2026/03/12 (THU)
【資料紹介】「日本ネグロス・キャンペーン委員会資料」(R25)について(1):運動の概要と資料紹介
共生社会研究センターRA(リサーチ・アシスタント)
立教大学大学院社会学研究科博士課程後期課程 宮澤篤史
共生社会研究センターRAの宮澤篤史です。
今回から2回にわたって、センターが所蔵する「日本ネグロス・キャンペーン委員会資料」(R25)を取り上げます。第1回となる今回は、「日本ネグロス・キャンペーン委員会」とは何か、どのような運動を展開したのかを概観するとともに、運動の一端を表す資料を一部ご紹介します。
立教大学大学院社会学研究科博士課程後期課程 宮澤篤史
共生社会研究センターRAの宮澤篤史です。
今回から2回にわたって、センターが所蔵する「日本ネグロス・キャンペーン委員会資料」(R25)を取り上げます。第1回となる今回は、「日本ネグロス・キャンペーン委員会」とは何か、どのような運動を展開したのかを概観するとともに、運動の一端を表す資料を一部ご紹介します。
日本ネグロス・キャンペーン委員会(JCNC)とは
「日本ネグロス・キャンペーン委員会」(以下、JCNC [Japan Committee for Negros Campaign])は1986年2月に発足した日本のNGOです。「ネグロス」とは、フィリピン中部に位置するネグロス島(英語留学でなじみのあるセブ島の西隣)を指します。19世紀半ば以降、サトウキビのプランテーションが行われたネグロス島は「砂糖の島」とも呼ばれてきました。
そんな「砂糖の島」・ネグロス島を深刻な飢餓が襲いました。1980年代前半に砂糖の国際価格が暴落すると、砂糖産業に経済が支えられていたネグロス島では、砂糖価格が安定するまでサトウキビ生産を中止することを農園地主が決定。これにより失業した農園労働者は食料を買うことが出来なくなり、その結果として深刻な飢餓が発生したのです。この事態を受けて日本の「フィリピン問題連絡会議(JCPC)」(フィリピン人権問題や企業進出問題に関わる団体のネットワーク)がネグロス島への緊急キャンペーンを行うことを決め、JCNCが発足しました。
そんな「砂糖の島」・ネグロス島を深刻な飢餓が襲いました。1980年代前半に砂糖の国際価格が暴落すると、砂糖産業に経済が支えられていたネグロス島では、砂糖価格が安定するまでサトウキビ生産を中止することを農園地主が決定。これにより失業した農園労働者は食料を買うことが出来なくなり、その結果として深刻な飢餓が発生したのです。この事態を受けて日本の「フィリピン問題連絡会議(JCPC)」(フィリピン人権問題や企業進出問題に関わる団体のネットワーク)がネグロス島への緊急キャンペーンを行うことを決め、JCNCが発足しました。
写真1 JCNC会報「ネットワーク通信」と草の根貿易の案内(ID11-1)
JCNCの活動は飢餓への緊急支援ののち、農業・自立支援、国内難民支援、砂糖・バナナなどの民衆交易、土地闘争支援・労使交渉、生産者協同組合の立ち上げなど、多岐にわたって展開していきました。この展開の背景には、農地を手にし、自立したいというネグロス島の砂糖労働者の訴えを受けて、JCNCの活動の軸が「援助」から「わかちあい・共生」に変化したことがあります。農民たちの自立や農業による地域づくりへと課題をシフトし、さまざまな活動が進められていったのです。具体的には、砂糖労働者が農業を学び、日本の農民と交流することを目的とした「ツブラン農場」の開設、ネグロス島で生産されたマスコバド糖(黒砂糖)や山で自生するバランゴンバナナなどを日本の消費者に届けるオルター・トレード・ジャパン(ATJ)の設立などを通じて、自立した農業づくりや民衆交易事業を進めていきました。
また、JCNCによる自立支援は、ネグロス島はもちろん、ネグロス・フィリピンを越えたさまざまな主体とネットワークを築き上げることで進められました。軍事化路線から転換した政府のもとで進められた農地改革以降、農地を手にした農民たちへの支援は、現地NGOなどネグロスの人びとを主体として展開されていきます。JCNCはこの動きのなかで砂糖労働者、零細農民・漁民や開発支援に関わるNGOらとともに「21世紀に向けた民衆農業創造計画」(PAP21)を進め、自立した農業づくりに取り組みました。また、ネグロスを越えたアジア各地との農民交流、さらには女性たちとのネットワークの構築により(後述)、国境を越えた連帯も深めていきつつ、民衆交易事業においては日本国内の生協・グリーンコープとも密接なつながりをもち、日本各地のJCNCネットワークや大学のゼミなどの現地ツアーの実施にも携わっていきました。
JCNCは20年以上にわたってこうした支援・連帯を継続したのち、2008年3月に活動を終了しました。現在は特定非営利活動法人APLA(あぶら、Alternative People's Linkage in Asia)に草の根の支援・交易活動が引き継がれています。
