2023/11/30 (THU)

S09_「鶴見良行文庫」未整理分の概要及び整理内容について

資料の概要と整理方法について

 現在、私が担当しているのは「S09_鶴見良行文庫」という資料群の未整理分です。
 鶴見良行氏は1926年にロサンゼルスに生まれ、外交官の父の仕事の影響で東京大学法学部卒業後、国際文化会館に勤務されました。1965年にはベトナムに平和を!市民連合(以下、べ平連)発足に参加。アジア諸国を渡航し、学問の垣根を超えて研究を深められました。
1994年に鶴見氏が亡くなられた後、いくつか大学等機関より受け入れる旨が伝えられましたが、一括所蔵や一般公開の理由により頓挫していました。しかしながら、2002年に埼玉大学の申し出が受け入れられ、2005年埼玉大学共生社会研究センタ—に寄贈されることとなりました。その後、埼玉大学において整理し、「鶴見良行文庫デジタルアーカイブ」として構築され、2013年に立教大学共生社会研究センターに移管されたという経緯があります。
 したがって、本資料群は鶴見氏に関する雑誌及び書籍といった刊行物やアルバムが含まれているもののあくまで未整理(段ボール9箱)であったものであり、既に公開されている鶴見良行文庫の閲覧を希望される方は「鶴見良行文庫デジタルアーカイブ」も是非ご確認ください。
 センターにおける資料整理の主な手順としては、1.資料全体の概観、2.整理計画の作成、3.実際の資料の整理・保存、となります。経年劣化により破損の目立つ資料については、資料全体の概観及び整理計画の作成の段階であっても、一時的に保存措置をすることもあります。本資料群の全体を調査し、資料の形態や性質から以下のシリーズに分類しました。

①鶴見良行調査資料Ⅰ[ノート・メモ](S09_20101~S09_20109)
②鶴見良行調査資料Ⅱ[写真・テープ](S09_20201~S09_20212)
③鶴見良行著作刊行物[書籍・雑誌](S09_20301~S09_20352)
④鶴見良行蔵書[冊子・書簡類](S09_20401~S09_20592)
⑤その他[鶴見良行死後に収集された資料](S09_20601~S09_20610)

「ベ平連ノート」について

写真1 S09_20101「ベ平連ノート」

 まず紹介したい資料はべ平連に関する自筆ノートです。ベ平連は1965年アメリカの北ベトナム爆撃に対する抗議をきっかけに発足した運動です。鶴見氏の他に、鶴見俊輔氏、高畠通敏氏、小田実氏等が発足メンバーとして名を連ねています。
 この未整理分において、1968年からベトナム戦争が沈静化する1973年にかけて4冊のノートが遺されています。全国のベ平連に関する集会や講演の日時が事務的に記述されていますが、特筆すべきは、アメリカの内情といったものに鶴見氏の関心の目が向けられているところです。ベトナム戦争を支えている政治や経済といった要因について考察していたということが多々見受けられます。また、それと同時にべ平連に関する諸運動の組織化、日本国内のみならず国際的に、とりわけアメリカにおける平和運動や反戦運動との連携を図ろうとしていたことが記されています(S09_20101)。統一的な抗議運動によってベトナム戦争に対抗しようとしていたことがうかがえます。

「スクラップブック」について

写真2 S09_20501「スクラップブック」

 これは1957年から鶴見氏が亡くなる1994年までに収集されたスクラップブックの数々です。見るとそのほとんどが鶴見氏自身が雑誌や新聞に寄稿されたものの切り抜きです。未整理分だけでも16冊も遺されており、鶴見氏の旺盛な文筆活動には改めて驚かされます。フィールドワークで養われた目を通して書かれた記事、その一つ一つがとても興味深いです。
 例えば、1972年に書かれた二つの記事「ベトナム平和の不安」(『東京新聞』1972.11.06)と「教師としてのベトナム戦争-あるいは人民の交流について-」(『べ平連ニュース』NO.87、1972.12.01)を見てみると、鶴見氏はベトナム戦争を「残酷なコミュニケーション」と形容しています(S09_20501)。ベトナムの人たちが血を流し戦ったことによって、ベトナムの人たちの希望——すなわち解放がアメリカや日本の人たちにようやく理解されたということです。言い換えれば、ベトナム戦争が起こらなければベトナムの人たちの希望について私たちは理解することができなかったということです。そして鶴見氏は続けます。ベトナム戦争は日本を被害者だけでなく加害者として自覚させた、と。鶴見氏が遺した言葉は、戦争という「痛み」を伴うコミュニケーションは果たして必要なのか、現在ウクライナやパレスチナで起きている問題等深く考えさせられます。戦争に対して、被害者にも加害者にもなりたくない、かといって無関心でもいられない。日本の、ひいては私たち一人一人がどのようなコミュニケーションをとるべきか今一度考えてみることが必要なのではないでしょうか。
資料が少しでも気になった方は!
ノートにせよ、スクラップブックにせよ、内容についてはここで詳しく説明することはできません。是非ご自分の目でご確認ください!鶴見良行文庫デジタルアーカイブも是非ご覧ください!
少しでも興味を持たれた方はお気軽にお問い合わせください。
参考文献一覧
鶴見良行『鶴見良行著作集2 べ平連』みすず書房、2002年。
平井一臣『ベ平連とその時代—身ぶりとしての政治』有志舎、2020年。

お問い合わせ

立教大学共生社会研究センター

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