公開講演会「映画監督・是枝裕和氏を迎えて」学生レポート

現代心理学部映像身体学科4年次 泉村 佳那さん

2024/02/13

立教生のキャンパスライフ

OVERVIEW

2023年7月14日(金)に立教大学心理芸術人文学研究所主催により、公開講演会「映画監督・是枝裕和氏を迎えて」が池袋キャンパスで開催されました。イベントの様子を泉村佳那さん(現代心理学部映像身体学科4年次)が報告します。

講演概要

第一部 新作『怪物』をめぐって
2004年『誰も知らない』で柳楽優弥が史上最年少でカンヌ映画祭最優秀男優賞を受賞。2013年『そして父になる』でカンヌ映画祭審査員賞、2018年『万引き家族』ではカンヌ国際映画祭コンペティション部門の最高賞であるパルム・ドールを受賞。2022年『ベイビー・ブローカー』ではソン・ガンホに韓国人初のカンヌ国際映画祭主演男優賞をもたらし、さらに2023年のカンヌ映画祭では新作『怪物』では坂元裕二が脚本賞受賞。5つの作品でカンヌ映画祭のコンペティション部門において主要部門を受賞するという快挙を成し遂げた映画監督の是枝裕和氏を本学にお招きし、最新作『怪物』についてお話を聞きました。聞き手は本学現代心理学部映像身体学科の専任教員篠崎誠が務めました。
第二部 大学で映画を教える=学ぶということ
映画監督であると同時に現在早稲田大学基幹理工学部教授を務める是枝氏に加え、2022年度早稲田大学におけて全授業の中から選出されるティーチング・アワード総長賞を受賞したコラボレーション授業「映像制作実習」を是枝氏と共に担当した本学篠崎並びに基幹理工学部専任講師で映画研究者の土田環氏と共に、いわゆる専門学校、芸術系ではない四年制の大学で映画を教える=学ぶ意義について考えました。

現代心理学部映像身体学科4年次 泉村 佳那

今回「怪物」についての対談、またいわゆる専門学校ではない大学の学生に映画を教えることについての講演を聴くことができ、一観客、同時に実際に大学で映画製作を学んでいる現在の私たち、これから制作に携わっていく立場としても学ぶ時間になった。

まず、前半で「怪物」のお話を伺うにあたり、是枝監督がいかに“人間”を見ているかに気付かされた。それは、俳優にとどまらずスタッフも同様で、生身の人間一人一人に向き合おうとされている。思えば、篠崎先生が指摘された是枝監督の過去作についての会話の中で、題材や時代が違えども、どの作品も人間のコミュニケーション間に起こるズレや隙に着眼していて、その根源は人間の身近で普遍的な感情の動きや欲望なのだと感じる。そうした向き合い方の中でも、「表に出ないものこそその人の本質」という言葉に感銘を受けた。隠そうとするものにこそ、その人の人間性が浮かび出るというものだ。

私たち学生が、映画撮影をする時、カット内に存在する事象や、一般的にそうとされる感情の表象(楽しくて笑う等)に捉われ、伝えたいものを明確に押し出そうと前のめりになっている気がする。しかし、それは映画世界の時間軸によって動く、登場人物の感情とは切り離されていて、一般化されたイメージでしかない。この人物が、人生歴や会話、同じ空間にある美術の一つに、影響を受けていることをしっかりと見つめなければいけない。

左:聞き手を務めた篠崎 誠(本学現代心理学部映像身体学科 専任教員)、右:是枝 裕和 氏(映画監督)

また、篠崎先生は同じく“嘘”についての対話の中で、「人間の感情はとても複雑で、絶えず動いていて、悲しいと涙を流し、嬉しいと笑うといった単純なものではない」とおっしゃっていた。その正しく流れない個人の欲や性質こそ、面白みがある。

しかし、その微妙で繊細な揺れを表現する場合、より演出で変化を強化し、説得力を持たせる必要があると思った。その上で、こうした漠然とした感情を表現する方法として、是枝監督が「怪物」での黒川想矢君に対する演出で、「感情を身体に置きかえてみる、または感情を具体として考えてみる」というものはとても興味深かった。具体として想像することで、顔や台詞ではなく、感情が身体を伝って表に滲みる。それこそ、その時の人物の気持ちだという。後半の対談で、個性について、「制限をされてなくなるようなものは個性じゃない」と、是枝監督はおっしゃっていたが、確かに、その人の個性とは、知らず知らずの内に滲み出るもので、それは演技の際にも同様なのだろう。
私は、実際シナリオを描く際に台詞を考えると、直接的な言葉で誰が何を思っているのか大切なことほど、言葉で表現してしまうが、それは非常に説明的になってしまう。だからこそ、この演技付けには刺激を受けた。感情と行動(ト書き)を別ものとして、分離して想像するのではなく、しっかりと繋ぐ。そう考えると、自然にアクションをイメージすることができる気がする。講演にて演出について話を聞き、総じて、何かを表象するとき、そのアクションをゼロから作り出すのではなく、できごとやセリフによって影響を受けた際の“反応”により注目し、そこに出る人間味を掴んでいくことがより繊細で、納得のできる動きになるのだと考えた。

「怪物」では、どこか確実ではない人間の多様な面を丁寧にくみ取る演出によって印象的に描写することで、人物間で生まれる感情のずれや関係性のゆがみが際立っているのだと思った。それゆえに加害性と被害性の合間に垣間見える“怪物”の存在を感じられたのだと思う。

現在進行形で、映像制作を学んでいる学生として、映画撮影で必要とされる技術力や、経験値の以前に、人に向き合うという行為について改めて学ぶところが多い講演だった。是枝監督の作品を次回はより丁寧に人物を追いながら見返し、自身の映像制作への学びに繋げていきたい。

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