周防正行監督 講演会
「立教大学の100年、『シコふんじゃった。』の30年」

2023/02/02

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

2022年12月10日(土)に池袋キャンパスで開催した、立教学院創立150周年記念企画 大学生保護者向けオープンデイにて、映画監督の周防正行さん(1981年文学部卒)による講演会を実施。「立教大学の100年、『シコふんじゃった。』の30年」と題し、総合司会を務めた日本テレビアナウンサー豊田順子さん(1990年文学部卒)との対談形式で行われました。自身の学生時代の思い出や映画制作の裏話など多彩なトークの一部をご紹介します。

人生を決定付ける出会いがあった立教大学

豊田 周防監督が大学を卒業して40年ほどが経ちますが、立教大学とはどのようなところだと感じていますか?

周防 4年次に小さな独立プロダクションの助監督になることを決めた時に、僕が在籍していたフランス文学科(当時)の先生方が「おめでとう」と言ってくれたんです。一度も話したことのない方も含め、先生方が学生の顔と名前を覚えてくれているのには驚きました。いわゆるマンモス大学ではない、程よい規模の大学だからこそ、そうした温かみがあって居心地の良さを感じていました。

豊田 同感です。本日は「立教大学の100年」というテーマもありますが、大学の歴史を学生時代には意識されていましたか?

周防 キャンパスの雰囲気に歴史を感じていました。卒業後に映画監督として、撮影場所の見学でいろいろな大学を見て回ったのですが、立教は抜群に絵になるんですよ。

豊田 周防監督が立教生だったのは70年代後半。当時の立教大学の雰囲気はいかがでしたか?

周防 「何をやっても生きていけるさ」という気軽さはありましたね。だからこそ、好きなことをやりたい、好きなことを見つけたいという思いがありました。僕は高校生の頃から映画や芝居が好きだったのですが、あくまで観る側の立場でした。立教大学に入って、フランス文学者であり、後の東大総長になられるはす重彦先生の「映画表現論」という科目を受けました。それが、映画を作る側に回る大きなきっかけになったので、僕にとって人生を決定付ける出会いがあったのが立教大学でした。

豊田 蓮實先生の授業に、いまの周防監督の“種”のようなものがあったのでしょうか?

周防 蓮實先生のお名前は入学前から映画雑誌で目にしていて、「よく分からない批評を書く人だな」と思っていました。というのも、当時の批評は“裏目読み”で映画を政治的に読み解いたり、背景を探ったりというものが主流でした。しかし、蓮實先生は「映画は映っているものがすべて。映っているものを見なさい」と言うのです。映っているものだけを見ればいいとなると、変な言い方ですが、映画が“やさしく”なりました。授業で出る課題は、劇場で映画を見てきて「何が映っていたか」を皆で話し合うというもの。そうすると、自分がいかに見ていないかが分かるんです。それが大学に入って一番大きな学びでしたね。

豊田 最近の若い人たちは、映像を1.5倍速で見たり、タイムパフォーマンスを考えたりする人が多いようですが、それをどのように受け止めていますか?
周防 時代の変化だと思います。僕が若い時の当たり前がいまも当たり前なわけがないんですよね。例えば、昔の映画は静止画の連続であるフィルムだったのが、いまはデジタルが主流になっている。そもそも最初は音のないサイレント映画で、活動弁士という職業の人が説明していたんです。映像を見た瞬間の理解のスピードも、昔といまでは全く違うのではないでしょうか。ただ僕としては、そんな見方を云々するより、等速で見たくなる映画を作りたいですね。

相撲の映画を撮ったおかげで、立教相撲部と関われるのが楽しい

豊田 周防監督の『シコふんじゃった。』が大ヒットしたのはバブルの余韻が残る92年。主演は本木雅弘さん。周防監督は36歳。どのような状況の中で映画監督を務められたのでしょうか?

周防 70年代、80年代は、日本映画はあまり相手にされず、観客が少ない時代でした。宮崎駿さんや伊丹十三さんといったヒットメーカーが登場したのが80年代です。伊丹さんが言うには「アメリカ娯楽映画に対抗できる日本映画を作らなければ、これからの日本映画はダメだ」と。そうした中で「アメリカ娯楽映画に匹敵する、誰が見ても面白い映画を作ってやろう」という野心のもとに作ったのが『シコふんじゃった。』です。どうすれば多くのお客さんにきてもらえるか。まずは若い女性に観にきてもらうことが重要だと考え、話題作りに「モッくん(本木雅弘さん)を裸にしよう」と決めました。それで相撲がテーマになったんです。ただ大相撲をテーマにしても、周りの力士役をどうするのかという問題がありました。体が大きくて演技ができる人をそろえるのは難しい。そんな時に立教大学相撲部の存在を知るわけです。学生相撲の取材を始めてみると、大相撲の予備軍とは全く違う世界があると知って、一番弱い3部リーグの学生たちを主人公にした相撲映画になったんです。

豊田 私は「シブがき隊」のファンだったので、本木さんのまわし姿をしっかりと見ました。周防監督の術中にまんまと、はまった気がします。『シコふんじゃった。』は日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得しましたが、振り返っていかがですか?

