OBJECTIVE.
第38回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者を以下の通り決定しました。
【受賞者氏名】
佐藤 康太(さとう こうた)氏
【受賞対象業績】
テレマンの宗教音楽研究
「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」は、故辻荘一名誉教授(音楽史)および故三浦アンナ教授(美術史)のキリスト教芸術研究上の功績を記念し、キリスト教音楽またはキリスト教芸術領域の研究者を奨励するため、1988年に設置されました。
「音楽史」部門および「美術史」部門の研究者に対し1年ごとに交互に授与されますが、本年度は「音楽史」部門が対象となります。
【授与式】
日 時 2026年1月24日(土)11時から
場 所 立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋キャンパスチャペル)
【レセプション】
日 時 同日 12時15分から
場 所 池袋チャペル会館1階 第1会議室
					佐藤 康太(さとう こうた)氏
【受賞対象業績】
テレマンの宗教音楽研究
「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」は、故辻荘一名誉教授(音楽史)および故三浦アンナ教授(美術史)のキリスト教芸術研究上の功績を記念し、キリスト教音楽またはキリスト教芸術領域の研究者を奨励するため、1988年に設置されました。
「音楽史」部門および「美術史」部門の研究者に対し1年ごとに交互に授与されますが、本年度は「音楽史」部門が対象となります。
【授与式】
日 時 2026年1月24日(土)11時から
場 所 立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋キャンパスチャペル)
【レセプション】
日 時 同日 12時15分から
場 所 池袋チャペル会館1階 第1会議室
【選考理由】
佐藤康太氏は、ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767年)の作品研究に一貫して取り組んできた。テレマンはバッハやヘンデルと同じく、後期ドイツ・バロックを代表する作曲家である。同時代におけるテレマンの名声と重要性は、従来、広く知られてきたものの、4000曲以上という膨大な作品が現存するがゆえに、彼の創作の全貌を把握することは不可能と敬遠されてきた。
日本では先行研究がほぼ皆無であるこの領域に対し、佐藤氏は、レチタティーヴォを分析対象とした。音楽的に華やかで技巧的なアリアに比して、レチタティーヴォは言葉の朗唱を主眼とし、簡素な伴奏を特徴とするため、音楽史研究では等閑視されている。佐藤氏は、慶應義塾大学大学院文学研究科美学美術史学分野在学中に、初期作品を集中的に分析した後、バロック研究の牙城ドイツ・ハレ大学に学籍を移して博士論文に従事した*。佐藤氏の博士論文は、テレマンが生涯にわたって作曲し続けた教会カンタータのレチタティーヴォを包括的に分析し、50年を越えるテレマンの創作期を3つの様式期に区分するものである。そこでは、詩法上の区切りや詩行の韻律を忠実に音楽化していた初期から、より滑らかな語りを目指して詩の構造にとらわれなくなる中期を経て、晩年には自然な話し言葉に近いレチタティーヴォに到達するという様式変遷が浮き彫りにされている。佐藤氏の体系的研究は、テレマンの創作の全貌へ明確な視座を提示したばかりでなく、レチタティーヴォを分析するための方法論を打ち出した点でも意義深い。とりわけキリスト教音楽においては、言葉と旋律、詩と音楽の関係は、歴史を通して最重要な論点である。音楽的にはシンプルとされるレチタティーヴォに光を当てた佐藤氏の優れた着眼は、神学上、典礼実践上の関心とも通底すると言える。
近年、佐藤氏は二つの研究領域を開拓している。ひとつは、感傷主義文学と音楽の結び付きである。18世紀半ばに出現したこの新しい文学的潮流の影響下、レチタティーヴォとアリアの二分法に縛られない、自由な形式による宗教詩が生まれた。これらの詩に向き合うことで晩年のテレマンが獲得した音楽言語について、佐藤氏は考察を進めている**。もうひとつは、オペラ・アリアの歌詞だけを宗教的なものに変えた「コントラファクトゥア」の実態調査である。とくにザクセンの中小規模都市の事例から、当時、作曲が不得手な教会音楽家たちがコントラファクトゥアによって音楽文化を形成していたさまを、佐藤氏は明らかにしている***。いずれも手堅い基礎研究でありながら、これまで知られていなかった18世紀の宗教音楽の多様な姿を示し、それによって大作曲家にばかり注目して書かれてきた従来の音楽史に再構築を迫る観点である。
国際的なテレマン研究の最前線にて学術的成果を継続して発表している佐藤氏の研究は、日本におけるキリスト教音楽研究および演奏実践にも広がりを与えるものである。以上の理由により、佐藤康太氏を第38回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者に決定した。
* Telemanns Rezitativgestaltung in seinen Kirchenkantaten, Ph.D. Diss. (Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg), 2016.
** “Neu gedichtete Kirchenlieder im späten geistlichen Schaffen Telemanns”, in: Mitteilungsblatt der Internationalen Telemann-Gesellschaft e.V. vol. 31 (2017); “Die Auferstehung von Zachariä und Telemann: Analytische Annotationen”, in: Musik und Dichtung: Tradition und Innovation in Telemanns Vokalwerk, 2023; “»Wider das Gewicht«: Zur musikalischen Umsetzung des deutschen Hexameters in Telemanns Messias-Vertonungen”, in: »Und alle Sphären klingen«: Musikgeschichtliche Entdeckungen und Reflexionen, 2025.
