2026/05/11 (MON)プレスリリース

メラニン凝集ホルモンが魚類の骨代謝を制御することを初めて解明

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

金沢大学環日本海域環境研究センターの鈴木信雄教授、自然科学研究科生命理工学専攻博士後期課程/「知」の共創と往還で実現する新価値創造人材育成プロジェクト(HaKaSe⁺ for SPRING)選抜学生(研究当時)の黒田康平および理工学域生命理工学類4年の木村咲月、北里大学の高橋明義名誉教授および水澤寛太教授、文教大学の平山順教授、立教大学の服部淳彦特任教授および丸山雄介助教を中心とした共同研究グループは、キンギョのウロコ(図1)を骨モデルとして用いることで、メラニン凝集ホルモンの魚類の骨に対する作用を初めて明らかにしました。

図1:魚類のウロコの模式図 魚のウロコでは、石灰化した骨基質の上に骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞が共存しており、ヒトの骨と同様に骨代謝が行われている。

培地にメラニン凝集ホルモンを添加してキンギョのウロコを培養したところ、短時間では破骨細胞の遺伝子発現が抑制され、骨吸収の抑制が確認されました。一方、1日おきに10日間投与すると、再生ウロコで破骨細胞の活性化とカルシウム溶出が見られ、血中カルシウム濃度の上昇とカルシトニン分泌の促進も確認されました。これらより、メラニン凝集ホルモンは短期では骨吸収を抑制し、長期では間接的に促進する可能性が示されました。
本研究により、メラニン凝集ホルモンが魚類の骨代謝の調節に深く関与し、その処理方法により、作用が異なることが明らかになりました。ウロコには、骨芽細胞・破骨細胞・骨細胞が存在しており(図1)、メラニン凝集ホルモンはこれらの細胞に働きかけて骨形成と骨吸収を調節していると考えられます。これらの知見は、その分子機構の解明につながることが期待されます。

本研究成果は、2026年3月20日にイギリスの国際学術誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。

研究の背景

メラニン凝集ホルモンは、魚類において体色変化を調節するホルモンとして古くから知られており、表皮の色素顆粒を凝集させる働きを持ちます。近年では、睡眠、摂食、エネルギー代謝といった生理機能にも関与することが明らかになってきました。一方、同じく体色調節に関与する黒色素胞刺激ホルモンは、色素の拡散を促進し、メラニン凝集ホルモンと拮抗的に作用することが知られています。

近年の研究により、黒色素胞刺激ホルモンが魚類および哺乳類において骨代謝にも関与することが報告され、色素調節ホルモンが骨機能にも影響を及ぼす可能性が示されています。実際に、黒色素胞刺激ホルモンは骨吸収やカルシウム調節に関与することが明らかとなっており、従来の役割を超えた新たな生理機能として注目されています。

哺乳類では、メラニン凝集ホルモンおよび黒色素胞刺激ホルモンの両方が骨代謝の調節に関与しており、特にメラニン凝集ホルモンは破骨細胞の活性を抑制することで骨量の維持に寄与すると考えられています。また、視床下部のメラニン凝集ホルモン産生ニューロンが骨形成の調節に関与することも報告されています。しかし、メラニン凝集ホルモンが骨を構成する細胞(骨芽細胞や破骨細胞)にどのように作用するのか、その詳細な仕組みは十分に解明されていません。

一方、キンギョなどの硬骨魚類のウロコは、骨芽細胞や破骨細胞を含む石灰化組織であり、骨と同様に血中のカルシウム濃度の調節にも関与することが知られています。さらに、ウロコは除去後に短期間で再生するため、骨再生や骨代謝を解析するモデルとして有用であると考えられます。

研究成果の概要

本研究では、キンギョのウロコを骨代謝研究のモデルとして用い、メラニン凝集ホルモンが骨芽細胞および破骨細胞の働きやカルシウム調節に及ぼす影響を解析しました。まず、培養したキンギョのウロコにおいて、メラニン凝集ホルモンは破骨細胞関連遺伝子(atp6v0d2など)の発現を抑制し(図2)、さらに骨芽細胞を介した破骨細胞形成シグナル(rankl/opg比)も低下させることが明らかになりました(図3)。これらの結果から、メラニン凝集ホルモンは破骨細胞の機能を抑制する方向に作用することが示されました。

