難民保護の現場から見る、世界の抱える社会問題への対峙

Global Liberal Arts Program 4年次 堤 万里子さん

2024/04/03

RIKKYO GLOBAL

OVERVIEW

2023年度に「国連ユースボランティア」参加者としてガーナの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で活動した堤さん(GLAP)にお話をうかがいます。

堤 万里子(TSUTSUMI MARIKO)さん

  • 学部・学科(専修):Global Liberal Arts Program
  • 派遣年度・派遣時年次:2023年度派遣(4年次)
  • 派遣先国/地域:ガーナ(アクラ)
  • 派遣先機関:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
  • 現地活動期間:2023年10月~2024年2月

◇参加のきっかけ、目標を教えてください

自分の行ったことのない国に行き、知らない世界をもっと見てみたいと思っているときに、開発途上国で五か月間ボランティアに携わるという本プログラムのことを知りました。それまでアメリカ合衆国に留学をしたことはあったものの、海外と言えば欧米諸国のイメージばかり持っていた私は、西洋以外の海外の知識が限られていることに課題を感じていました。また、専攻のグローバル・リベラルアーツで社会学や政治学、文化人類学を学んできた私は、机上の学びに加えて実践の場での学びを深めたいと思っていました。そのため初めて行く開発途上国で異なる背景を持つ人々と働き、社会問題及び人間社会の多様性について理解を深めることができる機会を逃すべきではないと考えました。

参加の目標は国連がどのように機能しているのか、現場の人々がどのような問題に直面しているのかを自分の目で見て学び、大学教育で学んだことを社会のため、人のために最大限に活用する方法を探ることでした。

◇参加にあたりどのような準備をしましたか

申込から渡航準備の過程で、なぜ自分が難民支援に関心があるのか、活動のために活かせる自分の強みは何かなどを問い直し、言葉にして認識する作業を繰り返しました。参加が決定したのちの8月には外務省や関西学院大学における研修があり、国連の仕組みやプロジェクトの運営方法に関して学びを深めました。
また事前に知人を介してガーナにいる日本人や韓国人と連絡を取り、日本とは大きく違うであろう生活に備えることもしました。特に日本にはないマラリアなどの病気に関する情報など、危機管理のための情報収集なども行いました。

(左)サトウキビを売る男性、(右)プランテインを揚げる女性

(左)ガーナフードのフフとワチェ、(右)地元のマーケットにて

◇派遣された機関について、また今回携わった業務について教えてください

私が派遣された機関は、ガーナの首都アクラにある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)です。ガーナにはスーダン、カメルーン、リベリア、コートジボワール、中央アフリカ、トーゴなど近隣国からの難民(14,000人ほど)が数多く暮らしています。UNHCRは難民を保護し、住む場所を追われるというディスプレイスメントの問題解決を目的とした組織です。保護(Protection)とは、個人の権利がしっかりと尊重されるようにするための活動をすべて指します。そのためUNHCRでは難民や亡命希望者などの当事者たちを“支援の受益者”ではなく“権利の保持者”ととらえ、生きる権利をはじめとした彼らの権利を実現させることをめざして活動しています。

スタッフとプロジェクトミーティング

私は、UNHCRの保護(Protection)や恒久的解決策(Durable Solutions)を担当する部署に配属されました。難民の状態は永遠に続くものではなく一時的なものであるべきです。そのため難民状態を解決するための方法として考えられるのは、①自国に自主帰還する②ホスト国社会に統合する③第三国に再定住する、という3つがあり、これらがDurable Solutions (恒久的解決策)と呼ばれます。配属部署におけるにおける私の主な業務は、①難民がガーナ社会で仕事を得られるように難民雇用促進活動を行うこと②第三国への再定住に関しての知識をつけ同僚を補佐すること、でした。

