変動する仕組みです。本来は25時間周期ですが、朝の光を浴びることで24時間に調節しているため、このずれを解消できないと、体のリズムは簡単に乱れてしまいます。

睡眠時のヒトの体温はV字型に変化(入眠前から徐々に低下し起床前に上昇する)。スムーズに体温調節が行われない場合、快適な眠りは得られない。  ※石渡教授の資料から作成。

例えば、睡眠の質と密接に関わる「体温」のリズム。ここで言う体温は体内の「深部体温※1」で、入眠前から徐々に低下し、起床前に上昇してスムーズな睡眠・覚醒を促します。しかし夜型生活などによりこのリズムが狂うと、睡眠障害や精神疾患につながる可能性も。実際にうつ病の人は夜に体温が十分下がらないため、寝付きが悪く、眠りも浅いことが分かっています。

※1 深部体温:直腸や鼓膜で測る体の内部の温度。脇や口内で測る体温も深部体温を反映しているが、やや低めに測定される。

また、日光を浴びない生活や運動不足が続くと、精神を安定させる役割を果たす脳内神経伝達物質のセロトニンの分泌が減少。気分の落ち込みやうつ病の原因となり、余計に外出しなくなる、生体リズムがさらに乱れる……という悪循環に陥ってしまうのです。

気付きにくい心と体のSOS

注意すべき点は、心身にこうした負担が掛かっても、見た目では分かりにくいことです。通常と異なる明暗サイクルでラットを飼育した実験では、体重や活動量に変化はなかったものの、体温のリズムは乱れ、セロトニンも減少していました。不規則な生活に適応できているように見えても、体や脳内では危険な兆候が現れているわけです。

だからこそ、日頃から「規則正しい生活」と「適度な運動」を心掛け、生体リズムを整えることが重要です。まずはしっかり睡眠をとり、朝の光を浴びること。就寝時に深部体温を下げるには、先に体の表面を温めてから熱を逃がすと効果的で、寝る2時間前の入浴がお勧めです。逆に寝る直前は逆効果なので避けた方がいいでしょう。熟睡感につながる「深い睡眠」は入眠後すぐに出やすいため、快適な室温で眠りにつくことも大切です。

運動に関しては、歩くだけでもセロトニンの分泌が活性化されます。また、私の研究室の実験では「強制された運動」より「自発的な運動」の方がセロトニンが増えるという結果も出ています。

心身の健康や生きがいを含む「ウエルネス」を探究してきたコミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科は、2023年4月、スポーツウエルネス学部に改組される予定です。それに伴い、今回のテーマとも関連する「環境・スポーツ教育※2」の人材養成像を掲げる予定です。新学部の理念である「すべての人の生きる歓びのために」いかに役立てるのかを考え、研究成果を還元していきたいと思います。

※2 「環境・スポーツ教育」「ウエルネススポーツ」「アスリートパフォーマンス」の3つの人材養成像を掲げる予定。

石渡教授の3つの視点

  1. 不規則な生活は生体リズムを乱し脳内にも影響を及ぼす
  2. 良い睡眠のコツは体温のリズムを整えること
  3. 不調は見た目で分からないからこそ日頃の心掛けが大切


プロフィール

PROFILE

石渡 貴之/ISHIWATA Takayuki

コミュニティ福祉学部
スポーツウエルネス学科 教授

東京都立大学大学院理学研究科生物科学専攻修了。博士(理学)。ダイキン環境研究所(現ダイキン工業)等を経て、2008年立教大学着任、2018年より現職。専門は環境生理学、温熱生理学。現在は、主に光や熱などの環境ストレスが生理指標や脳内神経伝達物質、情動行動に及ぼす影響について研究。

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