2020/09/14 (MON)

共生研センター メール・インタビュー(14) 
立教大学共生社会研究センター リサーチ・アシスタント 
阿部 晃平さん

はじめに

共生社会研究センターのリサーチ・アシスタントのみなさんをご紹介するメール・インタビューの6人目は、現在のセンターRAでは最も古株の阿部 晃平さんです(立教大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程)です。インタビュアーは前回お話ししてくださった秋月未央さんです。

阿部さんは西洋中世史がご専門ですが、これまで日本中世史を研究する縄野響子さんと一緒に作業されることが多かったように思います。資料の扱いにも慣れていて、すっかり安心してお任せしてしまっています。時々うかがうご研究のお話もとても勉強になります。何であれいろいろな分野の人が一緒に働くのはいいことですね。

メール・インタビュー センターRA・阿部 晃平さん ー資料からは、書き手の感性が伝わってくるー

- まず、阿部さんは今までどんなことを研究してきましたか?またこの研究テーマにどうして関心を持ったのですか?

私は学部生の時代から一貫して、中世ヨーロッパの知的文化について研究してきました。とくに、当時の人々がどのような知識を、どのようにして、何のために学んでいたのか、ということに関心があります。このようなテーマに関心を持ったのは、伊東俊太郎先生の『十二世紀ルネサンス』という著作を読んだのがきっかけだと思います。それまでずっと、高校教育の影響からか中世ヨーロッパという時代は「暗黒時代」だと思い込んでいた節があったのですが、『十二世紀ルネサンス』では中世にも豊かな知的文化が花開いていたことを論じていて、非常に興味がわいた記憶があります。今は9~10世紀頃の人々がどのように知識を分類し体系化していたのか、その方法と意義について研究しています。

- 阿部さんは修士課程を終え、今年から博士課程に進学なさったのですね。阿部さんが研究者の道を選んだ理由は何でしょうか?

根本にある理由は非常にシンプルで、もっと中世の文化を知りたい!と思ったことですね。自分には取り立てて優れた研究者としての能力があったわけではないのですが、就職活動を考えたさいに知的な好奇心の方が勝りました。修士課程に上がった時点で、博士課程に進むことも決めていましたね。

- 阿部さんの研究にはたくさんの言語がかかわっているようですが、資料収集や資料読みは大変だったりしますか?よろしければどんな資料を使っているのか教えてください。

資史料の読解は、正直かなり大変です。私が今おもに扱っている一次史料は起源1000年前後に書かれた諸写本なのですが、まずもって文章を理解するためにラテン語の能力が必要です。校訂書の無い史料の場合は、書かれている文字それ自体を読み取るための古文書学的知識も求められます。また、その史料に関する先行研究をさらうときには基本的に英語・フランス語・ドイツ語の3言語がほぼ必須なため、語学的なハードルがけっこう高いですし、私も大分苦慮しています。

用いている史料の性格としては、当時教科書として使用されていたと考えられている学問的なテクストが多いです。とくに、その余白に書き込まれている欄外註(現代で言うところの教科書の余白への落書きみたいなもの)に注目しています。当時の人々がそのテクストをどのように理解していたのか、そこには現れると考えているからです。

- 今まで訪問・利用したアーカイブス機関の中で、一番印象的なものを教えてください。

とくに利用していて便利だと感じたのは、スイス全土の文書館の写本情報を統合しているe-codicesというオンライン・アーカイブです。このサイトではデジタル化された高精細な写本の画像を閲覧・ダウンロード出来ることはもちろん、個々の写本に関するメタ情報もXMLなどの形式で取得することが可能であり、非常に整理しやすく利便性が高いと思いました。その他にも、フランス国立図書館が運営しているGallicaやヴァチカン図書館のDigiVatLib、バイエルン州立図書館のオンライン・データベースなどでも快適に写本の閲覧が出来ます(余談ですが、ヴァチカン図書館のデジタルアーカイビング事業は日本のNTTが受託しているため、欧州の蔵書館のなかでは珍しくホームページが日本語化されています)。

- 阿部さんが共生社会研究センターで働くようになったきっかけは何でしょうか?また、どんなお仕事をしてきましたか?

