2020/11/20 (FRI)

第33回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」受賞者決定

キーワード:その他

OBJECTIVE.

第33回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者が以下の通り決定しました。

【受賞者氏名】
杉山 美耶子(すぎやま みやこ)氏 (日本学術振興会特別研究員PD(青山学院大学)、立教大学兼任講師)

【受賞対象業績】
悔悛者への約束——初期ネーデルラント絵画におけるイメージと贖宥——

原題:
Promise to the Penitent: Images and Indulgences in Early Netherlandish Painting,ベルギー、ヘント大学博士学位論文(Ph. D. in Art Sciences, Universiteit Gent)2017年



「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」は、故辻荘一名誉教授(音楽史)および故三浦アンナ先生(美術史)のキリスト教芸術研究上の功績を記念し、キリスト教音楽またはキリスト教芸術領域の研究者を奨励するため、1988年に設置されました。

「音楽史」部門および「美術史」部門の研究者に対し1年ごとに交互に授与されますが、本年度は「美術史」部門が対象となります。

【授与式】
日 時  2021年1月30日(土)11時から
場 所  立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋キャンパスチャペル)

※本年度は新型コロナウィルス感染拡大の状況に鑑みてレセプションは開催されません。
選考理由
【選考理由】
杉山美耶子氏は、中世末期のネーデルラント(現在のベルギー、オランダを中心とする地域)の絵画を研究対象とし、当時の人々の信仰生活に果たしたそれらの役割を、魂の救済や一定の罰を免除する贖宥の視点から読み解き、キリスト教美術の理解に大きく寄与した。中世後期以降、神秘主義的な信仰の内面化とともに、信者が絵画や彫刻などの像の前に跪き、私的な祈りを捧げる行為が浸透していった。この対象となる祈念像に関しては、美術史分野において長い研究の蓄積があるが、本研究の独自性は、贖宥という特別な目的に焦点を絞り、これまで等閑視されてきた関連作品も含めて網羅的に取り上げ、その機能、用法、受容のあり方を詳細かつ体系的に検証した点にある。

贖宥をめぐっては、16世紀マルティン・ルターの宗教改革において、金銭で売買可能な「贖宥状」の販売が批判の的となったために、当時の贖宥自体を敬虔さや信仰からかけ離れた商品のように捉える偏見が今日にいたるまで一部に認められる。杉山氏の研究は、こうした通念を打ち破り、宗教改革前夜、中世からルネサンスへの過渡期ともいえる15世紀から16世紀前半に、ネーデルラントの信者たちの間で飛躍的に発展した贖宥システムが、主に祈祷あるいは宗教的実践を基礎とするものであったことを論じ、視覚的イメージがそこで発揮した効力を鮮やかに描き出している。

受賞対象となった業績は、杉山氏がベルギー・フランダース政府および日本学生支援機構海外留学支援制度の奨学生として2013~2017年にヘント大学大学院への留学時に提出された博士学位論文である。全体で2部構成をとる本論では、贖宥を得るために改悛者たちが用いた、様々な絵画作品が考察の対象となる。第1部では、唱えた者に贖宥をもたらす祈りのテキスト「贖宥祈祷文」と対になって表現された特定の画題、すなわちキリストの「聖顔」、「太陽の聖母」、「聖グレゴリウスのミサ」を中心に、これらの図像が私的な祈念画として聖なる存在を現前させ、祈りの実践へと導くメカニズムが明らかとなる。と同時に、板絵や写本挿絵だけでなく、安価な木版画、銅版画を介して、当時のあらゆる社会階層に普及した画像の影響力が活写されている。

第2部では、各地の聖堂や修道院内での礼拝、信心会での霊的生活のために制作された絵画作品を取りあげ、その成立背景と受容のあり方が、資料調査に基づいて復元される。特に、当時の代表的画家ヤン・ファン・エイクとその工房作による《ヤン・フォスの聖母子》(1441-43年頃、ニューヨーク、フリック・コレクション)やパレンシア大聖堂の《聖母の七つの悲しみ三連画》(ヤン・ヨーストに帰属、1505年注文)の分析は、悔悛者たちの巡礼の目的地にまで高められた絵画の重要性を再認識させるにいたった。これらの成果は、中世末期ネーデルラントにおいて芸術の果たした役割、ひいては西方キリスト教美術と礼拝の歴史という幅広い文脈においても新たな光を与えた。なお、本業績はベルギーを代表する人文系出版社であるBrepols Publisherより Images and Indulgences in Early Netherlandish Painting のタイトルで、Distinguished Contributions to the Study of the Arts in the Burgundian Netherlandsシリーズ第四巻として2021年に刊行予定で、現在、編集段階にある。

辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金運営委員会は、以上のような成果を高く評価し、杉山美耶子氏を第33回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者に決定した。

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電話:03-3985-2253