2023/02/24 (FRI)

資料紹介2:「吉川勇一氏旧蔵「べ平連」関連資料<追加分>」の資料紹介

みなさま、こんにちは。立教大学共生社会研究センター・リサーチアシスタント(RA)の今井麻美梨です。前回につづき、今回は「吉川勇一氏旧蔵「べ平連」関連資料<追加分>」の見どころをいくつか紹介していきたいと思います。

前回ご紹介のとおり、吉川勇一氏(1931-2015年)は1960-1970年代に「べ平連」の事務局長をつとめた市民運動家で、ベトナム戦争の脱走兵支援、反戦・反核平和運動、反基地運動、反天皇制運動などに取り組みました。本資料群は、吉川氏の個人史や思想の系譜をたどることができると同時に、彼の資料整理の手つきや観察眼をとおして、戦後日本で展開された複数の市民運動の横のつながりや複層性を見て取ることができます。

旧コレクション(註1)では、1960-70年代を中心とした吉川氏のべ平連関連資料がほとんどでしたが、その後10年経って寄贈されたこの「S01a 吉川勇一氏旧蔵「べ平連」関連」<追加分>」では、べ平連資料だけでなく、1980年代以降の吉川氏の活動・思考の広がりや社会との関わり方を反映する資料が含まれています。そうした資料にも着目しながら、べ平連以降の吉川氏の関心の広がりを読み解くのも面白いかもしれません。

※註(1) 本センター所蔵の「S01 吉川勇一氏旧蔵「べ平連」関連資料」のこと。

シリーズ1 「平和・市民運動関連ファイル」

『べ平連通信 ふくおか』(ベトナムに平和を!福岡市民連合)

シリーズ1には、反戦・反核平和運動、地域べ平連、沖縄基地問題、反天皇制、アジア・女性問題、環境問題、地域自治など多岐にわたる資料が含まれています。

1960年代地域べ平連の資料としては、『べ平連通信 ふくおか』(ベトナムに平和を!福岡市民連合)があります。同誌によると、べ平連のデモはそれまでの政党や労働組合主導の運動とは異なり、組織をもたない労働者や農民・会社員・主婦・女性・高校生・作家など「ふつうの市民」が参加したといいます。ある女性参加者は、女性の主体性の確立や自己変革の一環として反戦運動に取り組んでいました。市民運動をとおして、人々がいかにして市民的自己を確立したのか、その歴史的過程を観察することができます(『べ平連通信 ふくおか』創刊号, 第2号, 第3号, 第5号, 第7号)。

他にも同シリーズには、アジア売春問題、「日の丸・君が代」強制反対運動、湾岸戦争反対市民運動、戦後50年・市民宣言意見広告運動、保谷・田無合併に関する住民投票を求める運動、原水爆禁止運動関係資料などが含まれています。これらの運動資料がいかなる思考や秩序のもとに整理されたのかを、吉川氏の個人史と照らして紐解くと、よりいっそう楽しめると思います。

シリーズ4 「新聞・意見広告」

シリーズ4には、1991年湾岸戦争時に「市民の意見30の会」が『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載した反戦意見広告、米国読者や市民運動団体との往復書簡、名簿ファイルなどが含まれています(日本語・英語)。

これらの手紙の一部は、市民の意見30の会編『「アメリカは正しい」か—湾岸戦争をめぐる日米市民の対話』(第三書館, 1991年)にまとめられています。吉川氏は同書の「まえがき」において、この運動に寄せられた「800通を超えたアメリカからの返事は、その75パーセント以上が、賛成、連帯、感謝の手紙」であったと言い、意見広告運動の反響の大きさについて言及しています。この書籍と合わせて本センター所蔵の意見広告・手紙を読むと、人権・反戦・軍隊・日本国憲法をめぐる日米間の直接的な意見交換の様子やその連帯が、立体的に浮かび上がってくるのではないでしょうか。 

シリーズ5 「ミニコミ」

シリーズ5「ミニコミ」には、200種類以上の多種多様なミニコミが含まれています。
吉川氏がべ平連で活動していた1960年代のミニコミには、『平和日本』や『平和運動資料』などがあり、この時期に吉川氏が反戦・平和運動に主眼を置いていたことが改めて確認できます。

その一方で、1980年代以降のミニコミに目を通すと、べ平連や戦争以外の吉川氏の多面的な活動・関心が浮き彫りになります。たとえば、『PARC通信 (改題『世界から通信』)』、『反改憲運動通信』、『「日の丸・君が代」強制反対の意思表示の会NEWS』、『日韓ネットニュース』、『沖縄の怒りと共に』、『女の会ニュース』、『北限のジュゴンを見守る会ニュースレター』、『生活者通信』、『街と生活を考える市民センター』『死刑と人権』、『市民の意見30の会・東京ニュース』『市民のひろば・憲法の会ニュース』、『原発NO たんぽぽ』など、多様なミニコミが揃っています。

市民運動と身振り・振る舞い・文化・感性

『反核キャラバン通信』(トマホークの配備を許すな!全国運動)

最後に、本資料群のもう一つの楽しみ方をご紹介したいと思います。近年の市民運動研究では、文化、芸術、音楽、身振りやふるまい、感性をとおして、市民的紐帯が構築されたことを指摘しています。そこでは、反戦フォークソングやブルースを歌い、カラフルなビラを配り、すわりこみやティーチ・インを行い、反戦喫茶や反戦スナックを開き、詩やミニコミを出版することで、人々の日常に政治的空間が形成されたと言います(平井 2020年)。

この動向のなかで、本資料群を吉川氏の個人史として読むだけでなく、市民運動史における人々の身振りや振る舞い・文化・感性の歴史的変遷という観点から読んでみるのも面白いと思います。たとえば、ミニコミの『反核キャラバン通信』(トマホークの配備を許すな!全国運動)では、佐世保~横須賀間の米軍基地ですわり込みやデモを行い、全国各地の反核運動の横のつながりをつくることで、「一つの太い帯」を地理的・空間的・視覚的に浮かび上がらせています。また、すでにご紹介した『べ平連通信 ふくおか』(ベトナムに平和を!福岡市民連合)では、学生の反戦フォークソングや、主婦や機動隊のブルースなどが紹介されており(『べ平連通信 ふくおか』No.9)、運動における歌や音楽のもつ政治文化的意義が見て取れます。様々な角度から、個性豊かなミニコミを読んで楽しんでみてください!

以上、「S01a 吉川勇一氏旧蔵「べ平連」関連資料<追加分>」は、国内外の複数の市民運動がいかなる問題関心や感性のもとに連帯し、それぞれの市民が自己と社会とのあいだの関係性をいかに結び直したのかを見せてくれる、たいへん興味深い資料群です。みなさまも是非ご利用いただき、楽しんでいただけたら幸いです!

参考文献
・高草木光一編『べ平連と市民運動の現在—吉川勇一が遺したもの』花伝社、2016年。
・平井一臣『べ平連とその時代—身ぶりとしての政治』有志舎、2020年。
・吉川勇一「まえがき」市民の意見30の会編『「アメリカは正しい」か—湾岸戦争をめぐる日米市民の対話』第三書館、1991年。
・吉川勇一『民衆を信ぜず、民衆を信じる—「べ平連」から「市民の意見30」へ』第三書館、2008年。

お問い合わせ

立教大学共生社会研究センター

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。