2018/04/25 (WED)

理学部の箕浦真生教授らが新規アルキル立体保護基の開発とテトラアルキルジシレンの合成を達成

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

理学部の箕浦真生教授と、理学研究科博士課程後期課程(現、京都大学化学研究所助教)の行本万里子さんが、新規アルキル立体保護基の開発とテトラアルキルジシレンの合成を達成しました。また、本研究結果は、日本化学会発行の国際欧文誌、Bulletin of the Chemical Society of Japan(2018年4月号)に掲載され、Selected Paper(優秀論文賞)に選ばれました。

私達の身の回りに普遍的に存在する炭素間に二重結合を有するアルケン(R2C=CR2)は、非常に安定な化合物です。一方で、元素の周期表で炭素の一つ下 (同族の第三周期) に位置する元素であるケイ素で構成される二重結合化学種、ジシレン(R2Si=SiR2)は、反応性が高く空気中では速やかに対応する多量体や酸化体に変化してしまうことが知られています。このような高反応性の化合物を合成しその性質を解明するためには、一般に、かさ高い立体保護基を導入する速度論的安定化という方法がとられます。これまでに立体保護基となる置換基は数多く開発されており、ジシレンについてもテトラアリール置換(芳香族置換基のみを有する)のものは、いくつかの報告があります。しかし、テトラアルキル置換(脂肪族置換基のみを有する)ジシレンについては、置換基開発の難しさから報告例は限られており、反応性の解明が求められていました。

今回、新しい脂肪族置換基を開発したことで、テトラアルキルジシレンを安定に合成単離することができ、大型放射光施設(SPring-8)の装置を利用した極微小単結晶X線結晶構造解析により、テトラアルキルジシレンの構造を明らかにしました。汎用性の高い立体保護基を開発し高反応性化学種の合成に用いることで、未知の化学結合の性質を明らかにすることができるとともに、新しい機能性材料や触媒機能をもつ材料などへの応用も期待できます。

本研究は、立教大学学術推進特別重点資金(立教大学SFR大学院学生研究)、文部科学省「私立大学戦略的基盤形成支援事業」、日本学術振興会科学研究費補助金、SPring-8 大学院生提案型課題の支援を受けており、日本化学会発行の国際欧文誌、Bulletin of the Chemical Society of Japan(2018年4月号)に掲載されSelected Paper(優秀論文賞)に選ばれました。

※研究グループ
立教大学
  理学部教授            箕浦 真生(みのうら まお)
  大学院理学研究科博士課程後期課程(現、京都大学化学研究所助教)
                   行本 万里子(ゆきもと まりこ)

1.背景

高周期元素を含む多重結合化学種は自己縮合反応、酸化や加水分解反応により速やかに分解するため、合成は困難であると考えられてきましたが、1981年に初めてR. Westらによってケイ素間に二重結合を有するジシレン(R2Si=SiR2)が合成されました。これを皮切りに数々の高反応性多重結合化学種が報告されるようになりました。

同時に、かさ高い立体保護基も設計・開発され、高反応性化学種の性質解明に用いられていましたが、剛直で官能基変換のしやすい芳香族置換基に比べて、脂肪族置換基は、保護基の開発が難しく研究は立ち後れています。

2.研究手法と成果

まず、立体保護基となるかさ高い脂肪族置換基の設計と合成を行い、三枚の芳香環がプロペラのように繋がったトリプチシル基を基盤としたトリプチシル*メチル基を開発しました。トリプチシル基の橋頭位にメチレン基を導入することで、かさ高い置換基に柔軟性を付与し、反応空間を保持できるようにしました。

また、トリプチシル基の芳香環を拡張することで、かさ高さを向上させた置換基をデザインしました。トリプチシル基の芳香環の拡張は一段階で高収率で進行し、教科書に記載されている簡単な反応で保護基を得ることができました。
その後、ジブロモシラン1へと誘導し、還元剤であるKC8を用いて1を還元すると、対応するテトラアルキルジシレン2が鮮やかな黄色の固体として高収率で得られました。 大型放射光施設(SPring-8)の装置を利用した極微小単結晶X線結晶構造解析によりその構造を決定し、選択的にシス体のみが得られていることがわかりました。ケイ素間結合長は2.223(1) Åであり、一般的なケイ素−ケイ素二重結合長の範囲内(2.14~2.26 Å)でした。

さらに、それぞれのトリプチシル骨格は歯車のように噛み合っており、この噛み合いによりCH2-Si=Si-CH2部分が効果的に保護されていることが明らかになりました。溶液中においても、ジシレン2は単一成分で観測され、トランス体への異性化反応は全く観測されませんでした。

また、ジシレン2は300 ℃以上まで加熱しても分解せず、熱的に非常に安定でした。空気中では酸化されるため、トリプチシル*メチル骨格により立体保護と反応空間の両方の供給ができていることが確認できました。

3.今後の期待

今回の成果は、剛直さと柔軟性を併せ持つ新規脂肪族立体保護基を設計・合成し、高反応性ケイ素化学種の合成単離に応用可能であることを明らかにしたことです。

今回開発した置換基を、未知化学種の速度論的安定化に用いることで、新しい化学結合の性質解明が可能になるとともに、新しい触媒機能や物性をもつ化学種の開発や応用も期待できます。

4.論文情報

<タイトル>
The Synthesis of a Novel Bulky Primary Alkyl Group and Its Application toward the Kinetic Stabilization of a Tetraalkyldisilene
<著者名>
Mariko Yukimoto, Mao Minoura
<雑誌>
Bulletin of the Chemical Society of Japan
<DOI>
10.1246/bcsj.20170422

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