また、JCNCによる自立支援は、ネグロス島はもちろん、ネグロス・フィリピンを越えたさまざまな主体とネットワークを築き上げることで進められました。軍事化路線から転換した政府のもとで進められた農地改革以降、農地を手にした農民たちへの支援は、現地NGOなどネグロスの人びとを主体として展開されていきます。JCNCはこの動きのなかで砂糖労働者、零細農民・漁民や開発支援に関わるNGOらとともに「21世紀に向けた民衆農業創造計画」(PAP21)を進め、自立した農業づくりに取り組みました。また、ネグロスを越えたアジア各地との農民交流、さらには女性たちとのネットワークの構築により(後述)、国境を越えた連帯も深めていきつつ、民衆交易事業においては日本国内の生協・グリーンコープとも密接なつながりをもち、日本各地のJCNCネットワークや大学のゼミなどの現地ツアーの実施にも携わっていきました。
JCNCは20年以上にわたってこうした支援・連帯を継続したのち、2008年3月に活動を終了しました。現在は特定非営利活動法人APLA(あぶら、Alternative People's Linkage in Asia)に草の根の支援・交易活動が引き継がれています。
資料の紹介
ここからは、JCNC資料のなかから活動の一端を知ることができるものをピックアップしてご紹介します。
(1)ネグロス島での活動
写真2 復興プロジェクト分布図(ID12-1) ※緑:米・野菜・果物の共同栽培、赤:家畜の共同飼育、黄:共同購買その他、黒:共同漁業、青、水道の付設
JCNCはネグロス島で自立農業づくりを進めるなかで、砂糖やバナナだけに頼らない多様な農業への支援も広げていきました。
左に示したネグロス島のプロジェクト分布図からは、米、野菜の栽培、家畜の飼育などに取り組まれていたことがわかります。こうした多様な農業のあり方への模索は、ネグロスを越えたフィリピン国内、タイやマレーシアなどの農民との交流を進めるなかで培われていきました。
左に示したネグロス島のプロジェクト分布図からは、米、野菜の栽培、家畜の飼育などに取り組まれていたことがわかります。こうした多様な農業のあり方への模索は、ネグロスを越えたフィリピン国内、タイやマレーシアなどの農民との交流を進めるなかで培われていきました。
(2)女性による国際ネットワーク
写真3 あら・ARAにゅーす(ID21-2/21-3)とARA資料近影
JCNC資料には、JCNCの活動のなかで生まれ、協力関係を築いたARA(アジア農村女性オルタナティブス)に関する資料も含まれています。JCNCがネグロスでの経験を他のアジア地域の運動とも分かち合おうと「寄り合い」を開催していた際、ベトナムでの寄り合いに農村女性が多数参加したことをきっかけに、「農村女性のネットワークづくり」「地域づくりへのジェンダー視点の導入」を目的としてARAは発足しました。寄り合いやワークショップ、交易、農村女性のリーダーを育成するトレーニングなどを進めたARAの活動は、タイ、インドネシア、中国、ラオス、カンボジアといったアジア各地の農村女性とのネットワークをつくりあげていきます。ここからは、農にもとづく国際的な連帯がジェンダー視点での包摂性をもって広がっていったことを見て取ることができます。
(3)日本国内のネットワーク
写真4 JCNC北海道ニュース(ID32-1)とJCNC岡山ニュース(ID32-22)
JCNCの活動は日本各地でJCNCネットワークとして展開され、さらに各地の生協を通じて民衆交易の商品(砂糖やバナナなど)が日本の消費者に届けられました。JCNC資料には、北は北海道、南は九州のグリーンコープに至るまで、日本各地の組織とつながりをもっていたことがわかる資料が含まれています。
おわりに
以上、JCNCがどのようにネグロス島の自立した農業づくりをはじめとする活動に取り組んできたのかを、センターが所蔵する資料とあわせてご紹介しました。JCNCの活動はネグロス島だけでなく、日本を含むアジア各地のさまざまな主体(農民、消費者、NGO等団体など)とのネットワークを形成しながら展開していたことがわかります。こうした活動の軌跡を追うことが出来るJCNC資料は、「越境と連帯」の運動史(大野ほか編 2022)を検討するうえでも重要な資料になると考えられます。
次回第2回では、JCNC資料の整理方法、および資料群の全体像についてご紹介します。
次回第2回では、JCNC資料の整理方法、および資料群の全体像についてご紹介します。
参考文献・資料
APLA,2012,「日本ネグロス・キャンペーン委員会(Japan Committee for Negros Campaign/JCNC)とは」APLA,(2025年11月6日取得,https://www.apla.jp/aboutus/jcnc).
市橋秀夫,2022,「フェアトレードと民衆交易──草の根貿易ネットワーク再考」『生活協同組合研究』561: 49-57.
大野光明・小杉亮子・松井隆志編,2022,『社会運動史研究4 越境と連帯』新曜社.
鶴見良行,1982,『バナナと日本人』岩波書店.
市橋秀夫,2022,「フェアトレードと民衆交易──草の根貿易ネットワーク再考」『生活協同組合研究』561: 49-57.
大野光明・小杉亮子・松井隆志編,2022,『社会運動史研究4 越境と連帯』新曜社.
鶴見良行,1982,『バナナと日本人』岩波書店.
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