設計に基づく分子の自在制御を目指して

未来分子研究センター

2015/07/15

研究活動と教授陣

OVERVIEW

未来分子研究センターの枝元 一之 センター長による研究室紹介です。

設立の趣旨と目的

公開講演会「金属を内包したフラーレンの 構造と特性:理論計算と実験」(2015年3月14日)

立教大学理学研究科では、平成20年度(2008年度)に文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」として研究プロジェクト「高度な機能を有する未来分子材料の創製」が選定され、そのプロジェクトを推進する拠点として化学専攻の教員を主体に未来分子研究センターを立ち上げました。前述の5年間のプロジェクトにおいて、本センターでは外部刺激に対して合目的的に応答する知的応答機能分子の開発を目指した研究を行い、光に応答して色を変える分子や、光に応答して形を変える結晶など、さまざまな機能分子・分子材料の開発に成功しました。平成25年度(2013年度)には、本センターを拠点とする新たな研究プロジェクト「設計に基づく分子自在制御の化学」が同様に私立大学戦略的研究基盤形成支援事業として選定され、現在プロジェクトを進行させています。
現在進行中の研究プロジェクト「設計に基づく分子自在制御の化学」は、前回のプロジェクトの成果を踏まえて機能分子の開発をより進めるものですが、今回は特に革新的な機能を持った分子・分子材料の創造を可能とする新たな研究システム、すなわち計算と実験が密接に連携した従来にない研究システムを構築することを目指しています。化学の目的の一つは、分子の構造をさまざまに変えることでその性質を自在に制御し、新規な機能性を持った分子・分子材料を開発していくことにあります。従来、そのような開発は天然物の模倣に始まり、試行錯誤的に行われるのが通例でした。しかし、真に革新的な機能を持つ分子・分子材料を創製するには、機能性の本質の理論化学的解析とそれに基づく「分子設計」、それを基にした分子の「合成」と、合成した分子の構造・物性の「計測」、さらにその機能性の「評価」を行い、それらの成果を理論化学的解析にフィードバックして分子の再設計を行うサイクルを確立する必要があります。本センターでは、分子設計を担当する計算化学グループと、精密分子合成とその計測・評価を行う実験グループが密接に連携することで、「設計」─「合成」─「計測」─「評価」のサイクルを確立するとともに、このような新たな化学の探求を通じて新たな研究機構のモデルとなる研究拠点を形成することを目指しています。

現在の活動内容

大学院生による研究風景

以上のプロジェクトを推進するために、本センターでは計算による分子設計を担当する「設計グループ」と、実験的に機能分子の構築を行う「反応制御グループ」ならびに「物性・機能制御グループ」を設けています。本センターの研究メンバーはいずれかのグループに所属し、これらのグループが互いに成果をフィードバックし合うことにより、機能分子・分子材料の開発を行っています。「設計グループ」では、機能分子の設計上必須となる複雑系や励起状態にある分子を計算できる手法の開発を進め、さらにそれらを駆使して機能性の本質の理論化学的解析およびそれに基づく機能分子の設計を行っています。「反応制御グループ」は、反応性の制御が機能性発現の鍵となる物質、例えばグリーンプロセス触媒、不斉合成触媒、薬理作用を持つ分子、環境応答天然化合物等の開発を行っています。「物性・機能制御グループ」は、物性の制御が機能性発現の鍵となる物質、例えば光スイッチ機能を持つ蛍光分子、光変形分子結晶、光触媒、生分解性ポリマー等の開発を行っています。実験グループによる合成分子の物性・構造の計測結果、および機能性の評価結果は「設計グループ」にフィードバックされ、さらなる理論的解析を経て分子の再設計を行います。このようなサイクルを経ることにより、より高度な機能を持つ分子を開発することが可能となってきました。
それらの成果の一例として、光スイッチ機能を持つ蛍光分子の開発を紹介いたします。分子の中には光を当てると分子自身が光を発するものがあり、このような現象は「蛍光」、蛍光を発する分子は「蛍光分子」と呼ばれています。本センターでは、波長の異なる光を当てることで、蛍光を発するかどうかをスイッチできる分子が開発されました。この分子を利用すると、通常の光学顕微鏡よりはるかに解像度の良い超高解像顕微鏡を作ることができます。また、これらの分子に生体分子との親和性を高める部位を付加したことにより、生体組織の高解像イメージングを可能にする分子も、計算と実験の協力により開発されてきました。これらの分子は、バイオ分野をはじめとしてさまざまな分野での幅広い応用が期待されています。未来分子研究センターではこの他にもさまざまな成果が挙がっていますが、研究成果の詳細については、センターのWebサイト、および各センター員の研究室のWebサイトをご覧ください。
これらの研究には、大学院生も参画しています。特に、化学専攻の博士後期課程の学生は、現在のところ全員が未来分子研究センターのリサーチアシスタントを務め、センターの研究を主体的に担っています。大学院生が機能分子開発における世界でも最先端の研究を自ら行い、また次節で述べる公開講演会などにおいて世界でトップクラスの研究者と交流することの教育効果は大きく、ここ数年、本センターでの研究成果を学会発表した大学院生のうち数名がそれぞれの学会における優秀発表賞等を受賞しています。

