2021/05/25 (TUE)プレスリリース

小惑星探査機「はやぶさ2」観測成果論文のNature Astronomy誌掲載について

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星Ryugu(リュウグウ)の探査活動に基づく研究成果をまとめた論文が、イギリスのオンラインジャーナル「Nature Astronomy」に2021年5月24日(日本時間5月25日)に掲載されますので、お知らせします。

論文の内容は次の通りです。主著者は、「はやぶさ2」サイエンスチームの坂谷尚哉氏(立教大学)で、サイエンスチームの成果としてまとめました。

リュウグウ上で最も始原的な岩塊を発見(原題:Anomalously porous boulders on (162173) Ryugu as primordial materials from its parent body)

1.概要

「はやぶさ2」の小惑星リュウグウへの接近運用中に取得された中間赤外カメラ(TIR)および光学航法カメラ (ONC)の高解像度画像の解析から、水に浮くほど軽い超高空隙率の岩塊が発見されました。リュウグウは初期の太陽系内でダストが集まったフワフワとした微惑星と呼ばれる天体が熱進化・圧縮等を経て、その後の衝突で壊された物質が再集積した天体だと思われています。一方で、微惑星はまだ誰も見たことがなく、本当に存在したのか、どのような姿であったかは惑星形成過程の最大の課題の一つです。今回の研究で発見した岩塊は、太陽系内の惑星誕生のきっかけとなった微惑星の姿を最も色濃く残している物質であると考えられます。また、「はやぶさ2」搭載の全ての科学観測機器のデータを総動員してリュウグウ表面を調べると、超高空隙率岩塊と同様の物質の破片がリュウグウ表面に全球的に分布しており、「はやぶさ2」のリュウグウ採取試料にも一部含まれている可能性があることが分かりました。今回発見した超高空隙率で最も始原的な物質を採取試料から見つけ出せれば、リュウグウ母天体の形成・進化史を明らかにするのみならず、微惑星形成という太陽系形成過程の初期段階を実証することに繋がると期待できます。

2.本文

小惑星リュウグウは表面の大部分が岩塊で覆われており、TIR、およびMASCOT着陸機搭載の赤外放射計(MARA)の観測では、その岩塊の大多数は地上で見つかっている炭素質隕石よりも熱慣性(惑星表面の温めやすさ、冷めやすさの指標であり、熱慣性が低いほど断熱性が強く、昼間に温まりやすく、夜間に冷えやすい)が低いことが明らかになっています。岩塊の「熱慣性が低い」ということは「空隙率が高い」もしくは「密度が低い」と言い換えることができ、推定されているリュウグウ上の岩塊の空隙率は30-50%です(Grott et al., 2019; Sugita et al., 2019; Okada et al., 2020)。

本研究では、「はやぶさ2」のタッチダウンのリハーサルやMINERVA-II、MASCOTをリュウグウ表面に向けて投下する運用など、探査機降下運用時の高度500m以下で取得されたTIR近接撮像データ(空間解像度45m/pix以下)を網羅的に調査し、リュウグウ上で異常な温度を持っている場所を探索しました。その結果、直径20m以下の2つの小さなクレーターの中心部付近に温度が周囲に比べて非常に高い場所(ホットスポット)が見つかりました。詳細な熱解析から、ホットスポットの熱慣性は月表面と同程度であることが分かり、リュウグウ上の他のどこよりも低い熱慣性を持っています。一方のクレーターに対しては接近運用中のONCの高解像度画像が得られており、10cm程度の黒い岩塊の集合体であることが分かりました。すなわち、この黒い岩塊は他の岩塊に比べて空隙率が高く、70%以上の空隙率を持つと推定されます。密度にすると、おおよそ0.8g/cc以下であり、水(1g/cc)よりも軽いため水に浮きます。かかとの角質を取る軽石のようなイメージです。もう一方のクレーターでは、ホットスポットの詳細な状態が分かるような高解像度のONC画像は得られていませんが、近赤外分光計(NIRS3)の結果は、クレーター内側は水酸基に起因する波長2.72㎛の吸収が外側に比べて強く、比較的近年に掘り起こされた物質であることが分かりました。

図1:発見した超高空隙率岩塊(ホットスポット、赤で囲った領域)のTIR画像(a, b)とONC画像(c, d)。右の画像は左の画像の拡大であり、(d)のONC画像にはホットスポット近傍の岩塊の輪郭を白線で囲っており、これらの岩塊が超高空隙率である可能性がある。(©Sakatani et al., 2021より改変)

リュウグウ母天体の形成シナリオとして、太陽系初期にダストが集まってできたフワフワの微惑星と呼ばれる天体が、アルミニウム-26のような放射性元素による内部加熱、自己重力による圧縮を経験し、中途半端に圧密・固化した、という説があります(Okada et al., 2020; Neumann et al., 2021)。この説では、母天体の大部分がリュウグウの岩塊と同等の空隙率30-50%となるのに対して、母天体表層付近では、内部に比べて経験温度が低く大した圧縮も経験していないので、より初期の高空隙率状態と物質情報を維持した物質が存在したと想定されます。本論文で発見した超高空隙率岩塊はまさにこのような起源を持ち、リュウグウ上の大多数の岩塊よりもオリジナルの情報を残した始原的な物質である可能性が高いです。

更に、降下運用時の複数のTIRおよびONC画像を用いて、その他の岩塊、および岩塊の少ない砂地の熱慣性・反射率・色を調べました。その結果、砂地のデータは、大多数の普通の岩塊と今回発見した超高空隙率岩塊の混合によって説明できることが明らかになりました。これは、超高空隙率岩塊の細かな破片が砂地に含まれていることを示唆しており、タッチダウンによって採取された可能性があります。今後サンプルの中からこれらが見つかれば、リュウグウの起源のみならず、微惑星形成・進化論に対して大きな実証的証拠をもたらすことが期待されます。

