哲学・心理学からスクリーンとステージに橋を架ける
心理芸術人文学研究所
2015/11/10
研究活動と教授陣
OVERVIEW
心理芸術人文学研究所 芳賀 繁 所長による研究所紹介です。
哲学・心理学からスクリーンとステージに橋を架ける
映像生態学プロジェクトの研究成果 報告会で行われたチームリーダーの パネルディスカッション(2015年6月)
心理芸術人文学研究所は2010年4月に創設された現代心理学部付属研究所です。当研究所は、心・身体・環境の相互関係を視野に置き、社会的環境の新しい要素である「映像」を重視しながら、21世紀の人間学の創造を目指す研究を行います。
また、心理学・臨床心理学・哲学・社会学・映像学等を横断する学際的人文学の創出を目指し、現代心理学部・研究科の研究教育の進展に貢献することを目指します。現在(2015年6月末)のメンバーは所長、副所長1名ずつのほか、所員は30名(現代心理学部および現代心理学研究科教員)、研究員1名、研究支援者9名(教育研究コーディネーター)、研究嘱託1名(事務担当)となっています。
また、心理学・臨床心理学・哲学・社会学・映像学等を横断する学際的人文学の創出を目指し、現代心理学部・研究科の研究教育の進展に貢献することを目指します。現在(2015年6月末)のメンバーは所長、副所長1名ずつのほか、所員は30名(現代心理学部および現代心理学研究科教員)、研究員1名、研究支援者9名(教育研究コーディネーター)、研究嘱託1名(事務担当)となっています。
心とからだと映像と
心を取り巻く現代社会の複雑な環境において人間とは何かを問うとき、身体(からだ)を考えることは極めて重要です。人間存在の多様な側面は身体を土台としています。心的病理の解明もまた社会的環境および身体と切り離すことができません。身体における感覚・知覚、認知、運動機能を基盤に、歴史的、社会的文脈の中で心身がいかに把握されるかを、総合的に研究する必要があるのです。また今日の世界では、これに加えて日常生活の隅々にまで流通するようになった映像が、身体と環境の一部となり、心身の営みに深く関与しています。
私たちは、心、身体、環境の相互関係を焦点として新しい人間学を切り開き、実証科学的知見、人文科学、芸術的創造という3つの領野を横断し融合する新しい知の創造を目指しています。この目標に向かって、最新の設備や技術を導入しながら、理論面および実践面において、心理学、身体学、映像学、そしてそれらの関連領域にわたる研究を行っています。さらに、こうした研究・開発の上に立って、優秀な人材の養成、国内外研究機関との活発な研究交流、イベントの開催、先端企業との共同開発、地域への貢献等を積極的に行っています。
私たちは、心、身体、環境の相互関係を焦点として新しい人間学を切り開き、実証科学的知見、人文科学、芸術的創造という3つの領野を横断し融合する新しい知の創造を目指しています。この目標に向かって、最新の設備や技術を導入しながら、理論面および実践面において、心理学、身体学、映像学、そしてそれらの関連領域にわたる研究を行っています。さらに、こうした研究・開発の上に立って、優秀な人材の養成、国内外研究機関との活発な研究交流、イベントの開催、先端企業との共同開発、地域への貢献等を積極的に行っています。
映像生態学プロジェクト
〈図1〉映像生態系とそれを捉える 学問・実践である映像生態学
心理芸術人文学研究所は2010年度に文部科学省の私立大学研究基盤形成支援事業に応募しました。この事業は、「私立大学が、各大学の経営戦略に基づいて行う研究基盤の形成を支援するため、研究プロジェクトに対して重点的かつ総合的に補助を行う事業であり、もってわが国の科学技術の進展に寄与するもの」とされており、「各大学が最先端の研究や地域に根差した研究などの観点から研究プロジェクトを計画・申請し、文部科学省が審査の上で選定を行い、当該プロジェクトを遂行するための研究拠点に対して、研究施設・設備整備費や研究費を一体的に補助する」ものです。
