「パレスチナ人民連帯の国際年」記念シンポジウム 米アカデミー賞ノミネート作品『オマール、最後の選択』先行特別上映会

井上 美咲 さん(法学部国際ビジネス法学科2年次)

2014/12/19

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OVERVIEW

国連広報センター、明治大学、立教大学、国際大学主催 大学間連携共同教育推進事業「国際協力人材」育成プログラム 「パレスチナ人民連帯の国際年」記念シンポジウム

日時 2014年11月26日(水)18:40~21:10
会場 池袋キャンパス8号館8101教室
パネリスト マーヘル・ナセル 氏(国連広報局局長代行)
浅井 隆 氏(有限会社アップリンク社長)
金子 由佳 氏(日本国際ボランティアセンター パレスチナ事業現地調整員[ガザ事業担当])
長 有紀枝(本学21世紀社会デザイン/社会学部教授)
司会 根本 かおる 氏(国連広報センター所長)
 

講演会レポート

パレスチナ、イスラエルと聞いて、私たちは何を思い浮かべるでしょうか。パリ、ニューヨークなどの都市とは違って、鮮明に脳裏に浮かぶものはないかもしれません。
今回、「パレスチナ人民連帯の国際年」記念として、国連広報センターと立教大学、明治大学、国際大学「国際協力人材」育成プログラムが主催するシンポジウムが開催されました。前半に映画『オマール、最後の選択』(監督:ハニ・アブ・アサド/2013年/パレスチナ)を上映、後半には登壇者によるパネルディスカッションが行われました。
前半では、『オマール、最後の選択』が上映されました。この作品は第86回アカデミー賞外国語映画賞のノミネートをはじめ、多くの映画祭でノミネート、受賞をしている作品で、2015年には日本でも公開予定されています。現在の中東、分離壁で囲まれているイスラエル占領下のパレスチナ自治区を舞台とした映画です。分離壁、と聞くと冷戦下ドイツのベルリンの壁を想像する方が多いと思いますが、規模に大きな差があります。パレスチナの壁は、ベルリンの壁の高さ2倍以上、距離は5倍以上にもなるそうです。壁の向こうに行くには検問所を通らなくてはならず、簡単に行き来することはできません。映画は、その壁をロープを使って登るパレスチナ人青年のシーンから始まります。登っている最中にイスラエル側から銃弾が飛んでくるので、会場も一気に緊張感に包まれました。この青年には幼なじみが2人いて、その片方の妹と恋をしています。また、彼らはイスラエル軍に対抗する一つのグループですが、主人公の青年はイスラエル軍に捕まりスパイになることを迫られます。四方八方を壁でふさがれ、究極の選択の中を生き抜く若者を描いた作品です。まず、驚くのは占領下のパレスチナと聞いて想像したイメージと、映画での情景に差があることでした。学校に通う女の子たちがいて、人々は普通に生活をしているように見えます。パンを焼くのに機械が使われ、イタリアのピザ窯のようなもので焼いている姿は、とても生活感にあふれ、豊かに見えました。一方で、大きな銃を持ったイスラエル軍が周囲を車で巡回していて、秘密警察に対し投石をする子どもたち、そしてそびえ立つ壁の圧迫感も大きく、そのギャップに戸惑いを感じました。
後半には、マーヘル・ナセル国連広報局長代行をはじめ、有識者によるパネルディスカッションが行われました。実際にパレスチナで働いている日本国際ボランティアセンターの金子由佳さんのお話では、パレスチナには分離壁を行き来するための検問所が542か所あり、この検問所によって救急車の通行が阻害され、移動中の出産や急病人の死亡が多く発生したり、約150のコミュニティが分断されたり、また、入植によって53万戸の住宅などが破壊されたりもしているそうです。今回、映画の提供をしてくださったアップリンク社長の浅井隆さん、立教大学の長有紀枝教授は、パレスチナとイスラエルとの力の差が大きいことや、人道支援だけでは政治的問題の解決はできないこと、また、現在のパレスチナで生活する人々の様子や、彼らの生き抜く力の源泉などについてお話ししてくださりました。印象的だったのは、パレスチナの人々がどんなに緊張した場面でもジョークを言うということと、その理由が「笑っていないと正気でいられないから」ということでした。
日本人にとって、紛争、戦争は遠い話になっていると思います。戦後約70年が経ち、シリアなど中東の紛争のニュースを見ても、身近に感じることはなかなか難しいのではないでしょうか。しかし、紛争はいまだに世界各地で起こっています。また、宗教的対立においてはテロリストだ、過激だというイメージが先行しがちですが、ナセル国連広報局長代行がおっしゃったように、彼らも私たちと同じく、愛し合い、悲しみ、怒る人間であるということ、今も世界のどこかで、人類の歴史が生み出したひずみの中で生きる人々がいるということを、物理的に遠く離れたこの国で暮らす私たちに印象付ける、有意義なシンポジウムでした。より多くの方に、この映画を見ていただきたいと思います。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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