2022/11/17 (THU)

第35回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」受賞者決定

キーワード:その他

OBJECTIVE.

第35回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者を以下の通り決定しました。

【受賞者氏名】
古沢 ゆりあ(ふるさわ ゆりあ)氏

【受賞対象業績】
『民族衣装を着た聖母——近現代フィリピンの美術、信仰、アイデンティティ』(清水弘文堂書房、2021年)

「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」は、故辻荘一名誉教授(音楽史)および故三浦アンナ教授(美術史)のキリスト教芸術研究上の功績を記念し、キリスト教音楽またはキリスト教芸術領域の研究者を奨励するため、1988年に設置されました。

「音楽史」部門および「美術史」部門の研究者に対し1年ごとに交互に授与されますが、本年度は「美術史」部門が対象となります。


【授与式】
日 時  2023年1月28日(土)11時から
場 所  立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋キャンパスチャペル)

※本年度は新型コロナウイルス感染拡大の状況に鑑みてレセプションは開催いたしません。
選考理由
【選考理由】
 古沢ゆりあ氏は、近現代フィリピンにおける「民族衣装を着た聖母」像の研究を通じて、16世紀から19世紀のスペイン植民地政策とともにこの地にもたらされたカトリック信仰が、どのように現地の人々に受容され独自の発展をとげたのかを、美術史および文化人類学的視点から解き明かし、アジアのキリスト教美術の理解に新たな光を投じた。
 フィリピンにおける近現代美術については、刻々と変化する政治的環境と民主主義の胎動、フィリピン諸島の豊かな生態系、さらにその文化的系譜などに基盤をおく研究が進められているが、伝統衣装をまとう現地女性の姿をした聖母像について、その信仰のよりどころとなる奇跡譚の語り、身体をともなう信仰実践を総合した分野横断的研究は先行例がほとんどなく、きわめて独創的である。
 受賞対象となった業績は、古沢氏が2017年に総合研究大学大学院に提出した博士学位論文に加筆・修正を加えたものである。序章と終章をあわせて全7章からなる本書では、2011年から2017年まで首都マニラをはじめ、バギオ、シライ、ギマラス島など各地で断続的に行なわれた現地調査の成果が、緻密な作品分析と作家を含む関係者へのインタビュー、文献資料の考察を通じて披瀝されている。
 序章では、本論のキーワードとなる「民族衣装」が、純粋な伝統文化の産物ではなく、20世紀の近代国家形成の過程で自国のアイデンティ創出のために再発見された表象として理解され、また、当時のキリスト教美術の現地化に関しては、地元の聖職者や信徒の活動だけでなく、外国人宣教師らに推奨された「宣教美術」、すなわち、非西洋の宣教地における現地様式による美術の様相が明らかにされる。続く第一章では、布教初期から現代にいたるまでの聖母崇敬の歴史と聖画像の受容について、社会に息づく民間信心の事例の数々が紹介され、その後の考察の文化的土壌を知る上で興味深い。
 本論の核となる第二章から第五章は、民族衣装を着た聖母像の具体例が、年代順に各章で取りあげられる。第二章は、19世紀末の独立革命時代に、革命家の夢に現れたとの奇跡譚で知られる《バリンタワックの聖母》(1924年以前作)で、この像は独立運動を背景として生まれたフィリピン独立教会(ローマ・カトリックから分離した教派)の庇護のもと、民族主義運動のシンボルとしての役割を果たしたという。第三章は、国の代表的画家のひとりガロ・オカンポ(1913-1985)による《褐色の聖母》(1938年)について、一次資料を丹念に調べあげ、作品の改作の可能性、国内外での評価の変遷について詳述した。第四章は、パナイ島のハンセン病療養所の患者であった無名の画家が1955年に原画を描いた《バランガイの聖母》について、第五章では近年出現した「フィリピンの聖母」の聖画像群についてなど、それぞれの像の成立の経緯と奇跡譚の流布、人々との交わりが当事者へのインタビューを通じて明かされ、私たちは新たな聖母像の生成の場に立ち会うこととなる。
 これらの研究成果によって、フィリピンにおける「民衆カトリシズム」の豊かなイメージと、聖母像をめぐる人々の暮らしが生き生きと浮びあがり、グローバル世界におけるキリスト教美術に新たな視点が与えられた。
 辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励基金運営委員会は、以上のような成果を高く評価し、2022年度の学術奨励金授与を決定した。

お問い合わせ

総務部総務課

電話:03-3985-2253

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