私たちは「新しい映像環境をめぐる映像生態学研究の基盤形成」という研究プロジェクト(通称「映像生態学プロジェクト」)を提案して採択され、2011年度から5年間の計画で研究を進めてきました。年間予算は約2000万円で、そのうち半額が国から補助されます。今年度がその最終年度です。
このプロジェクトは、急速な勢いで技術革新が続く新しい映像環境と、その中の人間との相互関係を「生態系」と捉え、さまざまな角度から科学的・人文学的に研究するとともに、実験的な映像作品の制作や身体表現を試みることで、「映像生態学」の研究基盤を立教大学新座キャンパスに形成することを目標にしています〈図1〉。
プロジェクトは4つのチームによって推進されています。
チーム1は「新しい映像環境がもたらす心理的影響の評価」に関する研究チームで、新しい映像技術・技法・表現が人間に及ぼすさまざまな効果を測定して、心理的効果が高く、かつ心身への悪影響が少ない技法・表現法の条件を探っています。このチームでは、また、超高精細映像や立体映像を撮影し編集する技術を研究して研究の素材を提供するとともに、質の高い4K/3Dの映像コンテンツ作品を制作しました。
チーム2は「新しい映像環境がもたらす映像体験の臨床的・教育的評価」に関する研究チームで、新しい映像技術・技法・表現がもたらす映像体験とその過程を研究して、動きのある画像を使った芸術・表現心理療法の効果を検証しています。また、鉄道運転士のためのタブレット端末を使った安全教育アプリの開発にも成功しました。
チーム3は「新しい映像環境における映画芸術の変容に関する研究」チームで、新しい映像技術・技法・表現が映画芸術における表現・体験をいかに拡張してきたかを映画学の立場から分析するとともに、新しい奥行き表現などを試みる映画作品を制作しています。出来上がった作品の一つである『SHARING』(篠崎誠監督)は、東日本大震災の記憶を現在の日常においてどのように受け止めるべきかという深刻な問題を、「奥行き」を創造的な手掛かりに、画面の深さと表層との自在な戯れによって映像化したもので、日本だけでなく韓国やカナダの国際映画祭で上映され、大きな反響を呼びました。
チーム4は「新しい映像環境における身体とイメージの変容に関する研究」チームで、新しい映像技術・技法・表現を「身体とイメージ」という問題の中に位置づけて、身体哲学、精神医学、舞台芸術表現の立場から検討しています。さまざまな演劇作品、ダンスなどが上演され、それに続くシンポジウムやパネルディスカッションにおいて身体哲学的考察を行いました。
今年の6月にはこれまでの研究活動を総括する一連の公開講演会を開催し、4人のチームリーダーが「映像生態学」のこれまでとこれからを展望するパネルディスカッションを行いました。映像生態学プロジェクトの活動を通じて、人間とそれを取り巻く新しい映像環境が持つさまざまな有形無形のインパクトおよび潜在的リスクが学術的・実践的に解明されて問題解決が図られるとともに、新しい映像技術・技法・表現の方向性が明らかとなりました。加えて、制作されたさまざまな映像作品、実験的映画、演劇作品は各方面から高い評価を得ました。この研究基盤の上に、映像環境と人間の関わりについてのさまざまな研究が促進され、映像技術・技法・表現、芸術、社会的応用の発展を牽引することになるでしょう。
私たちは「新しい映像環境をめぐる映像生態学研究の基盤形成」という研究プロジェクト(通称「映像生態学プロジェクト」)を提案して採択され、2011年度から5年間の計画で研究を進めてきました。年間予算は約2000万円で、そのうち半額が国から補助されます。今年度がその最終年度です。
このプロジェクトは、急速な勢いで技術革新が続く新しい映像環境と、その中の人間との相互関係を「生態系」と捉え、さまざまな角度から科学的・人文学的に研究するとともに、実験的な映像作品の制作や身体表現を試みることで、「映像生態学」の研究基盤を立教大学新座キャンパスに形成することを目標にしています〈図1〉。
プロジェクトは4つのチームによって推進されています。
