アメリカ研究所の過去・現在・未来

 アメリカ研究所は今から半世紀以上も前の一九三九年に設立された(実質的な活動は翌年四〇年から)立教大学で最初の研究所(設立当初は大学付属ではなく学院直属)であるばかりでなく、日本で最初のアメリカ研究機関でもある。
 設立当時、日本はすでに戦時体制にあり、日米関係も悪化の一途をたどっていた(日米開戦は四一年)。そうした緊迫した時期に、アメリカヘの理解と親善を深めることを目指し、多角的にアメリカ研究を行う学際的な研究機関として設立されたのがアメリカ研究所である。その後、諸般の事情から研究所の一時閉鎖や、財政的な理由による組織規模の縮小などの変化はあるものの、今日までその目的および活動に大きな変更はない。
 基本となる活動は、まず、アメリカ研究に必要な図書・資料の収集・整備・貸出と、利用者へのレファランスである。次いで、公開講演会、シンポジウム等の企画・開催、そして、定期刊行物の編集・発行である。こうした諸活動は学内の学生・教員はもらろん、学外の学生・研究者・一般へ向けても行われている。研究所は主にこの三つの活動を通して、アメリカヘのより深い理解と、日本におけるアメリカ研究の推進を支援している。
 近年、研究所が特に力を入れているのが、毎年秋から冬にかけて多彩な講師を招いて開催する公開講演会やシンポジウムと、定期刊行物の発行である。九九年には設立六〇周年を記念する二つの講演会を行った。日本におけるアメリカ研究の第一人者である斎藤眞東京大学名誉教授を講師とする「日本におけるアメリカ研究──その歴史と今後の課題」と、トーマス・S・フォーリー駐日アメリカ大使を講師とする「民主主義──その普遍的価値の共有にむけて」である。どちらも学内外から多数の参加者を得て大盛況のうちに幕を閉じた。
 九八年度はアメリカ研究の枠に縛られない画期的なシンポジウム「文化はいかに国境を超えるか──人種・民族・国籍をめぐつて」(報告者は、金石範(在日朝鮮人作家)、巽孝之(慶應義塾大学)、本橋哲也(東京都立大学)の三氏)と、講演会「多文化主義時代と映像──ハリウッド映画の中のアジア人」(講師はノンフィクション作家の村上由見子氏)を開催した。九七年度は三回の連続公開講座「アメリカ文化のいま」(生井英考氏(共立女子大学)による「アメリカの現代写真──一九六〇年代から現代へ」、加藤幹郎氏(京都大学)による「アメリカ映画の構造と歴史」、小池美佐子氏(東北大学)による「アメリ力演劇──二十一世紀への胎動」)を開講した。九六年度には、シンポジウム「アメリカの光と影──多文化主義をめぐって」(講師は、荒このみ(東京外国語大学)、越智道雄(明治大学)、野村達朗(愛知学院大学)の三氏)を行った。
 こうした講演会やシンポジウムの成果は、毎春刊打される研究年報『立教アメリカン・スタディーズ』(九七年度刊行分までのタイトルは『アメリカ研究シリーズ』)において報告記事や講演録、講師の方々からの寄稿論文の形で公表される。この年報は学内の学生・教員・職員はもちろん、学外の研究者や一般へも部数の許す限り無償で配布され、毎号多くの反響を呼んでいる。出版活動としては他に、九八年度からはじまったアメリカの映像文化を中心的に扱う研究プロジェクト「アメリカの文化表象と多文化主義」における研究会等での成果を、二〇〇〇年度末を目処に書籍として刊行する予定である。
 研究所では今年も引き続き設立六〇周年記念講演会・シンポジウム等を計画している。詳細は所長の阿部珠埋教授(社会学郡)を中心に現在検討中だが、九五年から研究所が取り組んでいる多文化主義の立場からアメリカ文化をとらえ直すという研究方針に沿ったものとなる予定である。
 また、二〇〇〇年度には、八一年度から九六年度まで続いた研究所提供による一般教育の自由選択科目「総合講座アメリカ研究」を引き継ぎ、全学共通カリキュラムの総合科目 B 群において「アメリカン・スタンダードの現在と未来」を開講する。そこでは、現代の「世界標準」となったアメリカの政治・経済・文化などが、学際的なアプローチから批判的に検討されるだろう。
 財政的に見れば、研究所の未来はけっして明るくはないが、設立当初から七三年までの長きに渡って研究所の活動に携さわられた故・清水博本学名誉教授が American Studies in Japan: Oral History Series(第一号、一九七七年)
* で語られた言葉は重要な示唆を与えてくれる。「個人で閉じこもって[研究を]やるというのは、それはそれでいいのですけれども、ある程度はやっぱり、皆で協力するということが必要じやないかと思います。そのために、こういうもの[研究所]が、小さくてもひとつの足掛かりになる。あまり大言壮語してもあれもこれもできないから、確実に一歩ずつ行こう」。

(アメリカ研究所 常勤嘱託 飯岡詩朗)

*東京大学アメリカ研究資料センター発行
 

*雑誌『立教』172号、70-71頁(研究所コーナー)より転載