2023/11/15 (WED)

第36回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」受賞者決定

キーワード:その他

OBJECTIVE.

第36回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者を以下の通り決定しました。

【受賞者氏名】
清水 康宏(しみず やすひろ)氏

【受賞対象業績】
『音楽のなかの典礼 ベートーヴェン《ミサ・ソレムニス》はどのように聴かれたか』(春秋社、2023.2)

「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」は、故辻荘一名誉教授(音楽史)および故三浦アンナ教授(美術史)のキリスト教芸術研究上の功績を記念し、キリスト教音楽またはキリスト教芸術領域の研究者を奨励するため、1988年に設置されました。

「音楽史」部門および「美術史」部門の研究者に対し1年ごとに交互に授与されますが、本年度は「音楽史」部門が対象となります。

【授与式】
日 時  2024年1月27日(土)11時から
場 所  立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋キャンパスチャペル)

【レセプション】
日 時  同日 12時15分から
場 所  池袋チャペル会館1階 第1会議室
受賞理由
【受賞理由】
 清水康宏氏の研究は、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェンの晩年の大作《ミサ・ソレムニス》(1823年)を対象とし、この作品を巡る言説の詳細な検討を通じて、19世紀ドイツ語圏における芸術、宗教、教会の複雑な関係性に新たな光を当てるものである。
 《ミサ・ソレムニス》は、ほぼ同時期に作曲された《第9交響曲》とともに、「楽聖ベートーヴェン」の記念碑的作品として高く評価される。その一方で、伝統的なミサ曲の枠組みを逸脱した問題作として議論が繰り広げられてきた。大編成の管弦楽を伴い、技巧を凝らした壮大な構想は、同時代のみならず、こんにちにおいても異色である。
 従来の研究では、批評家F. ブレンデル、作曲家R. ワーグナー、理論家A. B. マルクスらによる解釈が重視されてきた。しかしその際、日本では看過されがちだったのが、彼らがみなドイツ・プロテスタント圏の論者だという点である。清水氏は、19世紀ドイツ語圏の言説を、プロテスタントによる論考とカトリックによる論考に区分し、対置して考察した。その際、進歩的なプロテスタント、保守的なカトリックというような単純な二項対立を慎重に避け、両者それぞれの葛藤や捻れ、重なり合いや錯綜に注視して論を進める方法は周到かつ独創的であり、とりわけ先行研究のほとんどないカトリック側からの《ミサ・ソレムニス》論を丹念に吟味したことは、清水氏の研究の重要な成果と認められる。
 受賞対象となった業績は、清水氏が2021年に東京大学大学院に提出した博士学位論文に加筆し、上梓したものである。序論に続き、第Ⅰ部(第1〜3章)では、プロテスタント圏の論者たちの評価の背景と実体が扱われる。背景として第一に、ロマン派における純粋性への傾倒が挙げられる。そして第二に、その流れから、当時のプロテスタント圏でイタリア・ルネサンス期のカトリック無伴奏合唱曲こそ教会音楽の理想と見なされたことが指摘される。これらを背景に、《ミサ・ソレムニス》は、教会や教派の文脈から引き離され、まさにドイツ的、交響的、自律的な芸術音楽として評価されたことが明らかにされる。それに対して、第Ⅱ部(第4〜7章)で扱われるカトリック知識人たちは、自らの立脚するカトリック教会の典礼音楽としてこの異色作を評価しようと努力した。その際、彼らは、プロテスタント側の芸術的な評価を、カトリック的な超越性、崇高さとも結びつけ、《ミサ・ソレムニス》を通して未来の教会音楽の可能性を模索していたことが詳らかに論じられる。したがって、当時、カトリック圏で優勢だったチェチリア運動も、芸術の自律性を抑制する教会音楽復古運動一色ではなく、内的力動性を秘めたものであったということも指摘されている。
 このように清水氏は、《ミサ・ソレムニス》に関する言説史を、教会教派の伝統を踏まえつつ、文化史的に分析し、再構築することを通して、芸術と宗教がいかに調和するべきかという、キリスト教音楽研究の古来の問いに対して、重要な視点を与えた。
 以上の理由により、清水康宏氏を第36回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者に決定した。

お問い合わせ

総務部総務課

電話:03-3985-2253

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