2023年4月、スポーツウエルネス学部(仮称)設置構想——すべての人の生きる歓びのために

立教大学

2022/01/31

アスリート&スポーツ

OVERVIEW

立教大学は、2023年4月に現在のコミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科を改組し、スポーツウエルネス学部(仮称・以下略)を設置、またそれに伴うコミュニティ福祉学部の改編を構想しています。今号では、新学部設置構想にあたっての背景や展開する学びの内容について、コミュニティ福祉学部学部長の沼澤秀雄教授とスポーツウエルネス学部設置準備室長の石渡貴之教授にお話を伺います。

キリスト教に基づく教育の中で展開されるスポーツを通じた人間形成

超高齢社会への突入や新型コロナウイルスの影響によるライフスタイルの変化などを受け、人々の健康に対する意識は高まっています。そうした中、心身の健康だけでなく、その人の価値観や生きがいなどを含んだ多元的な健康観である「ウエルネス」という考え方をベースに研究・教育活動を行ってきたのが、08年に設置したコミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科です。23年4月に学部として設置する構想があり、これまでの実績を基盤に内容を発展・充実させたカリキュラムにするための議論が進んでいます。

「そもそも、スポーツは立教大学の学びの核であるキリスト教と深い関係があります」と語るのは、沼澤教授です。近代スポーツが大きく発展したのは、イギリスのパブリックスクールが人間形成を目的にスポーツ教育を取り入れたのがきっかけでした。そして、学生がフェアにスポーツに取り組む様子を見たフランスの教育者ピエール・ド・クーベルタンは、国籍や文化の差異を超えて国際交流を活性化し平和な社会を実現させるには、スポーツが大きな役割を果たすと考え、オリンピックの復興に着手したのです。

「身体活動であるスポーツに、人間形成や人間性の再創造(recreation)を見いだすことは、立教学院の建学の精神『キリスト教に基づく人間教育』にも通ずる部分があります。立教大学がスポーツウエルネス学部を新設することは、大変意義深いことだと思います」と沼澤教授。さらに、キリスト教の学びにはイギリスのパブリックスクールにも見られるような「学び舎」「チャペル」「運動場」の3つがそろった環境が重要だと続けます。

「学び舎で学問と向き合い、チャペルで祈りを捧げ、運動場でスポーツに取り組む。三位一体で教育を行うことで、豊かな人間性を育むことができるのです。広大な敷地にそれらを擁する新座キャンパスは、まさに理想的な環境と言えるでしょう」
スポーツウエルネス学部(仮称)設置およびコミュニティ福祉学部の改編構想

※本設置計画および改編計画は構想中であり、内容に変更が生じる場合があります。

(左)かつて池袋キャンパスにあったレンガ造りの体育館(外観・1921年)、(右)昔の体育館の内観(1922年)

(左)総面積約15,300㎡の規模を誇り、400mトラックや人工芝のインフィールド等を備える、新座キャンパスの陸上競技場「セントポールズ・フィールド」、(右)新座キャンパスの「セントポールズ・アクアティックセンター」。50m×10コースを備える、日本水泳連盟公認の室内温水プール

「ウエルネス」とは?

スポーツウエルネス学部の軸となる「ウエルネス」の概念は、1961年にアメリカの医師であるハルバート・ダンが「輝くように生き生きしている状態」と提唱したものです。「単に身体が強ければいいということではなく、全ての人が自分なりのベストな生き方を探り、ポジティブで豊かな生活を送るためにはどうすればいいかを追究していく。そのためには、運動やスポーツ、レクリエーション、環境、教育、心理などの多角的なアプローチが求められます。スポーツウエルネス学部が他大学のスポーツ系学部と異なるのは、こうした学際的な研究領域を基盤にしている点でしょう」と沼澤教授。

スポーツウエルネス学部設置準備室長である石渡教授は、新学部が掲げる理念についてこう続けます。

「スポーツウエルネス学部は『すべての人の生きる歓びのために』を理念に、子どもや高齢者、健常者、しょうがい者などあらゆる人々に寄り添い、『楽しみ』『生きがい』を創造できる人物を育んでいくことを考えています。新たな理念のもと展開される教育は、人生100年時代やポストコロナ時代の社会課題解決にも大きく貢献できるはずです」

