2020/09/09 (WED)プレスリリース

植物の形づくりを促すアミノ酸代謝を発見

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

アルギニンはタンパク質にも含まれるアミノ酸の一種で、一般的に幅広く存在するものです。生命創成探究センターの川出 健介 特任准教授(現 基礎生物学研究所 助教)は、基礎生物学研究所、立教大学、豊橋技術科学大学、山形大学、理化学研究所、千葉大学、北海道大学、東京大学との共同研究により、アルギニン代謝が植物の形づくりを促進する特別な機能もあることを発見しました。さらに、それをコントロールする仕組みを明らかにすることにも成功しました。これらの成果は、2020年9月8日(米国東部夏時間)に米国の学術誌Cell Reports誌に掲載されます。

研究の背景

図1 ヒメツリガネゴケ/薄緑色の綿毛のように見えるのが平面的に成長する原糸体です。他方、その集まりから上に出てきている緑色の濃いものが茎葉体というシュートで、立体的な体の形づくりをしながら成長します。

陸上植物の祖先にあたる初期の植物は、茎や葉を出さず、地表を這うように平面的に成長していました。そして進化を経て、葉を茂らせた茎を高く伸ばすように(立体的に)成長するようになりました。この茎や葉にあたる部分をシュートと呼びます。
コケ植物の一種であるヒメツリガネゴケは、平面的に成長する糸状の原糸体と、立体的に成長するシュートを環境に応じて作り分けます(図1)。これまで、原糸体からシュートへと成長戦略を切り換える遺伝子が発見されるなど、植物の進化を解き明かす成果が挙げられてきました(注釈1)。それでは、シュートを作るために必要な細胞の材料はどのようにして生み出されているのでしょうか?平面的な成長から立体的な成長へと戦略を変化させたなら、それに応じて代謝状態を調える必要があるはずです。そこで研究グループは、体内の代謝状態を成長戦略に合わせて変化させる仕組みを明らかにしようと考えました。

(注釈1)2012年 基礎生物学研究所 長谷部教授を中心とする研究グループの成果

研究の成果

図2 成長戦略の切り換えに応じて代謝状態を調える仕組み

研究グループは、ヒメツリガネゴケにおいてANGUSTIFOLIA3 (AN3)遺伝子が異常になると、シュートの成長が著しく悪くなることを見つけました。この成長不全の理由を探るため体内の代謝状態を調べたところ、アミノ酸の一種であるアルギニンが過剰に溜まっていることが分かりました。そこで、ヒメツリガネゴケにアルギニンを投与して育てると、AN3遺伝子が異常になった場合と同じように、シュートの成長が悪くなることが確認されました。また、AN3遺伝子には細胞の代謝や成長に関わる遺伝子を活性化する役割があることも明らかにしました。これらの結果から、研究グループは、AN3遺伝子を介したアルギニン代謝の調節がシュートの成長を促していると結論付けました(図2)。

今後の展望

アミノ酸の代謝は生命を維持する基本的な機能がよく知られています。しかし本研究から、アルギニン代謝にはシュートの成長を促す特別な機能もあることが分かりました。今後、シュートの成長に応じてアルギニンがさらにどのような代謝物へと変換されているのか明らかにすることができれば、植物が陸上で繁栄するための鍵であった代謝物が見つかるかも知れません。その結果、生命維持のみならず環境に応じて柔軟に対応するアミノ酸代謝の未知なる機能を探索する新しい研究分野が拓かれると期待されます。また、植物の成長戦略と代謝状態をむすびつける仕組みを解明することは、農作物の形や大きさだけでなく、栄養価も合わせて改善する育種法を開発することにつながると考えられます。

発表雑誌

雑誌名:Cell Reports(セル・リポーツ)
掲載日:2020年9月8日(11:00 am ET)
論文タイトル:Metabolic control of gametophore shoot formation through arginine in the moss Physcomitrium patens
著者:Kensuke Kawade, Gorou Horiguchi, Yuu Hirose, Akira Oikawa, Masami Yokota Hirai, Kazuki Saito, Tomomichi Fujita, Hirokazu Tsukaya

研究グループ

本研究は、生命創成探究センター/基礎生物学研究所(川出 健介)を中心とし、立教大学(堀口 吾朗)、豊橋技術科学大学(広瀬 侑)、山形大学(及川 彰)、千葉大学(斉藤 和季)、理化学研究所(平井 優美、斉藤 和季)、北海道大学(藤田 知道)、東京大学(塚谷 裕一)らの共同で実施されました。

研究サポート

本研究は、生命創成探究センター・BIO-NEXTプロジェクト、文部科学省・科学研究費助成事業(17K15147および19H05672)の支援のもと行なわれました。

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