2026/10/05 (MON)プレスリリース

Eventカメラからの知識蒸留で、AIに「形を見る力」を与える
~AI 研究の世界最高峰、国際会議「NeurIPS 2026」に論文採択~

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

立教大学大学院人工知能科学研究科(所在地:東京都豊島区、研究科委員長:正田備也)の修了生である木原崇竣さん、安木駿介さん(現 東京大学松尾・岩澤研究室特任研究員)と、同研究科の瀧雅人准教授(兼 理化学研究所 数理創造研究センター(iTHEMS)数理展開部門 AI展開チーム チームディレクター)による研究論文が、AI・機械学習分野を代表する国際会議「NeurIPS 2026」(The Fortieth Annual Conference on Neural Information Processing Systems)に採択されました。

NeurIPSは、機械学習・深層学習・人工知能分野における世界最高峰の国際会議の一つです。本研究成果は、2026年12月6日から12日まで豪州シドニー、および公式サテライト会場である米国アトランタ、フランス・パリで開催される同国際会議にて発表されます。

研究の概要

図1:通常のカメラで記録した画像を小さく振動させてEventカメラで記録すると、ピクセル値の時間変化の大きい箇所のみが記録されます。このEventカメラのデータを学習したAIには形状構造の情報がうまく学習されていると考えられるため、その知識を通常のカメラ画像を処理するAIに蒸留し、AIの視覚理解を強化します。

現在の画像認識AIは高い性能を持つ一方で、人間のように物体の「形」を見るよりも、色や細かな模様、質感に頼って判断しやすいことが知られています。こうした細部への偏りは、環境の変化によってAIが予期しない挙動を示す原因の一つとして、長らく問題視されてきました。

そこで本研究では、物体の輪郭や動きを捉えることに優れたEventカメラに着目しました。Eventカメラのデータで学習したAIの知識を、通常のカラー画像を扱うAIへ知識蒸留することで、AIの「ものの見方」そのものを変えることを試みました。

研究成果

Eventカメラで学習したAIの視覚的な知識を蒸留した結果、知識を受け取ったAIは、

  • 色の変化に影響されにくくなる
  • 模様や質感よりも物体の「形」を重視する
  • 細かなノイズに対して強くなる

という顕著な特徴を獲得することが分かりました。

さらに、こうして得られた「形を重視する(形状バイアスを持つ)視覚」は、医療画像を含むさまざまな画像認識課題でも有効に働くことを確認しました。本研究は、Eventカメラという通常とは異なるセンサーから得られる知識を活用することで、単にAIの認識精度を上げるだけでなく、「AIに何を見させるか」を設計できる可能性を示したものです。

展望

Eventカメラに限らず、赤外線カメラや深度センサーなど、異なるセンサーで学習したAIは、それぞれ異なる「ものの見方」を獲得すると考えられます。今後、こうした知識を通常のAIへ移すことで、用途に応じて色を見るAI、形を見るAI、動きを見るAIといった視覚特性を意図的に設計する技術へ発展することが期待されます。

用語

  • 画像認識:AIが画像の内容を理解・判別する技術の総称で、画像分類、物体検出、領域分割などさまざまな課題(タスク)がある。
  • Eventカメラ:通常のカメラのように画像全体を撮影するのではなく、各画素の明るさの変化を高速に検出する特殊なカメラ。
  • 知識蒸留:あるAI(教師モデル)が学習した知識や判断の仕方を、別のAI(生徒モデル)に引き継がせる機械学習の手法。
  • 形状バイアス(Shape bias):色や模様、質感よりも、物体の輪郭や全体的な「形」を重視して認識する傾向。

論文情報

立教大学大学院人工知能科学研究科 瀧 雅人研究室について

瀧雅人研究室では、「AIを科学する」と「AIで科学する」をテーマに、AIの基礎原理の解明からコンピュータビジョン、科学研究へのAI応用まで幅広く研究しています。
本成果以外にも、これまでNeurIPS、CVPR、ICCV、AAAIなど、AI・コンピュータビジョン分野の主要国際会議で研究成果を発表しています。

瀧雅人研究室

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