自分が関心を持っていることについて書籍を読み込むガッツのある人に来てほしい

現代心理学部心理学科 林もも子 教授

2018/09/03

立教を選ぶ理由

OVERVIEW

心理学は英語でいうとサイコロジー(Psychology)ですが、これは古代ギリシャ語の「Psyche(心)」と「logos(学)」が合体してできた言葉です。心理学でどんな研究がなされるのかという実例と立教大学でどのような授業・指導を受けられるのかについて、現代心理学部の林もも子教授教授に伺いました。

「アタッチメント」とは

ストレスの多い現代の日本社会で精神的に健康であることがどれほど大切なことか、取りざたされるようになって随分経つ。精神的な健康を保つにはさまざまな要因が関わっているが、そのうちの1つが、林教授が研究テーマとするアタッチメントだ。アタッチメントはしばしば「愛着」という訳語で紹介されるので、愛情に関する概念だという誤解が生まれやすいが、本質的には人間が危機を回避するために本能的に備わっているシステムであると林教授はいう。

林もも子教授

「人間を含む動物は危機にさらされると、自分よりも強く頼りになる同種の動物(人間の子どもなら養育者など)に近づいて、保護を求めます。英語ではこの保護のことをケアといいますが、ケアしてもらうと安心な状態を取り戻します。安心な状態で世界を探索し、危機にさらされると不安や恐怖を感じる。そしてまた保護を求めて、安心な状態を取り戻す。この一連のサイクルのことを、アタッチメント・システムと呼びます。」

アタッチメント理論は、イギリスの児童精神科医であるジョン・ボウルビィが著書『母子関係の理論』で初めに提唱したものだ。もともとアタッチメント概念は保護を与える母と、保護を求める子についてのものだった。しかしのちにボウルビィ自身が、このシステムが人間の生涯にわたって機能するものであると考えを改めている。保護を与える存在のことを「アタッチメント対象」と呼ぶが、幼少期には親だけだったアタッチメント対象は、大人になっていく中で友人や先生、恋人などに広がっていく。臨床心理士としてのキャリアも長い林教授は、この中で特に思春期のアタッチメントのあり方を重視し、研究している。

「思春期は、その子が自立に向けて成長しているほど、親がアタッチメント対象ではなくなっていきます。そして新たにアタッチメント対象と認識していた友人などが、喧嘩したりして突然アタッチメント対象にならなくなった時、つまり『この人には心を許せない』と感じてしまった時に、アタッチメント対象が誰もいないというエアポケットに陥ってしまうことになるのです」

思春期は人が子どもから大人へと成長する移行期であり、親-自分、友人-自分といった人間関係がさまざまに変化する時期でもある。その不安定さの中で、1人では解決できない大きな恐れや不安を抱えながら、周りの誰も自分の力になってくれないと感じてしまうこと。それが時として人を自死まで追いつめることを考えると、アタッチメント対象がいかに重要なものであるかがわかる。

アタッチメント・スタイル・インタビュー(ASI)とは

臨床心理士がスクールカウンセラーとして学校へ派遣されることが増えてきた現在、突然不登校になったり、級友や教員との間にトラブルが絶えない生徒に対して、臨床心理士が介入する事例もある。アタッチメントの重要性を理解しているカウンセラーであれば、生徒への面接を重ねてアタッチメント・システムを安定させることで問題を解決へ導いていく。それにはまず生徒のアタッチメント・システムが、どのようなスタイルの、そしてどのような状態のものであるのかを知ることが役立つ。どう探っていくのだろうか。

ASIにおけるアタッチメント・スタイルとその特徴

「その人のアタッチメントがどのようなものかを知るために、『アタッチメント・スタイル・インタビュー(ASI)』という面接方法があります。アタッチメント・スタイルとは、その人のアタッチメントのあり方、というような意味です。面接は一部と二部に分かれますが、まず一部では、その人に安心なアタッチメント対象となる人がいるか、何人くらいいるのかを探ります。たとえば、『自分がもうすぐ死ぬという宣告をされた時に、一番最初に相談したいと思うのは誰ですか?』『その人にはどんな風に自分の悩みを相談しますか?』といった質問をしていきます。二部では、アタッチメント・スタイルのタイプを判別していきます。『誰かに相談する時、こういう話をしたら相手に拒否されるかもしれないと思って話せなくなったりしますか?』といった質問で、恐れや怒り、依存的な傾向を持っているかどうかを見ていくんですね」

