2020/05/19 (TUE)

共生研センター メール・インタビュー(6) 
NPO法人市民科学研究室 代表理事・上田昌文さん

はじめに

共生研メール・インタビュー第6弾は、NPO法人市民科学研究室の上田昌文(あきふみ)さんです。

じつは私は上田さんにお会いしたことはないのですが、メールマガジンでいつもお知らせをいただいております。また、インタビューの中にも出てくる宇井純さん反核パシフィックセンター東京については、関連資料をセンター保存・公開しています。そんなご縁をたよりに今回お願いしたところ、即座にお返事をいただきました。

暮らしと地続きの科学にまつわる実践を積み重ねてきた上田さんの言葉は、新型コロナウィルスと私たちの関係を考えるうえでの導きとなるのではないでしょうか。

メール・インタビュー 市民科学研究室・上田昌文さん — 私たちは本当に「賢く」なれるのか

- まず、市民科学研究室の設立からこれまでの歴史と、現在の活動について教えてください。

私が、「科学技術と社会」に関わる様々なテーマでの月1、2回の一般向け講座を企画・運営し、自身でも発表するという形で活動を立ち上げたのが1992年です(土曜日に開講していたので「科学と社会を考える土曜講座」と名付けていました)。その活動に参加する人も増え、自ら調査・研究を手がけてみたいという人も複数出てきたので、研究グループを立ち上げ、組織の名称も「市民科学研究室」に変えたのが2001年です。

国や民間財団の研究助成を獲得して調査する都合もあって、法人化したのは2005年からです。

現在では、東京都文京区の湯島に事務所を置き、常勤の代表(上田)と事務局に加えて、理事メンバーや各種「研究会」の世話人合わせてスタッフ10名を擁し、年間数百万円規模の収支で活動する団体となっています。

実施した調査研究や講座の成果や記録は、文章にまとめて隔月発行の『市民研通信』に掲載していますが(年間40本前後の記事・論文・報告書などを公表しています)、それらすべてをホームページで無償で公開しているのが大きな特徴だと言えるかもしれません。

- 上田さんと研究室のかかわりについても、教えていただけますか?

先の質問で述べた、「一般向けの講座」を始めたのは、日本の「市民科学」の歴史を語る際に欠かすことのできない二人の人物、宇井純さんと高木仁三郎さんに、学部学生の頃に幸運にも接する機会があったことが関係しています。

私は宇井純さんが始めた東大自主講座に直接参加した者ではありませんが、その流れをくむ市民団体「反公害輸出通報センター」(後に「反核パシフィックセンター東京」と改称)に所属し、その活動を通じて、1980年代の日本の公害輸出や核廃棄物海洋投棄の問題の調査に携わったことがありますし(宇井さんの謦咳に接したことが何度かあります)、また、チェルノブイリ原発事故時に高まりをみせた脱原発運動で高木さんと面識を得て、その後、彼が亡くなる2年ほど前に創設された「高木学校」にも深く関わりました。

市民科学研究室(市民研)には現在、「研究会」として定期的に活動しているグループが6つあり、そのテーマは、放射線、電磁波、食、熱(エネルギー)、生命操作、科学コミュニケーションと様々ですが、すべての研究会に所属しているのは私だけで、どの研究会でもいろいろ注文をつけたりアイデアを出したりはするものの、自分でも呆れてしまうことに、私はどのテーマの専門家でもまったくないのです。それぞれの研究会にはそのテーマについて私よりずっと詳しい人が1人や2人はいます。

ただ、大事なのは専門知識のあるなしではありません。「あるテーマに強い問題意識や関心さえあれば、その人がどんなに素人であっても大丈夫」「皆で知恵を出し合える場をこちらでうまく提供できれば、必ず意義のある調査研究ができる」というのが私のモットーで、長年かかってそうした「知恵を出し合える場」をどう作るかに注力してきたつもりです。


- ニューズレター『市民研通信』についてご紹介ください(編集方針や編集に関わっている人なども含めて)。また、 『市民研通信』 とウェブサイトでの発信との使い分けなどについても、何かあればお聞かせください。ウェブサイト以外に、SNSなどをお使いであれば、そうしたものの使い方についても教えていただければ幸いです。

『市民研通信』は市民研のその都度のイベント(講座やワークショップなど)の報告や、手がけている調査の結果がある程度まとまってきた時点での論文、といった市民研の側から出すものと、会員やこれまでつながりができた方々に単発もしくは連載で原稿を依頼して市民研の側に出してもらうもの、から構成されています。

毎回6本の記事論文を載せますが、毎月開いている理事メンバー(5名)の会合(運営会議)でそのラインナップを決めます。本当はどの記事論文も力作が多いので、毎回冊子にして出版したいのですが、経済的にそれはかなわないので、紙版(A3判外三つクロス二つ折り、手のひらサイズ)の『市民研通信』には各記事の導入部分だけを載せ、残りはウェブサイトで読んでもらうようにしています。紙版のいいところは、いろんな機会に市民研の紹介をかねて手渡せることです。印刷所にも頼らず、事務所内で「手作り」している紙版ですが、海外文献の翻訳も含めてどの記事論文でも、「市民の目線から問題をどうとらえることができるか」「自前で解決していくにはどうしたらいいのか」といった点、つまりやはり「手作り」感を重視しています。

市民研が独自に行っているSNSはありませんが、会員の大半は「市民研メーリングリスト」に登録していますから、日々いろいろな情報交換ができていると言えそうです。会員の皆さんがそれぞれのSNSを使って、自然な形で重要な情報を拡散してくださっているように思えますので、市民研としてはウェブサイトとメーリングリストだけに限定して発信しています。ただし、『市民研通信』発送時には、非会員の方も含めてメルマガ風に一斉にお知らせメールを送っています(約4000名)。

- 新型コロナウィルス感染拡大によって、研究室の活動にどんな影響が生じましたか?

