OBJECTIVE.
東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の森啓二准教授、学習院大学理学部化学科の秋山隆彦教授と立教大学理学部化学科の山中正浩教授は、化学反応が極めて起こりにくい炭素-水素結合を連続的に変換することで、多環式化合物を立体選択的にかつ少ない反応段階で合成することに成功しました。この成果により、これまでの手法では合成できなかった構造をもつ化合物、ひいては新たな医薬品候補化合物の効率的な供給の道が拓けることが期待されます。
本研究成果は、アメリカ化学会Journal of the American Chemical Society(5月9日付)のオンライン版に掲載されました。
論文タイトル:Chiral Magnesium Bisphosphate Catalyzed Asymmetric Double C(sp3)–H Bond Functionalization Based on Sequential Hydride Shift/Cyclization Process
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.8b02761
論文タイトル:Chiral Magnesium Bisphosphate Catalyzed Asymmetric Double C(sp3)–H Bond Functionalization Based on Sequential Hydride Shift/Cyclization Process
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.8b02761
現状
環境問題が大きな社会問題となっている現在、より廃棄物の少ない化学合成法の開発が強く望まれています。この社会ニーズに対して、炭素-水素結合の直接変換法が注目されています。この反応は有機化合物中の炭素-水素結合を一段階の反応で目的の分子に変換する手法であり、水素部分を反応性の高い官能基に替える予備段階が不要なため、合成に関わる工程数を少なくし、廃棄物を大幅に削減できます。
これまでにさまざまな直接変換法が開発されてきましたが、高価で有毒な遷移金属触媒や反応後に廃棄物となる酸化剤が必要という課題がありました。また、これまでのほとんどの方法は単一の炭素-水素結合の変換に関するものであり、医薬品候補等の複雑な化合物を少ない反応段階で合成できる炭素-水素結合の直接二重変換に成功した例は限られていました。
これまでにさまざまな直接変換法が開発されてきましたが、高価で有毒な遷移金属触媒や反応後に廃棄物となる酸化剤が必要という課題がありました。また、これまでのほとんどの方法は単一の炭素-水素結合の変換に関するものであり、医薬品候補等の複雑な化合物を少ない反応段階で合成できる炭素-水素結合の直接二重変換に成功した例は限られていました。
研究体制
本研究は、東京農工大学大学院工学研究院応用化学部森啓二准教授、学習院大学理学部化学科 磯貝涼修士、秋山隆彦教授、ならびに立教大学理学部化学科 亀井優斗修士、山中正浩教授らにより行われました。また、本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(B) 26288053, 17KT0011,17H03060 および井上科学振興財団の助成により行われました。
研究成果
本研究では、遷移金属触媒や外部酸化剤を必要としない炭素-水素結合変換法を連続的に用いた、多環式化合物の不斉合成法(鏡像となる2種類の化合物から、目的の立体構造のみ選択的に合成する方法)の開拓を目指し研究を行いました。反応の達成にあたって重要なのは、困難な反応を進行させるための高い反応性の獲得でした。様々な検討の結果、二つのアルキル基を持つ出発原料を用いることで、窒素原子の隣接位にある炭素-水素結合の官能基化が連続的に進行することを見出し、従来法では合成困難な三環式窒素化合物を高い立体選択性で合成することができました。またこの反応は、有毒な金属元素を含まない、環境に優しい触媒であるキラルリン酸により反応が達成できています。
今後の展開
今回は窒素原子を含む化合物を用いた化合物に関するものですが、本研究成果を利用することで酸素原子を含む化合物、さらに炭素原子のみを含む化合物合成も可能です。さまざまな新規医薬品候補化合物の効率的な供給につながることが期待できます。
注1)キラル:その鏡像と重ね合わせることができない性質を持つこと。
注2)不斉合成:一方の鏡像異性体を選択的に合成すること。
注1)キラル:その鏡像と重ね合わせることができない性質を持つこと。
注2)不斉合成:一方の鏡像異性体を選択的に合成すること。
研究活動についての最新記事
-
2024/10/04 (FRI)