連携講座「池袋学」|戦後池袋の検証~ヤミ市から自由文化都市へ~

渡部 裕太 さん(文学研究科博士課程後期課程1年次)

2015/10/14

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OVERVIEW

東京芸術劇場×立教大学 連携講座「池袋学」<夏季特別講座>

日時 2015年9月12日(土)14:00~16:00
会場 池袋キャンパス 11号館地下1階 AB01教室
講演者 吉見 俊哉 氏(東京大学教授)
マイク・モラスキー氏(早稲田大学教授)
川本 三郎 氏(評論家)
司会 石川 巧(文学部教授)
 

講演会レポート

吉見 俊哉 氏

今回の池袋学「戦後池袋の検証〜ヤミ市から自由文化都市へ〜」では、夏期特別講座として、川本三郎氏、吉見俊哉氏、マイク・モラスキー氏をお招きし、シンポジウムが行われました。

吉見氏は、今後の池袋を考えるために、文化資源区という考え方を示されました。まず東大周辺を例として挙げ、湯島・上野・寛永寺などの区域が徒歩圏内であることを指摘しました。その徒歩圏内の区域を文化資源区として考え、駅中心の限られた範囲でなく、歩ける距離で結ばれた緩やかな地域設定を行うことを提唱します。それを池袋に当てはめ、池袋駅というターミナルを中心に地域形成を考えるのではなく、むしろ雑司が谷霊園という墓地を中心に、それを取り巻く大学の街として、池袋・目白・早稲田・音羽池袋・目白・雑司ヶ谷などが大きな一つの地域のくくりとして考えられる、といいます。

そのために、都電を復活させる、循環バスを区の境界を越えて運用する、などの提言がなされました。

マイク・モラスキー氏

モラスキー氏は、闇市そのものの話として、闇市の飲み屋がパリのカフェに似ている、とおっしゃいます。それは、店のテーブルが外に置かれ、入店しながらも道に、街に所属したままである、という構造上の共通点によるものだとし、店の内外が非常に曖昧な、特権的な空間だと指摘しました。そのことがローカルな雰囲気、通りすがりの人と話しながら飲めるような空間を形成しているといいます。

また、ヤミ市を考える際、場所だけにとらわれてはいけないと指摘しました。「いちば」と「しじょう」の両面を持つこと、そこに居る人々にとっては戦争から連続した場であること、階級制が無化された解放区であること。流通・時間的連続・解放の三面から捉えることの必要性を強調しました。

川本 三郎 氏

川本氏は、池袋は若い街だ、とし、関東大震災による人口の移動によって一気に発展したことを指摘しました。品川と赤羽、赤羽と上野、という三角形のなかで、路線がないのが不便だとして開設されたのが池袋駅だとし、明治大正期にはほとんど文学作品などに取り上げられることのなかった場所だといいます。

さらに、種村季弘のエッセイなどを紹介し、そうした新しい街としての池袋の性格が、よそ者を受け入れる土壌となっている、といいます。
最後に吉見氏、モラスキー氏、川本氏によるパネルディスカッションが行われました。はじめに吉見氏からは、「自由文化都市」へと向かうこれからの池袋について、その「自由」の中身が気になる、という疑問が示されました。自分たちの生きている時代が自由ではない、という感覚を無意識にもっていて、そこからヤミ市を語ってしまう、そして生き生きした都市、ストリートカルチャーのようなものをヤミ市に見ようとしてしまうのではないか、という疑問でした。

それを受けて、モラスキー氏は、ヤミ市が自由なのは、計画都市ではなく、破壊によって前提された無秩序状態だからだ、とし、「自由文化都市プロジェクト」として管理下に置かれてしまうことで、自由が自己矛盾をはらむものになってしまう懸念があることを示されました。

それに対して川本氏は、中央線沿線などにまだヤミ市的空間が残っていることを挙げ、そういった場所は勝手にできて勝手に残る、として、都市計画によってヤミ市的空間が排除されてしまうことはないから安心している、と語りました。

また川本氏は、ヤミ市が建物疎開の結果であり、駅が空襲で燃えないよう家を強制的に壊したところに勝手に入り込んだだけだとし、手放しにヤミ市礼讃はあまりできない、とヤミ市の負の側面も指摘しました。

ヤミ市的なるものと、都市計画と、この両者の中でいかに池袋が発展していくか、というシンポジウムになったように感じました。ヤミ市的な「自由」は、整然とした計画都市からは対極のところにあります。

もちろん、無秩序状態としてのヤミ市的自由をこれからの池袋に求めることは出来ないでしょうが、自然発生的に人々が寄り集まり、新しい活気の生まれる余地のある街、という意味で、「池袋=自由文化都市」を考えたい、と思いました。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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