コロナ禍から考える「地元観光」と訪問先に配慮する心

観光学部 西川 亮助教

2021/03/17

研究活動と教授陣

OVERVIEW

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、観光産業は大きな打撃を受けました。この危機を乗り越えるための糸口はあるのか。コロナ禍を通して見えてきた人々の旅行に対する意識や、国内観光の今後のあり方について、観光学部の西川亮助教に伺いました。

コロナ禍で弾けた“観光バブル”

コロナ禍と観光について考える学生たちの議論の様子

コロナ禍が観光業界に与えた影響は甚大です。影響は旅行会社や宿泊施設、交通事業者だけにとどまらず、地域産品の生産者や卸売業者、観光に関わる出版社など、幅広い産業に及んでいます。

コロナ禍以前は国としてインバウンド観光を促進しており、いわば“観光バブル期”が訪れていたようなもの。それが一気に弾けてしまったわけです。観光客の急増により地域住民の生活や環境が損なわれる「オーバーツーリズム」などの問題も、すべてリセットされました。ポジティブに捉えるならば、今は観光のあり方を改めて考え直す機会なのかもしれません。

「地元観光」への関心が高まる

2020年5月に私のゼミではコロナ禍における観光のあり方を議論しました。そこで、遠方に移動できない今こそ地元に目を向け、地元を観光的に楽しむ機会ではないかと考え「地元観光」という言葉を作りました。そして6月にコロナ禍による学生の旅行意識への影響を探るアンケート調査を実施しました。

その結果から見えてきたのは、感染を拡大させないための自制心は働きつつも、「旅行に行きたい気持ち」は強いということ。緊急事態宣言中に神奈川県の江の島など近隣の観光地に人が集まるといった報道も見られたように、旅行や観光は「なくても困らない娯楽」ではなく、「生活を豊かにする上で欠かせない営み」なのだという事実に改めて気付かせてくれました。

調査の中で興味深かったのが、「自粛期間を経て『地元観光』への関心が高まった人が約7割いた」という結果。コロナ禍を機に「地元観光」に注目が集まったのです。

※レポートは「立教大学観光学部西川研究室」のWebサイトにて公開中です。

大切なのは、地域固有の風土を持続させること

夏に入り、国によるGo Toトラベルキャンペーンなど、旅行需要喚起策が展開されました。10月に実施した学生へのアンケート調査によると、19年の夏季に比べると旅行の実施率は減少したものの、感染対策を講じながら旅行を楽しんだ様子が見て取れました。しかし、移動によって訪問先にウイルスを広げてしまう可能性もゼロではなく、感染者数の多い地域からの訪問を拒む方針を取った自治体もありました。ウイルスに限らず、これを機に観光客自身が地域に悪い影響を与えるかもしれない、と訪問先に配慮する意識を持つことも重要になるでしょう。

「地元観光」と訪問先に配慮する観光は、実は表裏一体です。前者は日常の中の非日常を知ることであり、後者は非日常の中にも居住者の生活があるという日常を知ることを意味します。観光客としての私たちは、これまであまり意識することのなかった「もう一つの」日常と非日常に意識を向けることが必要でしょう。大切なのは、固有の風土や文化が維持され、地域が持続的であること。そのために観光がいかに貢献できるかという視点が重要です。

従来、観光においては、日常と非日常がはっきり区別されていましたが、本来はもっと曖昧で良いのではないか、と考えています。

西川助教の3つの視点

  1. コロナ禍は観光のあり方を考え直す機会
  2. 自粛期間を経て「地元観光」への関心が高まる
  3. 「もう一つの」日常と非日常を意識する観光に

プロフィール

profile

西川 亮

2018年東京大学工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。
同年立教大学に着任し、現職。
博士(工学)。
博士論文「観光地都市計画に関する研究—戦前期から1960年代までに着目して—」で、日本都市計画学会論文奨励賞(2018年度)をはじめとする3つの賞を受賞。

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