アタッチメント・スタイルは、ASIによって5つに分類される。周囲との関係が安定している「安心型」、人と離れるのが苦手な「とらわれ型」、人からの拒絶を恐れる「恐れ型」、他者に対する不信感と怒りの強い「怒り—拒否型」、自立的で人に助けを求めない「引っ込み型」だ。「人と安心できる関係を築こうと思っても、過去にひどく傷ついた経験があるために他者に恐れや怒りを抱いていて、アタッチメント対象に近づけない人がいるんです。またべたべたと甘えすぎる、つまり依存度が高すぎることで嫌われてしまい、その結果、安心できるケアを得られない人もいます。それぞれのタイプに応じた面接を重ねて、安心できない状態に陥っていたアタッチメント・システムを、安心できるものになるように関わっていきます」人生には幸せな出来事ばかりが起こるわけではない。不幸なライフ・イベントに遭遇した人の心の状態を明らかにし、崩れたバランスを整える手助けをすること。人間関係もストレスの大きな要因となっている現在の社会において、アタッチメントについて学ぶことの意味は大きい。

学部ゼミで取り組むことのできるテーマはさまざま

ゼミでは教授との距離も近く、論文や研究のことを相談しやすい雰囲気で行われる。

他大学と同様、立教大現代心理学部心理学科でも1~2年生は講義の受講が中心となる。講義の中で林教授が講義で伝えたいのは、心理療法の多様なあり方だという。
「学部の講義なので、心理療法にはいろいろな方法や理論があるということを、なるべく偏らずに伝えたいですね。たとえばユング心理学には肯定派も否定派もいますが、アニメや小説の世界に没入できるような物語好きな人には、ユング心理学のアプローチがうまくいったりします。ユングが正しいかどうかより、患者さん自身、治療者自身の志向に合わせて選べばいい。そのためにさまざまな方法のバリエーションを紹介していきたいと思っています」

3年生からのゼミでは、まずアタッチメントなどに関する文献を講読し、2年生まで講義で学んだ内容を深めていく。同時に、「仮説を立て、証明し、その内容を文章で伝える」という論文執筆の基礎力をつけていく。心理学の場合はデータを多く扱うため、仮説を証明するために必要な調査を行う方法や、実験する方法や統計についても学ばねばならない。

こうして研究力をつけ、具体的に卒論で取り組むテーマを各自決めていくのは3年生の秋頃からだ。林教授のゼミではどんなテーマを扱うのだろうか。
「学部では、パソコンでよほど複雑なシステムを用いるような実験は無理だけど、それ以外で私が指導できそうなものならどんなテーマでもいいよ、と伝えています。少し極端なものだと、カルト宗教に入信してしまうのはどういう人なのか、というテーマを持ってきた学生がいました。どういう対象設定をしてデータを取るかで難航して、結局実現しませんでしたが…。あと最近は、LGBTのカミングアウトが誰に対してどんな風におこなわれるかを研究したい、という学生もいます。ここまでくると、心理学の範疇を越えて社会学に近くなってきますね。もちろんアタッチメントをテーマにする学生もいて、本当にいろいろです」

学生の関心の幅を狭く限定せず、その追究をサポートしてくれるこうした教授の存在があるからか、立教大現代心理学部では大学院への進学率も他学部に比べて高い。学生の8割は他学部と同様一般企業や公務員として就職するが、大学院に進学して臨床心理士や研究者を目指す人が多いのだ。

立教大現代心理学部心理学科を目指す人へのメッセージ

林教授が立教大現代心理学部心理学科に来てほしいと思うのは、どんな学生なのだろうか。勉強へのアドバイスも含めて聞いてみた。

「何か勉強したい人にとって、今の日本は非常に恵まれています。専門的な理論についてであっても、ウィキペディアでそこそこのことは調べられます。また、キーワード検索すれば大抵の情報にはアクセスできます。ただ、こうした情報は玉石混交なので、それを読んで物事をわかった気になるのはとても危険です。それと、二番煎じ・三番煎じの情報は量を圧縮して伝えるために、原典の中の豊かな枝葉をそぎ落としてしまいます。フロイトならフロイトで、心理学の上で大きな仕事を成し遂げた人のオリジナルな言葉にきちんと触れれば、それが一番広がりを持った創造的なものであることがわかると思います。自分が関心を持っていることについて、原典とはいかないまでも、書籍をきちんと読み込むガッツのある学生さんに来ていただければ嬉しいです」

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