図2:培養したキンギョウロコにおけるメラニン凝集ホルモン(MCH)の破骨細胞のマーカー遺伝子(atp6v0d2、ctsk、およびtrap)の発現への影響  MCH(10⁻⁷ M)を含む培地中でウロコを3時間(上段)または6時間(下段)培養し、各遺伝子のmRNA発現レベルを解析した。*は対照群と比較してp < 0.05で統計的に有意差があることを示す。サンプル数はn = 7。  MCH:メラニン凝集ホルモン;atp6v0d2:ATPase H⁺輸送V0サブユニットd2;ctsk:カテプシンK;trap:酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ  © The Author(s) 2026. Scientific Reports. 本図は CC BY NC ND 4.0(改変不可・非営利利用可)の下で公開されています。

図3:培養したキンギョウロコにおけるメラニン凝集ホルモン(MCH)の骨芽細胞マーカー遺伝子(rankl、opg、pthr1、およびpthrp)の発現への影響  MCH(10⁻⁷ M)を添加した培地中でウロコを3時間(上段)または6時間(下段)培養した。ranklおよびopgのmRNA発現レベルを解析し、破骨細胞形成の指標としてrankl/opg比を算出した。*および**は、それぞれ対照群と比較して統計的に有意差があることを示す(それぞれ p < 0.05、p < 0.01)。サンプル数はn = 7。MCH:メラニン凝集ホルモン;rankl:NF-κBリガンド受容体活性化因子;opg:オステオプロテゲリン;pthr1:副甲状腺ホルモン受容体1;pthrp:副甲状腺ホルモン関連タンパク質。© The Author(s) 2026. Scientific Reports. 本図は CC BY NC ND 4.0(改変不可・非営利利用可)の下で公開されています。

次に、キンギョにメラニン凝集ホルモンを投与した実験では、投与24時間後に血中カルシウム濃度および破骨細胞活性の指標である酒石酸抵抗性酸酸性ホスファターゼ(TRAP)活性が低下しました(図4)。この結果は、メラニン凝集ホルモンがウロコの破骨細胞に作用してその活性を抑制し、ウロコ中のカルシウムイオンの血中への放出を減少させる可能性を支持しています。

図4:キンギョにおけるメラニン凝集ホルモン(MCH)の血漿カルシウム濃度(A)およびTRAP活性(B)への影響  ウロコ除去などの前処理を行っていないキンギョに、MCHを体重1 gあたり1 μgの用量で腹腔内投与し、24時間後に測定した。*は対照群と比較してp < 0.05で統計的に有意差があることを示す。サンプル数は対照群n = 7、MCH投与群n = 8とし、各サンプルはそれぞれ異なる個体から得た。MCH:メラニン凝集ホルモン;TRAP:酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ。© The Author(s) 2026. Scientific Reports. 本図は CC BY NC ND 4.0(改変不可・非営利利用可)の下で公開されています。

さらに、キンギョに2種類存在するメラニン凝集ホルモン受容体(MCHR1およびMCHR2)の発現解析により、キンギョのウロコおよびカルシトニン分泌器官である鰓後腺において、MCHR2のみが発現していることが確認されました(図5)。この結果から、メラニン凝集ホルモンの作用は主にMCHR2を介している可能性が示されました。

図5:キンギョの通常ウロコ(Ontogenic scales)および再生ウロコ(Regenerating scales)、ならびに鰓後腺(UBG)におけるmchr1およびmchr2mRNA発現の解析  雌雄キンギョの通常ウロコ、再生ウロコ、およびUBGから調製したcDNAを用い、逆転写PCRにより調べた。発現量の標準化にはβ-アクチンを用い、mchr1およびmchr2の陽性対照としてキンギョの脳から調製したcDNAを用いた。mchr1:メラニン凝集ホルモン受容体1;mchr2:メラニン凝集ホルモン受容体2;UBG:鰓後腺。© The Author(s) 2026. Scientific Reports. 本図は CC BY NC ND 4.0(改変不可・非営利利用可)の下で公開されています。

しかし、再生過程にあるウロコに対してメラニン凝集ホルモンを10日間継続投与したところ、骨形成の指標であるアルカリフォスファターゼ活性および骨吸収の指標であるTRAP活性の双方が亢進し、骨代謝回転が高まることが明らかとなりました(図6)。

図6:キンギョの再生ウロコおよび通常ウロコにおけるメラニン凝集ホルモン(MCH)のALP(A、B)およびTRAP(C、D)活性への影響  ウロコ除去を行ったキンギョに対し、MCHを低用量[0.1 μg/g体重;MCH(L)]または高用量[1 μg/g体重;MCH(H)]で1日おきに腹腔内投与した。ウロコ除去10日後に再生ウロコおよび通常ウロコを採取し、ALPおよびTRAP活性を測定した。**は対照群と比較してp < 0.01で統計的に有意差があることを示す。サンプル数はn = 8。© The Author(s) 2026. Scientific Reports. 本図は CC BY NC ND 4.0(改変不可・非営利利用可)の下で公開されています。