成果の発信と外部評価

以上で述べた研究の成果は、さまざまな学術誌に論文として発表されているのに加え、主な成果については随時Webサイトで紹介されています。センターの定期刊行物として、『未来分子研究センターニュースレター』を年に1回発行し、センター員の研究成果を分かりやすく解説する記事を掲載してその広報に努めています。また、毎年センターの研究成果を報告する公開シンポジウムを開催しています。これは、専門の研究者や学生のみならず広く一般に公開され、これにより研究成果を広く社会に発信しています。また、次ページ表に示したように、学外の講演者をお招きしての講演会を年に数度開催し、そのいくつかは一般にも公開して機能分子開発の分野の啓蒙に努めています。2014年度末には、プロジェクトが立ち上がって2年経過したことを受け、外部有識者3名よりなる外部評価委員会による外部評価を実施し、その評価をもとに研究方向の再検討を行っています。

おわりに

今後、社会として限りある資源を有効活用していく技術の開発は必須であり、そのためにも革新的な機能を持つ分子の開発は重要です。そのような研究を行う拠点としての未来分子研究センターは、今後ますます重要度を増していくものと考えられます。ノーベル化学賞は、一昨年度は計算化学の進展に対して、昨年度は超高解像顕微鏡の開発に対して与えられました。これらのテーマは、本センター発足以来、主軸としてきた研究テーマと完全に合致しており、これはわれわれの目指す化学が世界的に重要視されていることを示すものといえるでしょう。当センターは発足以来8年目の若いセンターですので、新たな研究拠点の確立という理想に向けての途上にあり、今後のセンターの発展にご期待いただければと考えています。

2014年度に開催した 未来分子研究センター主催の講演会

4月11日 Sydnones, Nitrile imines, Carbodiimides and 1H-Diazirenes Prof. Curt Wentrup <The University of Queensland (Australia)>
5月23日 新規な高周期15族元素低配位化合物の合成と性質 笹森貴裕先生 <京都大学化学研究所>
9月10日 Recent Developments in Photoresponsive Molecules and Nanoparticles Prof. Neil Robin Branda <Simon Fraser University>
11月20日 Anion-Recognition as a Powerful Tool for Asymmetric Catalysis Prof. Daniel Seidel <Rutgers University>
11月22日 「元素科学と共に歩んだ半世紀」—元素科学を基盤とする有機合成反応の開発と応用— 玉尾皓平先生 <前日本化学会会長、理化学研究所・研究顧問・グローバル研究クラスタ長>
12月18日 計算化学手法を用いたイオン液体の研究:イオン間相互作用とイオンの輸送物性 都築誠二先生 <産業技術総合研究所 ナノシステム研究部門 ソフトマターモデリンググループ上級主任研究員>
3月14日 金属を内包したフラーレンの構造と特性:理論計算と実験 永瀬茂先生 <京都大学・福井謙一記念研究センター・シニアリサーチフェロー>
 

プロフィール

PROFILE

未来分子研究センター

【創設】2008年
【センター長】枝元 一之(理学部教授)
【住所】〒171─8501  東京都豊島区西池袋3-34-1 池袋キャンパス13号館6階C610(事務室)
【TEL】03-3985-4584

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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