2021/10/21 (THU)

オンライン・シンポジウム
「市民が作る・市民が使うアーカイブズ——アクセスをめぐる課題」を開催しました(2021年10月10日)

最近急に冷え込んできましたが、まだそれほど寒くなかった2021年10月10日(日)の午後、人びとの活動が生み出すアーカイブズへのアクセスに関するシンポジウムを開催いたしました。感染確認者数は減ったとはいえ、再び感染が拡大するおそれがないわけではありませんので、オンラインでの開催です。
今回は、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)法政大学大原社会問題研究所環境アーカイブズ公害資料館ネットワークにもご共催いただきました。参加者は25名ほどとやや少なめでしたので、濃密な議論ができたと思います。また、アーカイブズへのアクセスをめぐる問題というのは、じつは表に出しにくい話が実務担当者には非常に勉強になるという側面があることから、今回はセミクローズドで「言えるところまで言ってしまおう」ということにしました。その分ふつうのオープンなイベントでは聞きづらい話が聞けたように思います。一方で、ここに書けない話もたくさん出たのでした!

法政大学大原社会問題研究所環境アーカイブズで専門嘱託(アーキビスト)として勤務されている川田恭子さんからは、「市民運動の資料をどう公開していくか—環境アーカイブズ所蔵資料を事例として—」というタイトルでご報告いただきました。一見問題なさそうなミニコミや、裁判資料などに掲載されている個人識別情報についても、じつにきめ細やかな配慮をされている様子がよくわかるご報告でした。

現在は公益財団法人水島地域環境再生財団で研究員をされている林美帆さんからは、「大気汚染裁判の運動と資料公開」というテーマのお話を伺いました。とくに、裁判資料をオンラインで公開する場合に生じる様々な課題の指摘からは、「裁判自体は公開で行われている」から資料も公開、という理屈が通りにくくなっている現実が浮き彫りになりました。

エル・ライブラリー館長の谷合佳代子さんは、アーカイブズへのアクセスについて「エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)を例に」お話しくださいました。谷合さんのお話からは、ボランティア、アーキビストとライブラリアン、利用者、寄贈者が作り出す緊密なコミュニティの存在が感じられました。そして、なんとおもしろく興味深い所蔵資料!おもしろすぎる!——参加者一同画面に釘付けのご報告でした。もちろん詳細はここには書けません。

苦しみのなかで立ち上がりたたかった人びと。そういう人びとの名前を「個人識別情報」だからといってマスキングすべきなのか。その人びとの名前とすがたと言葉を記憶し続けることこそ、経験を受け継ぐことの重要な核なのではないかと思います。しかし、その一方で忘れたい人もいるはずです。そこにどうしても難しい問題があり、アーキビストは悩みます。しかし、優先されるべきは権利主体の意思であり、資料を所蔵する側のロジックではありません。

様々な法律の枠内できちんきちんと実務をするのが原則ではあるのですが、国家の理不尽に抵抗した人びとの記録の使い方が法律に縛られる、というところに私自身は疑問も感じています。もしかすると、みんなが納得できるみんなのルールがあれば、人びとの活動の記録はもっともっと活用できるのではないでしょうか。

例えば、作成者、資料保存・提供者、利用者の誰もが同意でき、誰の人権も侵さないような「市民の記録を活かすための共同宣言」のようなものをつくってみる。そしてそれに賛同できる人がどんどん署名できるようにして、いわば市民社会に支えられる形でこうしたアーカイブズの活用を図っていくことはできないものだろうか、と考えてしまうのです。ぜひ、ご一緒に考えていただければ幸いです。

また、このイベントの報告を、谷合さんがエル・ライブラリーのブログに書いてくださいました。ぜひ、ご覧ください!
「アーカイブズの公開をめぐる課題について考えるシンポに登壇しました」(2021年10月12日掲載)



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