SDGs達成の要となる「人づくり」を国内外でけん引する

ESD研究所長 社会学部現代文化学科 阿部 治教授

2020/12/03

研究活動と教授陣

OVERVIEW

2030年までに達成すべき国際社会共通の目標として、2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)。この指針が示される以前から、阿部治教授は、SDGsが目指す持続可能な社会の構築を担う「人づくり」に力を注いできた。

ESD(持続可能な開発のための教育)研究・実践で世界をリードする

ESDの概念図(文部科学省HPより)

貧困の根絶、格差や不平等の解消、地球環境の保全——。こうした人類共通の課題を解決し、持続可能な社会の実現を目指すSDGs。地球上のすべての人々が取り組むべき17の目標(ゴール)と169の具体的な目標(ターゲット)が定められ、日本でも国や地域、産業界、教育界など至る所で推進に向けた動きが広がっている。

現代に生きる世界中の人々、そして次の世代が安心して暮らせる社会。その具現化には、私たち一人一人の思考や行動の変革が不可欠であり、さまざまな場や組織において主体的に推進を担う人材の育成も欠かせない。そこで、世界から注目されてきたのがESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)だ。

「ESDは、環境、人権、平和、経済、文化といった持続可能性に関わるあらゆる問題を統合的に捉える教育・学習活動のこと。環境教育をベースに、より学際的・多面的に社会課題を捉え、行動につなげる人材の育成を目指しています」

ESDに関するユネスコ世界会議(2014年、名古屋)にて。イリナ・ボゴバユネスコ事務局長(右)と阿部治教授(左)

そう語るのは、ESD研究・実践の第一人者として、国内外における普及・発展をけん引している阿部治教授。その功績は海外でも高く評価され、国際会議の場では「Mr.ESD」と称される存在だ。

自然教育や野外教育等を中心とする従来の環境教育から、より広範囲な領域を対象とするESDへ。この転換は、1980年代頃から地球環境問題が一気に顕在化したことに端を発する。

「それまでは環境教育、開発教育、人権教育などが個別に存在していましたが、世界が直面している課題は決して別個のものではなく、互いに深く関連していることが見えてきたのです。そして1992年の地球サミット(国連環境開発会議)で、これらの教育を統合・再構成する必要性が強調され、ESDが提唱されるようになりました」

ESDこそSDGs達成の鍵——そう国連が認めた「ESD for 2030」

インドで開催されたSDGs推進のドライバーとしての教育(ESDGs)に関する国際会議での招待発表の様子(2015)

ところが、地球サミットで指針が示されたにもかかわらず、ESDの普及はなかなか進まなかった。それが世界に広まる契機となったのは、2002年のヨハネスブルグ・サミット(持続可能な開発に関する世界首脳会議)で日本政府とNGOが提案し、同年の国連総会で採択された「国連ESDの10年」。この提言に、阿部教授も共同提案者として関わった。

「2005年から10年間、ユネスコ主導のもと各国でESDが推進されました。日本は発案者なので、後れをとるわけにはいきません。そこで私はNGO『持続可能な開発のための教育の10年推進会議(ESD-J)』を立ち上げ、日本政府やユネスコと一体となって動いてきました。その結果、他国におけるESD実践は学校教育が中心ですが、日本では生涯学習や企業のCSR、地域づくりなど多様な場で導入が進んでいます」

言わば世界のESDを先導してきたのは日本であり、阿部教授はその先鋒を担ってきた。さらに、2015年に採択されたSDGsでは目標4「質の高い教育をみんなに」の中にESDの促進が含まれているが、その裏側にも阿部教授の働きかけがあったという。

「検討段階ではESDの扱いが議論になっていたのですが、関連するNGO等と共に外務省の担当官に交渉し、加えることができました。ですが、土台となる人づくりを抜きにしてSDGsは進まない。本来は項目の一つではなく、すべての目標を貫くものであるべきなんです」

阿部教授のこの思いが通じたのは、それから4年後のこと。2019年、SDGsの達成年である2030年に向けてESDの推進を目指す「ESD for 2030」すなわち「ESD for SDGs」が国連で採択された。

「ESDこそ17の目標の達成の鍵だと、遅ればせながら世界が認めたわけです。今後は、SDGsとESDを一体的に推進することがますます求められていくでしょう」

日本初の研究機関、ESD研究センターが切り拓いた道と次なる挑戦

2020年10月に行われた全国ESD/SDGs自治体会議

こうしたESDの普及・発展において重要な役割を担ってきたのが、阿部教授が所長を務める立教大学ESD研究所だ。日本初の研究機関として、2007年に前身となるESD研究センターを開設。国内のみならず、アジア・太平洋地域における研究・実践やネットワーク構築を進め、ハブとしての機能を果たしてきた。

「アジアの中でいち早く経済発展した日本は、公害をはじめ、環境と経済を巡る問題を多数経験しています。だからこそ、ESDを通じてそれらの課題をどのように解決すべきか、他の国々に伝えていくことができるのです」

国内でも、国や企業、NGOなど多様な主体をつなぎながら、「高等教育とESD」「CSRとESD」「生物多様性とESD」などの個別テーマに取り組み、ESDの確立に大きく貢献してきた同研究所。現在は、「持続可能な地域づくりを担う人材育成」という次なるテーマに取り組んでいる。

「地域創生は日本の大きな課題の一つ。過疎化・高齢化が進む中、地域内で経済が循環する仕組みをつくらなければ持続可能性は保てません。その担い手を育むには、地域におけるESDの導入が不可欠なのです」

研究と並行して、北海道羅臼町、長野県飯田市、静岡県西伊豆町、長崎県対馬市とESD地域創生連携協定を結び、実践的なプロジェクトを実施。さらに、2018年から毎年「全国ESD/SDGs自治体会議」を開催し、関係省庁や自治体の首長らと共に議論やワークショップを行っている。

「SDGsを達成するには、世界共通の17の目標をローカライズし、地域に根差した形で展開する必要がある。そのためにも、ESDを通じて地域づくりを担う人材を育成していきたい」と語る阿部教授。SDGs推進のエンジンであるESDのさらなる普及・発展に向けて、挑戦はこれからも続いていく。

毎年開催している岐阜県・白川郷でのSDGs教育フォーラム

プロフィール

PROFILE

阿部 治

筑波大学、埼玉大学等を経て、2002年立教大学に着任、2007年よりESD研究センター長、2012年よりESD研究所長を務める。日本環境教育学会長、ESD活動支援センター長、IGES環境教育プロジェクトリーダー等を歴任。日本および世界の環境教育/ESDの確立・発展への貢献が評価され、環境省「環境保全功労者表彰」、日中韓三カ国環境大臣会合「TEMM Environment Award」、(公財)日本自然保護協会「日本自然保護大賞特別賞沼田眞賞」を受賞。

■書籍情報
『ESDの地域創生力と自然学校 持続可能な地域をつくる人を育てる』(ナカニシヤ出版・2020年3月)
『知る・わかる・伝えるSDGs I 貧困・食料・健康・ジェンダー・水と衛生』(学文社・2019年10月)
『ESDの地域創生力: 持続可能な社会づくり・人づくり9つの実践』(合同出版・2017年4月)、ほか

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