◇印象に残っている活動を教えてください

難民の方とのカウンセリング

毎週火曜日のカウンセリングサービスです。多くの難民が日々の悩みを相談するためにUNHCRオフィスを訪れ、医療費、住居問題、仕事探し、第三国定住(resettlement)などについて話しに来ました。私は時には医療問題担当の同僚と一緒に、また時には第三国定住担当の同僚と一緒に、また時には私一人で、カウンセリングに参加し難民の相談に乗りました。カウンセリングでは相談内容をメモに取ったり、データベースに情報を記入したり、難民に直接質問したりしました。アラビア語やフランス語、現地語等様々なアクセントの英語を聞き取るのは難しかったですが、同時に難民が様々な地域からガーナに来ていることを実感しました。また、難民の相談に耳を傾けるだけではなく適切なアドバイスを行うには、ガーナにおける医療や住居面の難民支援体制の知識が必要だったり、第三国定住の制度の知識が必要だったりと専門性が求められることを実感しました。同僚の受け答えを隣で見て学び、どのような質問にどのように答えればいいのか、どのような制度が整っているのか、また難民にどのように話しかけると良いのかなどを学んでいきました。

加えて、「難民」と一言で言っても、一人一人、経験も相談内容もそれぞれだということを理解しました。最初は穏やかに話し始めても、話しているうちに、自国でのつらい経験を思い出したり、将来への希望が見えなかったりとだんだんと感情が湧き出してくるケースは特に強く印象に残っています。家族と離れ離れになっている、子どもの行方が分からない、自国の政府から逃げてきた、自国で家族を殺害された、もう約10年も難民生活を続けている、教育費が高くて勉強ができない——このような話を直接聞きました。ガーナに来た難民と直接話をし、彼らの悩みについて理解を深め、目の前の彼らのために自分にできることを考えるというのは、本プログラムだから経験できたことだと思います。その結果、難民支援の必要性を本当に実感しましたし、今後将来難民支援に何かしらの形で関わっていけたらと思いました。

◇活動中苦労したことに対して、どのように乗り越えましたか

業務の一つに、昨今において難民条約の適用終止を免除されたコートジボワール難民の中から、第三国定住するための資格要件を満たしたケースを探すという作業がありました。この作業を課される以前から第三国定住できるケースはどういったものかという基準を学んでいたので、その知識を今度は実践に活かす機会でした。一方で知識を実際のケースにあてはめて考えるのは簡単ではなく、経験値がゼロの自分を実感しました。それぞれの難民はそれぞれ違った経験を持っているので、Aの場合は第三国定住に適している、Bの場合は適していない、とすぐに白黒はっきりできるものではありませんでした。難民一人ひとりのケースを考え、例えばAの場合でも同時にCやDやEの要素をも含む場合はどのような判断をするべきなのかと悩むことが多かったです。また過去に自国で迫害を受けたケースを探すように指示されることもありましたが、それぞれの難民がそれぞれの大変な経験を持っている中で、何がどこまで「迫害」に当たるのかというのも判断が難しいものでした。それは迫害の定義を知っていても難しく、過去の事例を知らない私には手探り状態でした。
そのような中で、完璧な結果を出せなくても最善を尽くして指示されたことを形にする点を大切にしながら、1)分からないことに関して間違えることを恐れずに教えを乞う、2)積極的に質問する、3)自分で学びを進められるような資料や文献の紹介を依頼する、4)同僚のフィードバックや同僚の判断結果と自分の作業結果を比較し見直す、といったことをしました。その結果、指示された資料の提出を完了することはもちろんのこと、第三国定住に関する理解をさらに深め、自分で情報を手に入れることの重要性を学ぶことができました。

◇活動を通して、特に国際協力に関して、どんな学び・知見を得ましたか

国連は国際的な大きな組織ですが、資金繰りに苦労することがあるというのは印象的でした。時には、現場で働く国連スタッフが最も資金面の援助が必要だと考えている事業よりも、ドナー側が必要だと考えている事業に資金を回さなければいけないこともあります。また、世界各地の大規模な紛争の発生によって資金の多くがウクライナやガザに集中し、他国と比べて難民の数が少ないガーナにはなかなか十分な資金が配置されにくい現実もあります。このため、UNHCRで10年近く働いた経験ある職員が職を失うこともありました。