*** “Eine Kirchenkantate mit Opernarien? Zum Parodieverfahren in der Kantate, So gehst du nun, mein Jesu, hin‘ TVWV 1:1744”, in: Mitteilungsblatt der Internationalen Telemann-Gesellschaft e.V. vol. 28 (2014); “Telemann-Pflege des Grimmaer Kantors Johann Siegmund Opitz”, in: Überlieferung der Werke Telemanns. Perspektive der Forschung, 2024.
					佐藤康太氏は、ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767年)の作品研究に一貫して取り組んできた。テレマンはバッハやヘンデルと同じく、後期ドイツ・バロックを代表する作曲家である。同時代におけるテレマンの名声と重要性は、従来、広く知られてきたものの、4000曲以上という膨大な作品が現存するがゆえに、彼の創作の全貌を把握することは不可能と敬遠されてきた。
日本では先行研究がほぼ皆無であるこの領域に対し、佐藤氏は、レチタティーヴォを分析対象とした。音楽的に華やかで技巧的なアリアに比して、レチタティーヴォは言葉の朗唱を主眼とし、簡素な伴奏を特徴とするため、音楽史研究では等閑視されている。佐藤氏は、慶應義塾大学大学院文学研究科美学美術史学分野在学中に、初期作品を集中的に分析した後、バロック研究の牙城ドイツ・ハレ大学に学籍を移して博士論文に従事した*。佐藤氏の博士論文は、テレマンが生涯にわたって作曲し続けた教会カンタータのレチタティーヴォを包括的に分析し、50年を越えるテレマンの創作期を3つの様式期に区分するものである。そこでは、詩法上の区切りや詩行の韻律を忠実に音楽化していた初期から、より滑らかな語りを目指して詩の構造にとらわれなくなる中期を経て、晩年には自然な話し言葉に近いレチタティーヴォに到達するという様式変遷が浮き彫りにされている。佐藤氏の体系的研究は、テレマンの創作の全貌へ明確な視座を提示したばかりでなく、レチタティーヴォを分析するための方法論を打ち出した点でも意義深い。とりわけキリスト教音楽においては、言葉と旋律、詩と音楽の関係は、歴史を通して最重要な論点である。音楽的にはシンプルとされるレチタティーヴォに光を当てた佐藤氏の優れた着眼は、神学上、典礼実践上の関心とも通底すると言える。
近年、佐藤氏は二つの研究領域を開拓している。ひとつは、感傷主義文学と音楽の結び付きである。18世紀半ばに出現したこの新しい文学的潮流の影響下、レチタティーヴォとアリアの二分法に縛られない、自由な形式による宗教詩が生まれた。これらの詩に向き合うことで晩年のテレマンが獲得した音楽言語について、佐藤氏は考察を進めている**。もうひとつは、オペラ・アリアの歌詞だけを宗教的なものに変えた「コントラファクトゥア」の実態調査である。とくにザクセンの中小規模都市の事例から、当時、作曲が不得手な教会音楽家たちがコントラファクトゥアによって音楽文化を形成していたさまを、佐藤氏は明らかにしている***。いずれも手堅い基礎研究でありながら、これまで知られていなかった18世紀の宗教音楽の多様な姿を示し、それによって大作曲家にばかり注目して書かれてきた従来の音楽史に再構築を迫る観点である。
国際的なテレマン研究の最前線にて学術的成果を継続して発表している佐藤氏の研究は、日本におけるキリスト教音楽研究および演奏実践にも広がりを与えるものである。以上の理由により、佐藤康太氏を第38回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者に決定した。
* Telemanns Rezitativgestaltung in seinen Kirchenkantaten, Ph.D. Diss. (Martin-Luther-Universität Halle-Wittenberg), 2016.
** “Neu gedichtete Kirchenlieder im späten geistlichen Schaffen Telemanns”, in: Mitteilungsblatt der Internationalen Telemann-Gesellschaft e.V. vol. 31 (2017); “Die Auferstehung von Zachariä und Telemann: Analytische Annotationen”, in: Musik und Dichtung: Tradition und Innovation in Telemanns Vokalwerk, 2023; “»Wider das Gewicht«: Zur musikalischen Umsetzung des deutschen Hexameters in Telemanns Messias-Vertonungen”, in: »Und alle Sphären klingen«: Musikgeschichtliche Entdeckungen und Reflexionen, 2025.
*** “Eine Kirchenkantate mit Opernarien? Zum Parodieverfahren in der Kantate, So gehst du nun, mein Jesu, hin‘ TVWV 1:1744”, in: Mitteilungsblatt der Internationalen Telemann-Gesellschaft e.V. vol. 28 (2014); “Telemann-Pflege des Grimmaer Kantors Johann Siegmund Opitz”, in: Überlieferung der Werke Telemanns. Perspektive der Forschung, 2024.
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