「動物ものまね芸」で笑いを届け、自然や動物を大切にする心、興味の扉を開くきっかけになりたい

演芸家 五代目 江戸家 猫八さん

2024/03/15

立教卒業生のWork & Life

OVERVIEW

ウグイスやカエル、秋の虫、アルパカ、フクロテナガザルなど、さまざまな動物の鳴き声を模写する芸で、演芸場やホール、テレビなどで活躍する五代目江戸家猫八さん。120年以上続く「江戸家」の伝統芸に加え、珍しい動物の鳴きまねと独特の語り口で、観客を笑いの渦に巻き込む。

五代目江戸家猫八襲名披露興行。上野の鈴本演芸場にて 撮影:橘蓮二

そんな猫八さんは、2009年に32歳で立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科に入学し、研究活動と芸人修行を両立させながら、11年に修了した。

30歳を過ぎて大学院に入学したのには、健康上の理由があった。「高校3年の時、まぶたが腫れる症状が続き、検査を受けたところ『ネフローゼ症候群』という診断が下りました。そこから治療を始め、症状の緩和と再発を繰り返しながら、12年間の闘病生活を送りました」と振り返る。30歳を迎えた頃から症状が安定してきた猫八さんは、父である四代目江戸家猫八さんを通じて、立教の21世紀社会デザイン研究科の存在を知った。

「父が当時、21世紀社会デザイン研究科で教壇に立っていた萩原なつ子教授(現 名誉教授)と知り合って、研究科の話を聞きました。高校卒でも学びたい意欲と研究テーマがあれば出願できると知り、社会人が7~8割を占めていた同研究科は、社会人経験のなかった私にとって、社会に出る前の準備の場としても魅力的に感じたのです」

猫八さんが設定した研究テーマは「患者会について」。

「友人が私とは違う難病を患っていたのですが、珍しい病気のため治療法が確立されておらず助成金もない状況でした。そこで患者さん数人が集まって『患者会』を立ち上げ、私はWebサイト制作などでお手伝いをしていました。治療に関わる研究を進展させるために患者が団結して研究者を支援するという組織構造が珍しく、この活動をきちんと残しておきたいと思ったのです」

大学院入試を受け、無事合格した猫八さんは、研究活動と、社会学をベースとした幅広い領域の学びに身を投じ、社会復帰へのステップを上り始めた。

大学院に通う道すがらカラオケ店で芸の練習

立教大学大学院時代。父の四代目江戸家猫八さん(左)と奄美大島で野鳥観察を行った時

大学院入学と同時期に、演芸家としてのキャリアもスタートさせる。父の四代目江戸家猫八さんの下に入門したのである。演芸家は公演などで全国を飛び回る仕事。難病を患ったこともあり、その道に進むことを諦めていた時期もあったという。しかし、症状が落ち着き、大学院に通うようになって「これくらい動いても大丈夫だ」という自信も出てきた。

「09年に父が四代目を襲名し、全国20数カ所で襲名披露公演を行いました。その際、関係者との連絡係やチラシ作成などを担当しつつ、可能な限り公演に同行。父の独演会では最後の10分くらい親子で共演していました」

父からは「芸さえできるようになれば、いつ舞台に立ってもいい」と言われていたという。しかし、自分が納得できる芸を習得するまで努力を重ねた。

「当時、指笛で鳴くウグイスはある程度できるようになっていたのですが、人前で芸として披露するにはまだまだでした。そこで父には内緒で、大学院に通いながら池袋のカラオケボックスで練習していたんです」

受け継がれてきた伝統を守りながら、自分ならではの芸を磨き続ける

演芸家としてターニングポイントになったのが動物園で働く人たちとの関わりだった。大学院で、萩原教授の研究活動を手伝っていた際にできたつながりが、猫八さんに新たな芸をもたらした。

「きっかけは、北海道の旭山動物園の元飼育員で、絵本作家のあべ弘士さんとの出会いでした。『本気で動物園の世界を勉強する気があるなら』と業界内で顔の広い方を紹介してくれて、全国の動物園で働く方との人脈が広がったのです。ご縁をいただいた各地の動物園を回って、珍しい動物も含めたいろいろな動物の鳴き声を学ばせてもらい、自分の芸風が定まっていきました」

大学院を修了した11年には、二代目江戸家小猫を襲名し、一人で舞台に立つようになる。父とも祖父とも異なる“真面目な”語り口と動物ものまねとのコントラストが面白いと好評を博した。それまで真面目な性格にコンプレックスを感じていた猫八さんだが、その自分らしさが何よりの武器になると舞台から教わったのだ。

16年に父の四代目江戸家猫八さんが66歳で亡くなったことも大きな転機となった。「この先も長く長く父が四代目として江戸家を引っ張ってくれる」と思っていた猫八さんに「自分が芸にしっかりと向き合わないといけない」という自覚をもたらしたという。そんな決意が表れたのか、17年から21年にかけて国立演芸場「花形演芸会」大賞をはじめ、さまざまなタイトルを立て続けに受賞。そして、23年3月に五代目を襲名した。

多くのことを学ばせてくれた動物と動物園に恩返ししたい

2023年の襲名披露興行で番頭を務めた「チーム猫八」。後列左から金原亭馬久さん、柳家小もんさん、鏡味仙成さん、柳家小はださん、春風亭一花さん

演芸活動の中で、立教人とのつながりを実感する機会も多いという。50日間にわたる五代目江戸家猫八襲名披露興行の際は、金原亭馬久さん(10年現代心理学部卒業)、春風亭一花さん(10年経済学部卒業)、柳家小はださん(15年コミュニティ福祉学部卒業)という3人の立教卒の落語家が、番頭としてサポートした。

※番頭:披露興行の際、主役となる芸人の代わりに楽屋周りのもろもろや、グッズの販売など一切の裏方業務を行う。

「以前から同窓のよしみで食事会をする仲でしたが、『襲名の際は、我ら3人で担ぎます』と言ってくれて。同門ではないのにハードな役回りを担ってくれました。大学院とはいえ、私が立教に通っていなければありえなかった関係なので、ご縁に感謝するばかりです」

そんな猫八さんに今後の目標を聞くと、次のように語ってくれた。

「この世界は山頂のない登山のようなものなので、一生、芸を磨き続けることですね。江戸家の伝統を守りつつ、祖父や父とは違った形で、いかに高みを目指していけるか。これは自分が追い求める第一のテーマです。もう一つは、多くのことを学ばせていただいた動物や動物園の方々への恩返しです。動物はかわいい、動物園は楽しい、その先にある動物の魅力、自然の大切さに目を向けてもらうという大きな使命があります。動物関連のイベントやシンポジウムによく出演させていただくのですが、動物園が大事にしたい思いに、私の芸が加わることで、より幅広い層にメッセージが届けられると感じています。演芸家としての技術や影響力を高め、動物園や自然環境の保全に貢献できるとうれしいですね」

プロフィール

PROFILE

五代目 江戸家 猫八

演芸家
2011年 大学院21世紀社会デザイン研究科修了

東京都出身。高校時代にネフローゼ症候群を患い、12年間の闘病生活を送る。09年、父・四代目江戸家猫八に入門。11年に二代目江戸家小猫を襲名。23年に五代目江戸家猫八を襲名。都内の寄席を中心に、全国各地での講演会や動物園イベントなどで幅広く活動中。19年国立演芸場「花形演芸会」大賞、20年浅草芸能大賞新人賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞など受賞歴多数。

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