ウエルネス向上に寄与する人物を育む新学部の学び

※2022年度までにスポーツウエルネス学科に入学した学生も、スポーツウエルネス学部の専門科目の履修が可能になります。

スポーツウエルネス学部が想定している学びは大きく3つの領域に分かれます。スポーツ科学の知見を総合的に理解しアスリートのパフォーマンス向上のために取り組む「アスリートパフォーマンス領域」、心身のウエルネスに関する専門性やしょうがい者スポーツに関する知見を学び、全ての人がスポーツの価値を享受できる社会を目指す「ウエルネススポーツ領域」、環境問題やサステイナビリティ社会に関する知見をもとにスポーツを通した人間教育を行う力を培う「環境・スポーツ教育領域」からなり、それぞれの内容に沿った専門科目を履修しながら、人々のウエルネス向上とウエルネス社会の構築に寄与できる力を養っていきます。3領域が展開する学びについて、沼澤教授はこう言い添えます。

「コロナ禍によって、自粛生活が続き身体を動かさなくなったり、他者とのコミュニケーションが少なくなったりと、心身を良好な状態に保つのが難しくなりました。新しい時代を生きるためには、健康・ウエルネスに対する新しい考え方を持ち、幅広い学びに臨む必要があると感じます」
また、スポーツウエルネス学部の全ての学生が共通で学ぶ科目も準備しており、中でも特に重要なのが「スポーツマンシップ論・スポーツリーダーシップ論」であると強調する石渡教授。

「スポーツウエルネス学部に所属する者として、他者を思いやりルールを遵守するフェアプレーの精神は必ず身に付けてほしい。そのスポーツマンシップを踏まえ、社会でチームを導き課題に向き合うためのスポーツリーダーシップも養います」
この他に、国外で活躍できる英語運用能力を養う「専門英語科目群」、スポーツ分野に浸透しつつあるAIやIoTを使いこなすための知識を習得する「データサイエンス科目群」なども用意。学生はさまざまなツールを手に、スポーツウエルネス学部で得た知見を広く発信できる力を身に付けます。

なお、スポーツウエルネス学部の設置準備と並行し、コミュニティ福祉学部の改編も構想中です。改編前に同学部へ入学した学生については、卒業するまでカリキュラムに変更はなく、23年4月以降の入学生から新カリキュラムとなります。

他学部や地域との連携も視野に

石渡教授によると、スポーツウエルネス学部設置に伴い新たな専任教員の着任も検討されているといいます。

「教員数が増えると研究分野や学びの幅も広がり、『ウエルネス』というテーマに対してより多角的・多元的なアプローチが可能になります。競技力の追求だけでなく、人々が気軽にスポーツに触れられる機会を創出したり、地域のスポーツクラブの運営に携わったりと、スポーツのあらゆる側面に関心を持つ学生にぜひ入学してほしいと考えています」
こうした学部内での可能性の広がりの他にも、他学部との連携や地域社会とのつながりも強化したいと話す沼澤教授。

「これまでも学科間でコラボレーションをする機会はありましたが、今後は学部と学部でダイナミックな連携が取れるようになるはずです。立教大学内だけでなく、小・中・高・大のスポーツを通じた一貫連携教育についても議論が進んでいくでしょう。また、新座キャンパスならではの地域連携活動も積極的に行い、地域のまちづくりや健康づくりに取り組んでいきたいです」

現代社会が抱えるさまざまな課題の解決につながり得るスポーツウエルネス学。立教大学が創出した新たな学問領域は、学部の設置によりさらに深化発展していくことが期待されます。

沼澤 秀雄

立教大学コミュニティ福祉学部 学部長
立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授
立教大学体育会長

ぬまざわ ひでお/
順天堂大学大学院体育学研究科コーチ学専攻修了。1992年立教大学一般教育部保健体育科専任講師に着任、2008年よりコミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授。スポーツ競技のコーチングをテーマに、トレーニング科学の観点からスポーツ指導現場で生じる問題について研究を行う。

石渡 貴之

立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授
立教大学ウエルネス研究所 所長
立教大学スポーツウエルネス学部設置準備室長

いしわた たかゆき/
東京都立大学大学院理学研究科生物科学専攻修了。2010年立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科准教授に着任、2018年より同教授。環境生理学・温熱生理学を専門に、体温調節における脳内神経伝達物質の役割や、メンタルヘルスに着目した体組成と運動との関係について研究を行う。

※本記事は、『立教学院NEWS』Vol.40(2022年1月)の記事を再構成したものです。記事の内容およびプロフィールは、取材当時のものです。

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