チーム1は「新しい映像環境がもたらす心理的影響の評価」に関する研究チームで、新しい映像技術・技法・表現が人間に及ぼすさまざまな効果を測定して、心理的効果が高く、かつ心身への悪影響が少ない技法・表現法の条件を探っています。このチームでは、また、超高精細映像や立体映像を撮影し編集する技術を研究して研究の素材を提供するとともに、質の高い4K/3Dの映像コンテンツ作品を制作しました。
チーム2は「新しい映像環境がもたらす映像体験の臨床的・教育的評価」に関する研究チームで、新しい映像技術・技法・表現がもたらす映像体験とその過程を研究して、動きのある画像を使った芸術・表現心理療法の効果を検証しています。また、鉄道運転士のためのタブレット端末を使った安全教育アプリの開発にも成功しました。
チーム3は「新しい映像環境における映画芸術の変容に関する研究」チームで、新しい映像技術・技法・表現が映画芸術における表現・体験をいかに拡張してきたかを映画学の立場から分析するとともに、新しい奥行き表現などを試みる映画作品を制作しています。出来上がった作品の一つである『SHARING』(篠崎誠監督)は、東日本大震災の記憶を現在の日常においてどのように受け止めるべきかという深刻な問題を、「奥行き」を創造的な手掛かりに、画面の深さと表層との自在な戯れによって映像化したもので、日本だけでなく韓国やカナダの国際映画祭で上映され、大きな反響を呼びました。
チーム4は「新しい映像環境における身体とイメージの変容に関する研究」チームで、新しい映像技術・技法・表現を「身体とイメージ」という問題の中に位置づけて、身体哲学、精神医学、舞台芸術表現の立場から検討しています。さまざまな演劇作品、ダンスなどが上演され、それに続くシンポジウムやパネルディスカッションにおいて身体哲学的考察を行いました。
今年の6月にはこれまでの研究活動を総括する一連の公開講演会を開催し、4人のチームリーダーが「映像生態学」のこれまでとこれからを展望するパネルディスカッションを行いました。映像生態学プロジェクトの活動を通じて、人間とそれを取り巻く新しい映像環境が持つさまざまな有形無形のインパクトおよび潜在的リスクが学術的・実践的に解明されて問題解決が図られるとともに、新しい映像技術・技法・表現の方向性が明らかとなりました。加えて、制作されたさまざまな映像作品、実験的映画、演劇作品は各方面から高い評価を得ました。この研究基盤の上に、映像環境と人間の関わりについてのさまざまな研究が促進され、映像技術・技法・表現、芸術、社会的応用の発展を牽引することになるでしょう。
これからの活動
映像生態学プロジェクトが今年度で終了するため、私立大学研究基盤形成支援事業に応募する次期プロジェクトの準備を進めています。そのほか、今年度は映画『SHARING』の続編の制作も予定しています。また、来年度から大学院生の研究補助事業の新設を検討しており、これからも「心とからだと映像」をキーワードにしたさまざまな研究・創作活動の拠点としてユニークな存在であり続けたいと思います。
ジョスリーヌ・モンプティさんの ダンスと講演のポスター(2012年 6月、心理芸術人文学研究所主催の 公開講演会として上演
心理芸術人文学研究所 【創設】2010年 【所長】芳賀 繁(現代心理学部教授) 【住所】〒352-8558 埼玉県新座市北野1-2-26 新座キャンパス6号館8階 【開室時間】月~金曜 10:00~17:00 【E-mail】riarpah@rikkyo.ac.jp
※本記事は季刊「立教」234号 (2015年9月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
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観光学部 羽生 冬佳教授
プロフィール
PROFILE
立教大学心理芸術人文学研究所
【所長】芳賀 繁(現代心理学部教授)
【住所】〒352-8558 埼玉県新座市北野1-2-26 新座キャンパス6号館8階
【開室時間】月~金曜 10:00~17:00
【E-mail】riarpah@rikkyo.ac.jp
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