2020/06/09 (TUE)

【資料紹介】北海道・伊達火力発電所建設反対運動資料について①—運動と資料群の概要

共生社会研究センター リサーチ・アシスタント
立教大学大学院文学研究科史学専攻 博士後期課程1年 阿部晃平
同・博士前期課程2年 縄野響子

センターのニュースをご覧のみなさん、こんにちは。
この記事では1970年から73年ごろにかけて、北海道伊達市に建設予定であった北海道電力による火力発電所建設反対運動に関する資料群について、2回に分けてご紹介します。

伊達火力発電所建設反対運動資料とは?

伊達火力発電所建設反対運動は、北海道伊達市に火力発電所を建設しようとする北海道電力(北電)と伊達市に対し、住民が起こした反対運動です。火力発電所が建設された場合、その排煙や温排水が、周辺住民の健康、農・漁業に悪影響を及ぼすことが予想されていました。というのも、伊達以前に火力発電所が建設された愛知県渥美地域では、すでにそういった公害が起きていたためです。

ところが、北海道電力と誘致を強行した市は発電所の安全性の高さや、地域の経済発展などを謳い、住民から寄せられる不都合な指摘には取り合おうとしませんでした。住民は独自の研究会や気候調査を実施し、これに抗議。建設予定地での座り込みなども行われましたが、北電が頑として建設中止を認めなかったため、1972年ついに住民側は北電を提訴します。これが日本で初めて「環境権」を争う裁判となり、通称「伊達裁判」と呼ばれています。最終的な目標は火力発電所の建設阻止にありましたが、建設用地の埋め立許可や、原油運搬用のパイプライン設置の可否など、争点を変えて繰り返し裁判が起こされました。
 
しかし、いずれの裁判においても住民(原告)側の主張はあくまで「このような被害があるかもしれない」という事前予測にとどまっていました。一方、当時の公害裁判とは、すでに発生した公害被害の補償と責任をめぐるものであり、公害の未然防止を目的に開発そのものの可否を争うという前例はなかったのです。
 
昨今ではよく耳にする環境アセスメント(大規模開発事業による環境への影響を事前に調査すること)制度が定められたのは、この裁判の結審(1981年)から15年以上を経た1997年のことです。札幌で支援団体なども結成されますが、9年間におよぶすべての裁判は住民側の全面敗訴という結果で幕を閉じました。

センターで所蔵する「伊達火力反対運動資料」と、その整理方法

では次に資料群の整理方法についてご説明します。

本資料群は、運動の中心人物のお一人だった正木洋氏の自宅にあったもので、正木氏がご自分で追加的に収集・整理されたのちに、まず埼玉大学共生社会教育研究センターに寄贈され、そこから共生研センターに移管されました。全体として、書棚3面分をほぼ占領するほどの量があります。その大部分は火発建設阻止を巡る裁判資料や反対運動を周知させるために配布されたビラ、北電に充てた陳情書などであり、年代は運動が活発だった1970年から1983年に集中しています。一部の資料は紐で綴じられていたり、封筒に封入されていたりしましたが、全体として寄贈当時の配列にはあまり意味が認められなかったため、オリジナルのまとまりは保ちつつ、以下のように編成し直しました。

まず、資料群全体を———
①裁判に直接関係する資料(準備書面や証言調書、証拠資料など)と、
②その他参考資料(ビラや陳情書、北電のリーフレットなど)
———の二つのシリーズに大別しました。

また前者に関しては、そのサブシリーズとしてさらに、a. 事件番号(裁判毎に振られる識別番号)の付された資料、b. 証拠番号の付された資料(証拠資料)の二項を追加しました。a. は同じ事件番号毎にまとめ、b. については甲・乙・丙の種類ごとに配列し、同一種類の資料が判りやすいようにしました。

つまり———
シリーズ ① 裁判に直接関係する資料(準備書面や証言調書、証拠資料など)
 サブシリーズ a. 事件番号(裁判毎に振られる識別番号)の付された資料
 サブシリーズ b. 証拠番号の付された資料(証拠資料
シリーズ ② その他参考資料(ビラや陳情書、北電のリーフレットなど)
———のようにしたわけです。

サブシリーズ a. には実際の裁判で使用された準備書面や、裁判所に提出された陳情書などが含まれています。とくに準備書面は双方の見解が端的にまとめられており、この運動の理論と展開を知るうえで貴重な資料となるでしょう。裁判それ自体は事件番号を見る限り9回ほど起こされていますが、裁判内容の経過を見ると運動の流れがよく判ります。例えば、最初に起こされた裁判は火力発電所建設予定地の埋立免許の停止を求めるものでしたが、いよいよ発電所本体の建設が現実的なものになると、燃料輸送路の設置許可取消を求める方向に移行していきます。結果として、裁判は住民側の全面的な敗北で幕を閉じますが、しかしこれらの資料はb. の証拠資料と合わせて、時系列的な運動の理解に役立ちます。

もうひとつのシリーズである ②その他参考資料には、多くの手書きのビラや各方面に宛てられた陳情書などが多く含まれています。このシリーズに属する資料は、直接裁判と関わるものではないものの、より住民に近い資料が多く、個々人の被害状況の訴えや住民間の回覧、あるいは反対集会のレジュメなどからは、当時の状況を身近に感じることができます。

以上、「伊達火力発電所建設反対運動資料」の簡単な概要と資料の整理方法についてご紹介しました。次回の記事では、具体的な資料を取り上げながらご説明したいと思います。

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