2020/08/21 (FRI)

共生研センター メール・インタビュー(13) 
立教大学共生社会研究センター リサーチ・アシスタント 
秋月未央さん

はじめに

2019年春、立教大学大学院入学式の日に撮影

共生社会研究センターのリサーチ・アシスタントのみなさんをご紹介するメール・インタビューの5人目は、現在修士論文に取り組んでいる秋月未央さん(立教大学大学院文学研究科史学専攻博士前期課程)です。インタビュアーは前回お話ししてくださった縄野響子さんです。

このインタビューもメールでのやりとりのわりには臨場感のあるものに仕上がっていますね。

メール・インタビュー センターRA・秋月未央さん ーわれわれはいま歴史を生きている、という実感ー

-まず、秋月さんの研究テーマについて教えてください。また、いまもっとも関心を持っていることは何でしょう?

自分の研究テーマは、20世紀前半の植民地満洲と日本軍の関係についてです。学部時代、日本軍に関しては主にその情報活動について研究してきましたが、今回は自分の出身地でもある中国東北をフィールドにしたいと考えました。現在もっとも関心を持っているのは、中国の資料館や档案館[1]の利用のされ方です。修士論文執筆にあたり、一度は中国本土での資料収集を予定していますが、実はまだ利用したことがありません。そのため、どの資料館に行けば目当ての資料が手に入るかも見当がついておらず、現在はその情報収集に励んでいます。

-なるほど。地域に関わる研究の場合、実際に住んだ経験があるというのは強みですよね。遠隔地の研究をしていると痛感します。
では、秋月さんが「研究の道に入ろう」と決めたきっかけは何ですか?


実は、学部入学の時点ですでに大学院への進学は視野に入れていました。実際に四年間勉強してみて、まだ続けて勉強したいのであれば進学、「もういいかな」と思うようであれば就職しようと考えていたんです。結果的にやはりもう少し勉強したかったので、進学の道を選びました。特にいい話はないです!人生なんとかなる主義なので(笑)。

-秋月さんならなんとかなると思います(笑)。 修士課程進学を決めるまでの道のりはどうだったのでしょう?

自分はただ続けて勉強したい一心で、特に迷うこともありませんでしたが、当初四年計画を想定していた両親を納得させるのに若干苦労しました。


-研究には様々な資料を使うと思いますが、いつもどんな資料や素材を用いて研究を組み立てておいででしょうか?

ポピュラーなものから次第にマニアックなものへ、逐次攻略していくのが自分のやり方です。まずは書店の棚にも並んでいるような書籍を読みます。入門に適しているというのもありますが、実はただただ紙媒体の本が好きなんです。次に、ネット上で公開されている論文なども読みます。これだけ先行研究に触れれば、このテーマのどの部分に自分の研究を位置づけることができそうか、だいたい見えてきます。そこからは資料館に行って一次資料を収集・分析したり、場合によってはフィールドワークにも行ったり。そうして新しく分かったことを論にまとめるのが、自分なりの研究のマニュアルのようなものです。

-RAとして携わっているセンターの業務や史料(資料)について、お話していただけますか?

自分は現在、「日本僑報社」から寄託された資料群の整理・入力を担当しています。中身はほとんど華僑(在日中国人)新聞です。センターで所蔵しているのは主に1970年代から2000年代のものですが、現在も刊行を続けているタイトルもあります。ご存知かもしれませんが、中国はマスメディアに対する監視や言論統制がとても厳しい国です。統制の手が届かない海外だからこそ書ける記事や、言及できる観点もたくさんあるので、とても貴重な資料だと考えています。また余談ですが、寄託者の段躍中さんには、学部一年生のときに参加した講演会で初めてお目にかかりました。その時自分が段さんに質問したこともまだ覚えています。まさかこのような形でふたたび関わることになるとは思いませんでしたが、これも何かの縁だと思いますので、お預かりした資料は大切に整理・保存していきたいです。

-センター所蔵資料、あるいは広く社会運動の記録との出会いや、そうした資料を用いたこれまでの経験(ご自分の研究や授業など)について、教えていただけますか?