図2:超高空隙率岩塊(赤い丸)の形成とリュウグウ表面での挙動(©Sakatani et al., 2021より改変)

3.論文情報

論文タイトル:
Anomalously porous boulders on (162173) Ryugu as primordial materials from its parent body

著者名:
N. Sakatani1,*, S. Tanaka2,3,4, T. Okada2,5, T. Fukuhara1, L. Riu2, S. Sugita5, R. Honda6, T. Morota5, S. Kameda1, Y. Yokota2, E. Tatsumi7,5, K. Yumoto5, N. Hirata8, A. Miura2, T. Kouyama9, H. Senshu10, Y. Shimaki2, T. Arai11,36, J. Takita12, H. Demura8, T. Sekiguchi13, T. G. Müller14, A. Hagermann15, J. Biele16, M. Grott17, M. Hamm17,18, M. Delbo19, W. Neumann17,20, M. Taguchi1, Y. Ogawa8, T. Matsunaga21, T. Wada2, S. Hasegawa2, J. Helbert17, N. Hirata22, R. Noguchi2, M. Yamada10, H. Suzuki23, C. Honda8, K. Ogawa24, M. Hayakawa2, K. Yoshioka4, M. Matsuoka2, Y. Cho5, H. Sawada2, K. Kitazato8, T. Iwata2,3, M. Abe2, M. Ohtake8, S. Matsuura25, K. Matsumoto3,26, H. Noda3,26, Y. Ishihara24, K. Yamamoto26, A. Higuchi27, N. Namiki3,26, G. Ono28, T. Saiki2, H. Imamura2, Y. Takagi29, H. Yano2,3, K. Shirai22, C. Okamoto22†, S. Nakazawa2, Y. Iijima2†, M. Arakawa22, K. Wada10, T. Kadono27, K. Ishibashi10, F. Terui2, S. Kikuchi2, T. Yamaguchi30, N. Ogawa2, Y. Mimasu2, K. Yoshikawa2, T. Takahashi31, Y. Takei2, A. Fujii2, H. Takeuchi2,3, Y. Yamamoto2, C. Hirose2, S. Hosoda2, O. Mori2, T. Shimada2, S. Soldini32, R. Tsukizaki2, M. Ozaki2,3, S. Tachibana5, H. Ikeda2, M. Ishiguro33, H. Yabuta34, M. Yoshikawa2,3, S. Watanabe35, and Y. Tsuda2,3.

著者所属:
  1. Department of Physics, Rikkyo University, Nishi-ikebukuro, Toshima, Tokyo, 171-8501, Japan
  2. Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency, Sagamihara, Kanagawa, Japan
  3. The Graduate University for Advanced Studies (SOKENDAI), Hayama, Kanagawa, Japan
  4. University of Tokyo, Kashiwa, Chiba, Japan
  5. University of Tokyo, Bunkyo, Tokyo, Japan
  6. Kochi University, Kochi, Kochi, Japan
  7. Instituto de Astrofisica de Canarias, University of La Laguna, La Laguna, Tenerife, Spain
  8. University of Aizu, Aizu-Wakamatsu, Fukushima, Japan
  9. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Koto, Tokyo, Japan
  10. Chiba Institute of Technology, Narashino, Chiba, Japan
  11. Ashikaga University, Ashikaga, Tochigi, Japan
  12. Hokkaido Kitami Hokuto High School, Kitami, Hokkaido, Japan
  13. Hokkaido University of Education, Asahikawa, Hokkaido, Japan
  14. Max-Planck Institute for Extraterrestrial Physics, Garching, Germany
  15. Luleå University of Technology, Kiruna, Sweden
  16. German Aerospace Center (DLR), Cologne, Germany
  17. German Aerospace Center (DLR), Berlin, Germany
  18. University of Potsdam, Potsdam, Germany
  19. Observatoire de la Côte d’Azur, CNRS, Nice, France
  20. Universität Heidelberg, Heidelberg, Germany
  21. National Institute for Environmental Studies, Tsukuba, Ibaraki, Japan
  22. Kobe University, Kobe, Hyogo, Japan
  23. Meiji University, Kawasaki, Kanagawa, Japan
  24. JAXA Space Exploration Center, Japan Aerospace Exploration Agency, Sagamihara, Kanagawa, Japan
  25. Kwansei Gakuin University, Hyogo, Japan
  26. National Astronomical Observatory of Japan, Mitaka, Tokyo, Japan
  27. University of Occupational and Environmental Health, Kitakyusyu, Fukuoka, Japan
  28. Research and Development Directorate, Japan Aerospace Exploration Agency, Sagamihara, Kanagawa, Japan
  29. Aichi Toho University, Nagoya, Aichi, Japan
  30. Mitsubishi Electric Corporation, Kamakura, Kanagawa, Japan
  31. NEC Corporation, Fuchu, Tokyo, Japan
  32. University of Liverpool, Liverpool, UK
  33. Seoul National University, Seoul, Korea
  34. Hiroshima University, Higashi-hiroshima, Hiroshima, Japan
  35. Nagoya University, Nagoya, Aichi, Japan
  36. Present Address: Maebashi Institute of Technology, Maebashi, Japan

†. Deceased: C. Okamoto, Y. Iijima.

DOI:10.1038/s41550-021-01371-7

公表日:日本時間2021年5月25日(火)午前0時(オンライン公開)