(左)難民に向けたブルーオアシス紹介のためのニュースレター、(右)パンフレット(Pamphlet UNHCR)

私は活動中、企業に向けた雇用促進を呼びかけるパンフレットの作成に取り組むことになりました(写真右は作成したパンフレット)。その過程で、日本がまだUNHCRガーナのドナーとなっていないことを知ったため、機会を設けていただき日本大使館の担当者に話をうかがいました。すると、UNHCRガーナは日本大使館とこれまでつながりがなかったために、大使館側の所定の手続きを認識しておらず、資金援助の申込を行えていなかったことが分かりました。ここで私はUNHCRの上司に日本大使館の担当者を紹介するに至りましたが、同時に、国際協力の活動においてはネットワークの活用や担当者一人一人の課題意識が大事なのだということを学びました。

◇これまでの経験や大学生活で得た学びを活かせた場面はありましたか

活動最終日にUNHCRのスタッフと

これまで経験した留学等の海外経験から得た、異文化適応力や様々なバックグラウンドを持った人とのコミュニケーション力は、今回の派遣においても活かすことができました。また、できないことがある時に悩んだり思いつめたりしすぎず、そうした状況や自己を肯定しつつ長い目で見て自分の成長を信じる姿勢も、今回の活動において意識して取り組めた点だと思います。行動としては、焦らず自分なりの最善を尽くす、そして、自分が納得し成長につなげられる考え方を持って定期的な振り返りを行うようにしていました。過去の経験から、その大切さを分かっていたからこそ、週一回のウィークリーレポート作成時には時間をかけて振り返りを行い、悩んだ時には友達や同僚に相談するように心がけることができました。

◇国連ユースボランティアでの経験を今後どのように活かしていきたいと思いますか

勤務時間後、誕生日を祝ってくれたオフィスの人々と

難民問題への関心が具体的に深まったこと、第三国定住の知識を得られたこと、仕事をするために同僚などと協力したこと、多様な人々に出会ったこと、ガーナ人の生き方に触れて自分の中の“当たり前”が良い意味で崩れたこと、などさまざまな発見は今後の私の行き方に影響を与えるでしょう。特に知識が豊富で、人権を大切にし、思慮深く、発信力や主体性を持ち、多様性にオープンで、明るい、そのような同僚たちに出会えたことは一生の財産になったと思います。彼らのような人間になれるように、これからも自分の道を探していきたいと思いました。

◇参加を考えている方へメッセージをお願いします

本プログラムの参加を通じて、世界が開け、人との出会いがあります。行ったことのない国、特にこのプログラムでは開発途上国で生活し活動することで、日本や西洋とはまた違った人間の暮らし方が見えてきます。食、音楽、話し方、他者への接し方、インフラ事情、時間の感覚、言語、街の雰囲気、地元の人たちの誇り、といったことに関して新たな発見があるでしょう。そうした未知の暮らし方に接した際に自分がどのように反応するのか、その反応は数か月間を経てどのように変化するのかといったことを観察すれば、異文化への理解が進み、人間の可能性を探る機会にもなるはずです。

私は予想以上に様々な人々と交流することができました。異なるジェネレーションやバックグラウンドの人々と交流し、彼らの働いている姿を見ると自分の将来を具体的に考えるきっかけにもなります。大学生が国連オフィスでできることは限られていますが、それでも得られる知識はたくさんありますし、国連スタッフの働き方を間近で見られるチャンスは逃してほしくないと思います。私にとって、大学生のうちから社会問題に対処するため現場で業務に向き合う感覚がつかめたことはとても貴重な経験となりました。

ラクダと

研修旅行先でUNHCRガーナのスタッフと

アクラのBlack Star Gate(独立広場内)

後書き
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。

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