周防 幸運だったと思います。当時、日本映画の観客は少なかったものの、世界的に評価の高い作品はありました。そんな年に、笑いに溢れた娯楽映画がベスト1になってしまったのは、当時の日本映画に一番足りないものがエンターテイメントだったからではないかと思います。そういう意味では、伊丹さんがおっしゃっていた「アメリカ娯楽映画に対抗できる映画」として、スケール感は小さいものの、面白さでは対抗できたのかなと。『シコふんじゃった。』がヒットしてくれたおかげで、その後も映画監督を続けることができました。

豊田 周防監督は2018年に立教大学相撲部の名誉監督に就任されましたが、相撲部の活動にはどのように関わっているのでしょうか?

周防 試合があれば確実に見に行きます。また週に一度、オンライン稽古に参加して自宅で四股を踏んだり、新入生に相撲部に入ってもらうためのリクルーティング活動を行ったりしています。現役時代は相撲部と縁がなかったのに、相撲の映画を撮ったおかげで、このように関われるのが不思議で、楽しいですね。

豊田 2022年10月には続編ドラマ『シコふんじゃった!』の配信が開始しました。どのようなきっかけでこの作品を作られたのですか?
周防 最初は『シコふんじゃった。』のリメイクというお話をいただいたのですが、30年前の作品をもう一度繰り返すのはつまらないから、あれから30年後の新しい学生相撲の世界を描けないかと思ったんです。僕がずっと気になっていたのは、女性が土俵に上がれないかということでした。30年前の『シコふんじゃった。』では正子という相撲部のマネージャーが男に扮して土俵に上がるんですね。なぜそんなストーリーにしたかというと、当時の新聞記事で見たのですが、「わんぱく相撲全国大会」というものがあって、各地区で優勝した小学生が国技館に集まってナンバー1を決めるんです。ある地区では女子が優勝したのですが、国技館の土俵に女子は上がれないという決まりがあって、代わりに男子が上がったんです。そんなニュースを見て、僕は絶対に女の子を土俵に上げたいと思ったんです。30年前は男と偽って土俵に上げたんですが、30年後の新作では、女子が女子として土俵に上がる物語にしたいとスタッフに話しました。今後、男も女も関係ないという世界になっていくと思いますが、現在も国技館の土俵に女性は上がれない。そういう世界がどう変わっていくのかという意味も含めて物語を作りました。

転んだ時にどう立ち上がるかで次が決まる

豊田 ここ数年間、私たちはコロナ禍の影響を受けてきました。そんな状況の学生さんを見て、どんなエールを心の中で送っていたのでしょうか?

周防 せっかく大学に入ったのにキャンパスにも行けない時期を過ごしたと聞いています。残念でなりませんが、そういう環境だからこそ学べることもあると思いますし、この経験を今後の糧にしてほしいですね。人は転んだ時にどう立ち上がるかで次が決まると思います。

豊田 そうですよね。学生の話を聞いていると、失敗することを怖がっている印象があります。立教で講師を務めていても、何に失敗して、どう立ち上がったかという話を聞きたがる学生は多いです。ぜひ大学生活の中で学んでほしいですね。

周防 僕の大学時代は本当に能天気で、「転んだらどうしよう」なんて考えていませんでした。失敗は成長の過程なので、失敗した時はチャンスだと思ってほしいですね。

豊田 最後に保護者の皆さんにメッセージをいただけますでしょうか?

周防 誰でも失敗はします。でも失敗したときに、「何があっても親は味方だよ」というメッセージをお子さんに送ってあげれば、後はそれぞれが自分の力で自由にのびのびと生きていけるのではないでしょうか。立教大学もサポートしてくれるはずです

豊田 OBOGのことも、うまく頼ってほしいですね。

周防 そうそう、頼ったほうが良いですよ。頼られると、こちらも嬉しいですし。大学は、そういうネットワークの場でもあると思います。

プロフィール

周防 正行
映画監督
1981年 立教大学文学部フランス文学科(当時)卒業

1956年東京都生まれ。1984年に映画監督デビュー。1992年に学生相撲をテーマにした『シコふんじゃった。』で第16回日本アカデミー賞最優秀賞を受賞。1996年に公開した『Shall we ダンス?』では社交ダンスブームを巻き起こし、第20回日本アカデミー賞13部門独占受賞。2022年、『シコふんじゃった。』から30年後の学生相撲を描いた配信ドラマ『シコふんじゃった!』を発表。

豊田 順子
日本テレビ放送網株式会社 コンテンツ戦略局アナウンス部専任部次長 アナウンサー
1990年 立教大学文学部英米文学科(当時)卒業

1966年長野県生まれ。埼玉県岩槻市(現・さいたま市岩槻区)育ち。1990年、日本テレビ入社。アナウンス部に配属され、『スポーツジョッキー中畑クンと徳光クン』でアナウンサーとしてデビュー。以後、『スポーツうるぐす』『NNNきょうの出来事』など、主にスポーツ、報道分野の番組を担当。現在は『NNNストレイトニュース』などを担当しながら、若手アナウンサーの研修・人材育成も行う。

CATEGORY

このカテゴリの他の記事を見る

立教卒業生のWork & Life

2024/03/15

「動物ものまね芸」で笑いを届け、自然や動物を大切にする心、興...

演芸家 五代目 江戸家 猫八さん

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。