きっかけは、博士前期課程1年に在籍していたころ、先生方から共生社会研究センターでリサーチ・アシスタントを募集しているというお話をいただき、応募したのがきっかけです。自分自身が研究でアーカイビングされた資料をよく利用するということもあり、アーカイブする側の仕事も経験してみたかったというのが応募した理由です。担当した仕事としては、真名瀬海岸埋立反対運動伊達環境権裁判、渥美火力建設反対運動などの整理を行ってきました。また、あおぞら財団さんが請負事業として行った東京公害裁判資料の整理作業にも参加させていただきました。

- RAの勤務にあたり、資料をめぐって面白かった・大変だったエピソードを一つずつ教えてください。

エピソードと言えるほどのことではありませんが、手書きの資料はどのようなものであれ見ていて面白いと感じます。もちろん私は日本人ですから日本語の手癖など知っていて当然なのですが、しかし実筆の文章をいざ「資料」として見ると、そこには印刷物からはあまり分からない書き手の感性のようなものが伝わってくるような気がします。これはどのような資料として歴史研究に使えるのだろう、どうしてこの記述を遺したのだろう、いやそもそもこれは何て書いてあるんだろう?などと色々な考えが巡ります。逆に一番大変だったことは、東京公害裁判資料の目録取りですね。膨大な量の裁判資料を読み内容を要約してまとめるのは非常に骨の折れる仕事でありましたが、ただたいへん勉強にもなりました。

- RAとして、利用者として、阿部さんが思う共生社会研究センターの良かった点と改善すべき点を教えてください。

私は専門が中世ヨーロッパ史ということもあり、共生社会研究センターに所蔵されている資料を利用者として使用したことはありませんが、資料を使用したいと思ったときに煩雑な手続き無く電話一本で資料の閲覧を申請出来る点は、利用者目線からして非常にありがたいことだと思います。逆に改善すべき点としては、そうですね、センターの場所(入り口)が学外の方にとっては少し分かりにくいところでしょうか(笑)。

- 最近はコロナの影響で大変な世の中になってしまっていますが、阿部さんの研究や生活にもなにか変化がありましたか?

多くの研究者の方々と同様に、一番大きな影響は図書館が使えなくなってしまったことですね。歴史学は文献を読んでなんぼですので、やはりなかなか厳しいものがあります。ただ、先にも触れたオンライン・アーカイブはどこからでも利用できるので、その点ではまだ助かっています。なので、新たな文献を収集するというよりは今手元にあるデータを整理し、自身のデータベースにアーカイブする作業を進めています。

生活面では家からあまり出られないということもあり、より一層本を読む機会が増えた気がします。研究書だけでなく、電子書籍としてすぐ手に入る一般文芸書などもけっこう読んでいます。

- 誰か一緒に働くRAの仲間のひとりについて教えてください。

最近は今博士前期課程2年の縄野響子さんと一緒に仕事をしています。伊達環境権裁判の関係資料の整理を終えたのち、今は渥美火力建設反対運動の整理を一緒に行っています。彼女は日本中世史のゼミに所属しているため崩し字に詳しく、私が読めないようなタイプの手書き文字は彼女に解読してもらっています。私はラテン語ならいざ知らず、日本の崩し字は全く読めませんので(笑)。

- 最後に、阿部さんがこれからRAとして働いていく意気込みを聞かせてください!

歴史学研究とアーカイビングは切っても切り離せない関係にあります。私はこれまでずっと資料を利用させてもらう側でしたが、これからは資料を提供する側であるという意識をもって、利用者の方の研究や関心に資するような利用しやすいアーカイビングを行っていけたらと思います!

(以上、メールへの回答(2020年6月18日)を一部編集して掲載)