修士一年生のとき、通年で練馬母親連絡会[2]の資料を読むゼミに参加していました。使っていた資料は1970年代に発行されたガリ版印刷のミニコミです。それが共生社会研究センターを見学するきっかけとなり、今の勤務にいたります。この資料を読んでいくにつれて、住民運動や地方自治の住民参加に対する理解も深まり、自分が実際に住んでいる自治体の行政について関心を持つようになりました。良い支援制度ができたら感心したり、自分にとって必要のない施設が作られたら不満を感じるようになったり、なかなか興味深いです。

-私も一時同じゼミに参加していたので、その感覚がよくわかります。自治体のシステムをそういった観点から見直すことが増えました…この視点を持てたことは財産だと思います。
では、センター所蔵資料に限らず、アーカイブズ資料を研究や授業などに使ったご経験があれば、そのご経験について教えてください(使い方、使った所感など)。また、「今後使ってみたい」というご希望があれば、どんな風に使おうとお考えか、お伺いしたいのですが。


新宿に平和祈念展示資料館という施設があり、よく通っています。アクセスが良いのと、入館が無料であるのとで、とても重宝しています。所蔵資料がそれほど多いわけではありませんが、自分の研究に役立つ資料が閲覧コーナーに置いてあるので、筆記用具を持っていき、閉館までそこで勉強することもよくあります。同じ資料が大学図書館や国会図書館にも所蔵されているケースがあります。しかし、この資料館の良いところは、資料がすべて本棚に並んでいるので、いちいち請求する必要がない点です。雑誌などは何十年分でも一度に見ることができますし、資料請求の待ち時間も節約できるので効率がいいです。日中戦争、太平洋戦争、シベリア抑留、引揚げに興味をお持ちでしたらぜひ一度行ってみていただきたいです。実物による展示や映画の上映も行っていますので、とてもおすすめです。

-実物や生の一次資料に触れることができる場所があるのは、とてもいいですね!入館無料も学生としてはとてもありがたいことです…常に関心のある分野ではあるので、時間を見つけて行ってみたいです。

現在、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、様々な機関が所蔵する資料へのアクセスが制限されています。センターも閉館を余儀なくされていますが、そうした状況で、今後をどう考えていくべきか、まずは学生としてのお考えをお聞かせください。また、一研究者としての立場から、「こんなサービスがあれば助かる」ということがあれば、教えてください。


まず大切なのは、今できることをやることだと考えています。コロナウイルスの感染拡大によって研究に支障が出ることは否めませんが、コロナを盾に研究をおろそかにするのは尚悪いことだと思います。たしかに図書館や資料館、書店にも行くことが難しくなっていますが、今まで読んだ資料をもう一度読み直すことも、新しい発見につながります。このような状況は逆に、落ち着いて自分の研究に向き合ういい機会になると考えています。とはいえ、それなりに困ってはいます。最近、国会図書館のデジタル資料を利用しているのですが、著作権の関係から、国会図書館館内や特定の施設(立教大学図書館などの提携先)からしか閲覧することができません。著作権がますます重要になっていく現代社会ではありますが、緊急事態に対応するための規制緩和も、法律上検討されるべきではないかと考えています。

-著作権の問題はとても難しいですが、本当にそうですね。逆に、今の状況で学問水準の維持を要求するのであれば、平時における研究機関のあり方が問い直されるべきだと思います。
では最後に、現在の社会状況、そしてコロナ以降の社会について、何かお考えがあれば教えてください。


われわれはいま歴史を生きている、という実感が強くあります。何十年、何百年後の博物館に「手作りのインナーマスク」や「飛沫感染防止のためにレジに張られていたビニールカーテン」が博物館に展示されるのが想像できます(笑)。この歴史的な出来事によって気づかされたこともたくさんあるようです。たとえば、在宅ワークの継続をはじめとする働き方改革の動きや、世界各国が行ったコロナ対策と、その結果をもとになされた政治制度に対する評価などが挙げられます。また、日本では「自粛警察」や「他県ナンバー狩り」などの社会現象が起きました。これは「みんなが我慢しているのに、我慢しないやつは許せない」という、バブル崩壊時から日本社会に存在していた石の投げ方をよりはっきりと浮き彫りにし、たくさんの反省の呼び水となりました。未来の研究者たちには、さまざまな視点からのコロナ研究を期待しています。

-これも教科書に載るんだろうな、と思いながら毎日生きていますね(笑)。 たしかに、働き方改革や様々な制度に関しては、現代社会をすでに向かいつつあった方向へと加速させたようにも感じます。また、今まで疎かにされてきた問題を洗い出すきっかけにもなりました。今後さらに改革が進むかどうかは、我々次第、だと思いたいですが…。
秋月さんはいつもしっかり社会を見据えていて、どのようなことを話すときも多くのことを学ばせていただいています。今回はこのような形でしたが、丁寧に答えてくださりありがとうございました!




[1] 中国において国や自治体の公文書「档案」を収蔵および公開する施設。公文書館。


[2] 練馬区の女性たちの団体で、区の教育・環境・行政・都市計画など様々な分野に関して市民運動を展開した。ゼミで使用したのは機関誌『豆ニュース』。

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