1999年度 立教大学アメリカ研究所主催公開シンポジウム
文化はいかに国境を超えるか
人種・民族・国籍をめぐって
本橋哲也/巽孝之/金石範
 今回のシンポジウムでは、報告者の方々にまず各々30分程度の持ち時間で現在最も関心を持たれている内容にそくして話していただき、その後報告者相互または会場の参加者からの質問を受け、それに応答し、最後に報告者三人の方々から10分程度で締め括りの意見を述べてもらいます。
 本橋哲也さんには、ヨーロッパ系の白人が打ち立てた近代の文化的覇権主義が、いまどのように組み直されようとしているのかを、カチュラル・スタディーズの動向をふまえてお話していただきます。
 巽孝之さんには、アメリカ合衆国の歴史的な状況をふまえて、アメリカ文化の問題点をイギリス文化や日本文化とからめつつ問題提起していただきます。
 金石範さんには、1998年という時点において、日本・韓国・北朝鮮の関係を在日作家の立場から文化と国籍というようなテーマでお話していただきます。

 

日時: 1998年12月19日(土)13:30-17:30
場所: 立教大学池袋キャンパス
太刀川記念館3階多目的ホール
報告者:
本橋哲也
(東京都立大学・英文学)
巽孝之
(慶應義塾大学・アメリカ文学)
金石範
(作家)
司会:
小林憲二(研究所所長・本学教授)
 

報告

 1998年度、立教大学アメリカ研究所は、「文化はいかに国境を超えるか──人種・民族・国境をめぐって」と題するシンポジウムを企画し、アメリカ研究の枠を超えた三人の報告者──カルチュラル・スタディーズの構えからシェイクスピアを中心に研究されている本橋哲也氏、『ニュー・アメリカニズム』等でアメリカの国家形成と様々なナラティヴの関わりを検証されるなど、様々な角度からアメリカ文学・文化の研究をされている巽孝之氏、そして、在日朝鮮人作家で『火山島』などの小説で知られる金石範氏──を迎え、様々な角度からの報告・討議を行いました。
 本橋氏は、まず、カルチュラル・スタディーズを、中立的、客観的な立場からのスタティックな「文化の研究」ではなく、政治的な立場からのダイナミックな「文化研究」であると定義され、つづいて、カルチュラル・スタディーズの構えがトランスナショナライゼーションにいかに介入しうるかを、同席する金石範氏の言葉などを引用しながら理論的に検討されました。その後、具体的な文化のトランスナショナライゼーションの検証作業として、シェイクスピアの『テンペスト』の登場人物の一人であるキャリバンの表象の変遷をたどりながら、被抑圧者による語りの可能性を探究されました。
 巽氏は、「インディアン」に連れ去られた白人による「捕囚体験記」がアメリカ合州国の国家形成において重要な役割を果たしたナラティヴであることを示された後、その捕囚体験記が第二次大戦後の国家再建期の日本に移植され、「アパッチ小説」とも呼ぶべき文学サブジャンルを形成した経緯、さらには、1640年代を舞台とし、異端審問を扱うアメリカ文学(ホーソーンの『緋文字』)と日本文学(遠藤周作の『沈黙』)が捕囚体験記の枠組みをいかに応用しているかを具体的に検証されました。その検証を通して、アメリカの捕囚体験記だけでなく、その枠組みを用いた日本の「アパッチ小説」やアメリカと日本の異端審問物語もまた、「混成主体」(異人種/異民族混血者、在日朝鮮人、人類学的新種族、宗教的異端者、等々)を積極的に評価するヴィジョンを提示している、と報告されました。
 金氏は、在日朝鮮人として日本語で創作活動を続ける作家の立場から、「韓国文学」でも「日本文学」でもない「在日朝鮮人文学」の可能性を、その越境性の問題と「在日」にとっての国籍の問題とを結び付けて語られました。その中で、「在日朝鮮人文学」を日本の帝国主義が生み出した「ディアスポラ」による「日本語文学」であると定義され、自らの作品『火山島』を例に、「ディアスポラ」的性格を持つ「在日朝鮮人文学」の可能性をとらえるには、旧来の(支配者側がつくり出した)「日本文学」という枠組みを超える何か別の枠組みが必要であるとの主張を展開されました。
 学内外の学生、研究者、教員、一般から多数の参加者を得て、三氏による報告の後、活発な質疑応答が行われましたが、金氏の報告録への採録者による補足説明に記されているように、とりわけ金氏へ多くの質問が集中しました。そこで行われた質問と応答は、具体的な内容を超えて、質問者にとってはもちろん、すべての参加者にとっても、自分がいま、どのような立場から発言をしているかを捉え直し、「文化はいかに国境を超えるか」というテーマを主体的に考えてゆくための手がかりとなったと思います。

飯岡詩朗
立教大学アメリカ研究所

『立教アメリカン・スタディーズ』第21号(5-6頁)より転載

 

なお、の三氏には、今回の講義をもとに、当研究所発行する定期刊行物『立教アメリカン・スタディーズ』第21号に寄稿していただきました。


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