3月頭に予定していた、市民研が独自開発した中学・高校生向けの2つのワークショップ、つまり、2014年から続けてきたものの拡張版である「原発避難を理解するための放射能リテラシーワークショプ」と、まったく新規に開発した「赤ちゃんとのふれあい授業」を、ある中学校で3週にわたって実施することが決まっていて、2月半ばにこの新型コロナウィルスの事態を受けて「では、オンラインでもできるように工夫してみましょう」と打ち合わせまでしていたのに、突然政府の「休校要請」が告げられ、すべてが立ち消えてしまいました。もちろん、感染の事態が収まれば再開するつもりではいますが、入念に準備してきただけに大きな痛手となりました。

そのほか、公開研究会や上映会など、中止や延期になったものがいくつもあります。

ただ、感染拡大が社会問題化する前から、「市民研の活動に、東京から遠方にお住まいの方々にどう関わってもらうようにするか」をしばしば議論し、遠隔参加の方法を使い始めていましたから、最低限必要な会議や打ち合わせ、そして研究会などは、それほど問題なくオンラインに切り替えて継続できています。

- 緊急事態宣言前後から、指定地域では日常生活にも様々な制限が生じましたが、現在、研究室では、どのくらいの人が、どんな形で、どんな活動をしていますか?

先に述べましたように、会員(200数十名)の多くの方々はメーリングリストを通じて、市民研の日々の活動の様子を知ることになります。公衆衛生に詳しい専門家もいたり、いろいろな現場を巡って取材をしているライターの人もいたり、教育現場に身を置く人もいたり……で、この緊急事態によって生じている様々な不安や疑問をぶつけ、あるいは海外の動向を紹介するなど、必ずしも「議論を深める」ところまでいくわけではありませんが、いろいろな立場を反映した有益なやりとりがなされているように感じます。時に見解の相違が際立ってきて、危うい雰囲気になったりすることもありますが、それもまた、こうした事態のなかでは、しっかりと受け止めていかねばならないことだと思うのです。

研究会はしばらくの間オンラインの形に移行して続けます。実際に人が集まってのイベントは、まったく予定が立ちませんが、7月か8月には再開できるかもしれないと思い、組み始めています。この5月から7月までは、オンライン市民科学講座・シリーズ「生活のなかの科学技術リスク」を実施しています(毎週1回で13回)。

これは私自身がこれまでいろいろな所で行った講演の内容をベースにして再編したもので、質疑応答もちゃんとできるようにと、15名限定で受講生を募集しています。幸い好評をいただいており、会員と会員でない方が2:1くらいの比率での参加となっています。


- 新型コロナウィルス感染拡大は、世界中のあらゆる人々の暮らしに影響を与えています。研究室のこれまで、そして現在の活動をふまえて、新型コロナウィルスとの関連でとくに気になっていること、行っていること、積極的に発信していることなどがあれば教えてください。

直接関連する発信としては、WHOが2月末に公表した新型コロナウィルス報告書を、即座に日本語に翻訳してウェブサイトに載せました(3月2日)。

突貫工事の作業でしたが、幸い、多くの方々から「大事な報告書をすぐ読める形にしてくれて、ありがとう!」といったメールをいただきました。

この感染症の問題は、じつは従来からその危険性が指摘されてきた「新興・再興感染症パンデミック」への備えを十分に行ってこなかったという側面と、ある程度備えてきたにもかかわらず(いまだに)予測や解明ができない部分があり被害が拡大したという側面と、その両面から見ていく必要があります。緊急事態宣言のような、社会的拘束力の強い政治的手段がとられるのもやむを得ない面は確かにありますが、それがどう人々の暮らしや経済活動に深刻な歪みをもたらすのかを見通しつつ、感染被害の拡大防止と生活破壊の進行の防止をどう両立させるかを、すぐさま立案し、実行し、必要な修正を加え……という機動的な対応が求められるのです。

そうした観点から、これまで私たちがその重要性を訴えてきた「市民科学的なアプローチ」がどう寄与できるのかを、今の事態の推移をみながら、考察を深めているところです。

- 新型コロナウィルスが日本や世界にもたらしている事態について、あるいは終息(または共存成功)後の社会について、活動に関連して、あるいは一市民としての上田さんのお考えをお聞かせください。

この事態がなんとか終息するとして、その後私たちは本当に「賢く」なれるでしょうか?

どう備えれば新型コロナウィルスの感染第二波を予防できるか、をつきつめて考えるなら、温暖化や気候変動、生物多様性の喪失(種の絶滅)など、自然に対して破壊的な影響を及ぼしている人間の活動の野放図な拡張を、どこかで明確に線引きして制限しなければならないのは明らかではないでしょうか。国ごとの医学・公衆衛生での対処では手に余る問題なのです。端的な例で言うと、「(人についても物資についても)飛行機に乗って世界のどこにでもいつでも何度でも行ける」のをよいことだ、とする価値観を変えなければならないのです。

この感染症がもたらしている事態のもとで、多くの人が、皆が引きこもってしまうことで社会の様相が一変するのを経験しました。でも、本当にパンデミックを乗り越えていくには、私たちの今までの価値観や生活様式も、「どこまで自然の摂理に賢く沿っていけるか」を目標に一変させていかねばならないはずです。

そこを、科学・技術と市民生活との関係性を見据えながら、どう具体的に人々の共感を得つつ打ち出していくか—それが今後の私たちの仕事になるだろう、と考えています。

(以上、メールへの回答(2020年5月8日)を一部編集して掲載)