同時に、再生ウロコのカルシウム含量は低下し、石灰化が抑制される傾向が認められました(図7)。さらに、この条件下では血中カルシウム濃度およびカルシトニン濃度が上昇しており(図8)、全身的なカルシウム調節に影響を及ぼすことが示されました。

図7:キンギョの再生ウロコおよび通常ウロコにおけるカルシウム含量に対するメラニン凝集ホルモン(MCH)の影響  MCHを低用量[0.1 μg/g体重;MCH(L)]または高用量[1 μg/g体重;MCH(H)]で1日おきに腹腔内投与した。ウロコ除去10日後に、ウロコ中のカルシウム含量を測定した。*は対照群と比較してp < 0.05で統計的に有意な差があることを示す。サンプル数はn = 8。 © The Author(s) 2026. Scientific Reports. 本図は CC BY NC ND 4.0(改変不可・非営利利用可)の下で公開されています。

図8:キンギョにおけるメラニン凝集ホルモン(MCH)の血漿カルシウム濃度(A)およびカルシトニン濃度(B)への影響  MCHを低用量[0.1 μg/g体重;MCH(L)]または高用量[1 μg/g体重;MCH(H)]で1日おきに腹腔内投与した。その結果、カルシトニンとカルシウム濃度は変化して、有意な正の相関を示した(C)。*および**は、それぞれ対照群と比較して統計的に有意な差があることを示す(それぞれ p < 0.05、p < 0.01)。サンプル数はn = 8。© The Author(s) 2026. Scientific Reports. 本図は CC BY NC ND 4.0(改変不可・非営利利用可)の下で公開されています。

以上の結果から、メラニン凝集ホルモンはキンギョにおいて破骨細胞活性を抑制する一方、投与条件によっては骨代謝回転を促進するなど、骨細胞の機能とカルシウム恒常性を多面的に制御するホルモンであることが明らかとなりました。特に、メラニン凝集ホルモンの作用が投与方法や作用時間に依存して変化する点は重要な知見であり、骨代謝調節機構の新たな理解につながる成果といえます。

今後の展望

今後は、6時間を超える培養条件において、メラニン凝集ホルモンが破骨細胞を活性化するかを検討するとともに、キンギョへの投与実験を通じて、ウロコの破骨細胞が活性化するまでの時間経過(タイムコース)を解析します。これらの解析を通じて、メラニン凝集ホルモンが骨形成と骨吸収を調節する分子機構の解明を目指します。

用語解説

※1:メラニン凝集ホルモン
体の色のもとになる「メラニン」という色素の分布を調節し、体の色を変えるホルモン。魚では、体色を薄くする方向に働き、環境に応じた色の変化に関与しています。さらに、食欲や睡眠などにも関与し、体のさまざまな機能を調節する役割を持ちます。本研究では、骨に対する作用について調べました。

※2:魚のウロコ
魚のウロコは,石灰化した骨基質の上に骨を作る細胞(骨芽細胞)と骨を壊す細胞(破骨細胞)が共存しており、ヒトの骨と同様の構成要素を持つことから、骨モデルとして利用されています。さらに、ウロコは再生能力が高く、除去後に26℃で飼育すると約10日で再生します。本研究では,このウロコの再生現象を利用して,メラニン凝集ホルモンの骨に対する作用を調べました。

掲載論文

  • 雑誌名:Scientific Reports
  • 論文名:Melanin concentrating hormone regulates bone cell activities and calcium metabolism in regenerating goldfish scales
    (再生中のキンギョのウロコにおいて、メラニン凝集ホルモンは骨の細胞の活性およびカルシウム代謝を制御する)
  • 著者名:Kohei Kuroda, Satsuki Kimura, Kanta Mizusawa, Akiyoshi Takahashi, Yusuke Maruyama, Yoshiaki Tabuchi, Yukihiro Furusawa, Tasuku Hirose, Kaito Hatano, Akihiro Sakatoku, Masato Honda, Hajime Matsubara, Hiroyuki Mishima, Naruto Yoshida, Ajai K. Srivastav, Jun Hirayama, Atsuhiko Hattori and Nobuo Suzuki
    (黒田康平、木村咲月、水澤寛太、高橋明義、丸山雄介、田渕圭章、古澤之裕、廣瀬 匡、端野開都、酒徳昭宏、本田匡人、松原 創、三島弘幸、吉田成仁、Ajai K. Srivastav、平山 順、服部淳彦、鈴木信雄)
  • 掲載日:2026年3月20日にオンライン版に掲載
  • DOI:10.1038/s41598-026-41253-4

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